見出し画像

【Report】ジンバブエ/田舎/教員養成単科大学 のICT教育現場の現状

JICA海外協力隊のコンピュータ技術隊員として任地に到着してからおよそ1ヶ月が経過した。大体の現状がわかってきたので、今回は2年間で改善したい課題を整理してみよう。

任地の概要

Madziwa Teachers Collegeという、教員養成の専門学校みたいなところに赴任した。

Madziwa Teachers College(マジワ教員養成校)
・小学校教員を養成する教員養成校
・公立(高等教育省>Zimbabwe University>Madziwa)
・教員スタッフは合わせて120名程度
・大学にいる学生数1000人程度(1年生と3年生。2年生は実習に出ている)
・学生の年齢層:18〜40歳程度
・2020〜2021年に先輩隊員の派遣実績あり。

この学校のICT課に配属され、ICT課のオフィスに出勤している。
ICT課の詳細は下記。

Department: Math and Science 
Section: ICT Section

・私以外に4名のLecturer(教員)と2名のICTスタッフ。
・教員の技術レベルは人によるが、それぞれ得意分野がありそう。ずっとICTを専門で勉強してきた人はいない。
・仕事内容:ICT専攻の生徒への授業、一般生徒への授業、その課題の採点、生徒の課題の印刷(他コースの印刷も含む)、ネットワークの管理復旧、コンピュータの管理復旧、その他学校のマネジメントのICT関連手伝い(入学申込書をWebサイトにあげるなど)、教員・学生のパソコンのトラブルシューティング。

ちなみに仕事時間は朝8時くらい〜18時くらい、途中休憩は10:00~10:30と12:15~13:30となっているらしいが、休み時間に学生対応が必要なこともありみんな適当に取っている。ので私も適当に取っている。先生は授業がなければ帰ったり、遅く来たりする。

全員がずっとオフィスで働いているわけではなく、授業がなければいなくなる人も多い。

私に期待されているのは、ざっくり、全体的なICT課と学校全体のICT環境の改善である。ボランティアなので、何をやってもいい。できることからちょっとずつ手伝っている感じ。

ICT環境の課題

ICT環境とはなんだろうか、と考えてみると、私のイメージはこんなピラミッドである。

パソコンは電源・インターネットがなければ動作せず、ソフトウェアはパソコンがなければ動かない。インフラが一番大事で、その上にハードウェア、ソフトウェアの順番で乗ってくる。

まずインフラがガッタガタなので、その上のことを考えていられない、というような世界のように感じる。今、予算を作成する時期らしく、各部署からほしい物リストを集めていたのを見た。みんなCorei5~7の良いパソコンを買いたがるけれど、そのパソコンはこの環境ではあまり意味がないよ、、?ということを伝えていかないとなあ、、というところである。

だが、このピラミッド、もちろん下に行けば行くほどハイコスト。金銭的にも技術的にも、なかなか改善が難しくなってくる。

ちなみに、ここの環境を考えると、その下にさらに生活環境、という基礎インフラが足りないので、ICTの前にもっとベースになるインフラに投資してほしい、という気持ちにはどうしてもなってしまっている。この辺りコンピュータ技術隊員としてどう伝えるかを考えたりしている。

この学校のICT環境の課題を、かなり簡単に縮小してまとめてみた図がこちら。

ICTインフラの下に生活環境というベースが追加される。

要は全部の段階でまだまだということになる。まず生活環境から良くないので当たり前と言えば当たり前である。

課題リスト

とりあえず、住み始めて1ヶ月で感じている諸問題を細かくリストアップしてみる。興味を持っていただける方はじっくり見ていただければ嬉しいが、時間がなければタイトルだけでも見ていただけたらと思う。

ネットが弱い、とにかく弱い

  • メインキャンパスのネットワーク状況

    • 人が少なければそれなりに速い(30Mbps程度出る時もある)

    • 昼間学生がいるとどこも遅くなる(〜5Mbps程度)
      プロバイダのモデムからは100Mbps程度確認できているので、メインルーターで落ちているか、他にボトルネックがあるのか。

    • WiFIアクセスポイントがよく落ちる
      古い(2014購入)、そろそろ限界か?
      (昨日雷で残り2個のうち1つが壊れた⇦NEW!!)
      新しく数台購入予定はあるらしい。

    • 1週間のうち、毎週2日程度停電があるが、停電すると本当にインターネットに何も通じない。森の奥のため、電話回線さえもゼロに等しい。
      停電してもAdmin office(偉い人がいる職員室的な建物)のネットワークだけ残すようにはできないのか。Adminにはソーラーがあり、停電しても電気はあるのに、停電すると学内全ての電波が落ちる。

  • メインキャンパス以外(教員寮/学生寮)

    • Nanostationという無線電波を送る装置で森の中を無理やり飛ばしているので、ネットがあっても遅い(〜5Mbps程度)
      教員寮・学生寮のどこかまで、光ファイバーを引きたい(けどこれはめっちゃ費用が高そうだし、たくさんいる猿に齧られそう)

    • 私の家には今、ネットがない(雷で壊れ、修理中だがいつ復活するかはわからない)ので、家に帰ると圏外。暗くなる前に帰ると、18時くらいには帰るので、そこから朝8時前に学校に着くまで圏外。

    • 1000人の学生が住む学生寮はほぼネットがない。壊れているか、一部に無料の遅いWIFIがあるのみ。
      ネットがあれば家でも勉強や課題ができるが、現状では不可能に近い。

使えるコンピュータの数が少ない

  • 全生徒1000名を超えるに対し、学生が使えるコンピュータは80台程度しかない。クラスの半分ずつで時間を分けて授業を行なっている。

  • RAMを2GBしか積んでいないコンピュータが15台程度ある(Windows10にはスペックが低すぎてまともに動かない/他のパソコンは4GB積んでいる)。

停電時にコンピュータールームに電気を供給しない

  • 停電するのはこの国なら仕方ないが、停電時、ICTの授業をコンピュータなしで行なっている。ジェネレータやソーラー給電システムの設置が望まれる。

  • 学生にはICTの課題を出しているが、停電にあたったクラスの学生は他の時間にやらなければならず、かなり提出が困難になる。

    *Admin officeという中央の建物にはソーラーの充電システムがあり、停電しても電気がある。

ICT教員の仕事の切り分けが多い

  • 学生の課題の印刷を教員が(お金をもらって)受けており、多いときは1日に数時間は印刷にかけている。本来は印刷は別の部署か何かを作って有料でも印刷サービスをおくべきであるが、教員たちの貴重な収入源であるため簡単に奪えない。

  • 他にも、学内のICTっぽい内容の仕事は全てICT教員が受けている。学生・教員のコンピュータのトラブルシューティング、ネットが切れたら直しに行き、プリンターが動かないとなれば呼ばれる。日本の大学であれば学情センターなどが別で置かれる仕組みになっているが、そういったものがない。

  • 教員以外の仕事が多すぎて、教員としての仕事に手が回っていない。(教員としてScratchを教えるのであれば、Sctarchの使い方をもっと学ぶ時間もいるよね、とか)

メンテナンスのための情報を文書化して残す習慣がない

  • LANケーブルのラベリングがされていない

  • 差し直したらどこに書くのか、どこかに書いて残すというマニュアルがあるけれど使われていない?

  • いろんな場所のIPアドレスが変更されているのにその情報が残っていない(いちいち調べないといけない)

Webサイトが古い

  • 内容が古い

  • Wordpressを扱える人がいない(私は前職で触っていたので役に立てそう)

  • サーバーが凄まじく遅い。サーバー会社がとてもあてにならない。

  • 細かいところがおかしい⇨徐々に修正中

    • 例)ロゴが横に伸びてしまっている⇨修正済み

    • 例)教員紹介の順番が違う⇨修正済み

学校のマーケティングができていない

  • 目的は学生のリクルートだが、今のところやる人がいない。

  • Facebookは有効そう(View数が多い)。アカウントもあるが、全然更新されていない。

  • Facebookの問い合わせを全無視している(誰も対応していないので)。

  • 一番気になる「学費」がどこにも書いていない。

    • 公立校のため、どんどん上がるジンバブエドルで払わないといけないので書けないらしい。

  • どういう戦略で進めればいいかわかっていない。
    ⇨田舎でじっくり勉強に集中できるところ。先生も真面目だよ。をもっと伝えていければよい?
    ⇨「学生の声」、「先生の声」や行事情報をもっと載せるとよいか。日本の大学のウェブサイトなど参考にしたい。

いろんなものが紙管理

  • 学生の成績

  • 図書の貸し出し

  • 物品の貸し出し

  • 物資の管理 など。

ICT教員/一般教員/学生(つまり全員)のITリテラシーが低い

  • ICT教員

    • ICTを勉強してきたわけではない(数学や物理化学の人が多い)

    • ICT教員でさえもピボットテーブル(Excel)は知らない

    • Scratchを学生にやらせているが、自分達も使い方がよくわかっていなさそう(勉強会をやるなど頑張ってはいるけど)

  • 一般教員

    • Excelの使用がままなっていない人もいる。カラムの幅を変えることもできない人も多い。

    • なんでもすぐにICT課に聞きにくる。ググるということを知らない。

  • 学生

    • 急に難しい課題を渡されて困っていそう(パソコンなんて触ったことない人にしたら急にエクセルでカレンダー作れ、はかなり難しい)

    • 学生がいろんなパスワードをすぐ忘れて、システムに入れないと騒ぐ

      • Student Portal(大学の学費払ったかどうか照会できるシステム)

      • Wifi(学内のWIFIを使うのにユーザーネームとパスワードが必要な仕様になっている)

そもそも教育省が目指すシラバスのレベルが高すぎる

  • Primary School用のシラバスの難易度が高く、実態にあっていない(小学校5年生で3Dモデリングの作成って書いてあって目を疑った)

  • ので、教員側の教育も追いついていない。

2年間での活動計画を作成中

これらを全て2年間で一人で解決するのは無理があると思うけれど、少しずつ改善したいなあと思う。仕事は山ほど作ることができそうで、どこまでやるか(それはどこまで勉強するか、ということも意味する)をこれから相談しながら2年間のプランを作成する。

具体的には、校長や副校長に適宜計画を見てもらう時間をとって了承を少しずつ得ながら、ICT課の同僚と計画を作っていきたいと思っている。課題が山積みすぎるのでどこから手を出すか迷い、とりあえず今は同僚と問題意識を擦り合わせたいと思って、重要性×緊急性の2軸マトリクスを作ってみているところ。

あと考えないといけないのは、私の技術レベルとかかる費用である。これならすぐできるけれど、これ以上は私にはすぐにはわからない、もしくはこれはお金がかからないがこの機材のリプレイスにはいくらかかる、、など、整理しないといけないことが山ほどあるように思われる。

今、ちょうど1ヶ月が経過したところで、水がないジンバブエ田舎生活に慣れながらこの計画を作成している。なかなか難しいが、同僚はみんないい人だし私がこれやりたい!といえばやらせてくれるような人たちなので救われている。みんなと英語でコミュニケーションが取れるのもありがたい。覚えたショナ語で冗談を言い合ったりもできるようになってきて、コミュニケーション面ではあまり困っていない。

計画を立てるのは単純にワクワクする。実際にどこまでできるかはわからないが、今のところはやれるところまでやりたいなあとは思っている。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

もしよろしければサポートお願いいたします。 いただいたサポートは新たな旅の資金とさせていただき、新しいnote記事のための経費とさせていただきます。