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「スワロウ」(ネタバレあります)

スワロウ、大好きでした。感想です。

異食症、ではないけれど、小さい頃わたしは10円玉を飲み込んでしまったことがあるらしいです。その後どうなったかは知りませんが、体の中からはもう出ているでしょう。それから、小学3年生くらいの時に好奇心からクリップを口に入れたことがあります。怖くて飲み込まなかったけれど、その記憶は鮮明に残っています。

スワロウは、Twitterでスリラー×フェミニズム映画だと見かけて興味をそそられました。スリラーとフェミニズムをどうかけ合わせるの!?と思って。映画館はほぼ満席でしたが、みんなは一体どこでこの映画を見つけて興味を持ったのかな。

あ、わたしはあまり血みどろになると怖くて目を背けてしまうのですが、これは大丈夫でした。

女性としての出来事が病気に繋がるところは「82年生まれ、キム•ジヨン」を彷彿とさせますね。あと、「こわれゆく女」のメイベルも思い出しました。どちらも数日間引きずった映画です。

本編の感想に入ります。ネタバレあります。

主人公のハンターは専業主婦。夫のリッチーをいつも家で待っています。日中のハンターは夫のために料理をして、掃除をして、テレビを見て、あとはスマホゲームをします。リッチーはハンターに「愛してる」と言いつつも、どこか見下していることは否めません。そんなどことなく現れる違和感は、ハンターが家から逃げるシーンで一気に明るみになります。「今より良い暮らしはできないぞ」、「俺の子どもを返せ」ーーこれが彼の本音でした。あーあ。そういえば、初めてハンターが心療内科にかかるシーンでは義父が「自分が出している金だから」と治療方針を勝手に決めようとします。この2人が話しかけるハンターを無視したり話を遮ったりするシーンもいくつかありました(とりあえず「愛してる」って言ったら良いってもんじゃないよ)。ハンターは彼らに心と金銭の支配をされていました。また、ハンターにとって妊娠は身体の支配でもあったのかもしれません。そして、看護師を雇ってからは行動の支配も追加されます。義両親と夫にとっては、「結婚した」ではなく「結婚してあげた」という意識が強かったみたいです。義母がそれを言うところが(良くないけど)良かったな。そんな風に元々高圧的な義両親と夫ですが、時折り感じたハンターの自己肯定感の低さや自己主張のなさも、その状態により簡単に陥らせたのではないでしょうか。低い自己肯定感×支配って負しか生み出さない。

ハンターの自己肯定感の低さはハンターの生い立ちが理由でしょうね。ハンターは実家を幸せな家庭だったと言いましたが、それは、自分にそう思い込ませているだけなのかと感じました。今ある家庭のこともそうです。ハンターは、今も昔も幸せなフリをしているのだなと。 (あ、「こわれゆく女」でも主人公と実母との確執を感じたな)

ハンターの異食症は、それらの孤独と支配のストレスから逃れるためでした。飲み込み、痛みを感じ、その先にあるのは快楽。それは(途中までは)排泄で取り出すことができ、ハンターはガラスケースに飲み込んだものを並べていきます。まるで勲章のようでした。それを見るハンターからは満足感や達成感が見受けられましたが、危ないよハンター……。そして、ハンターが飲み込んでいたのは異物だけではありません。彼女の本音もそうでしょう。そして積もり積もったものが最後のシーンに繋がります(後述!)。

ハンターが食事をしながらテレビを見る2つのシーンが好きでした。一つ目は家でスナック菓子を食べながら、二つ目は逃げ出した先で土を食べながら。どちらも、ハンターは食べるものに特に関心を示さず流れるように食べていきます。良いね。

後半、とても重要な役割を果たすのは、先ほど書いた看護師でした。彼はハンターを監視する役目で雇われましたが、最終的に彼女が逃げるための手助けをします。彼がシリアからアメリカに来たところと重なったのでしょうか。最初握手を拒んだハンターがベッドの下で看護師と手を重ね合ったところは見ているこっちの心まで解けていくようでした。彼がいてくれて良かった。

そして、ハンターは実の父と対面します。彼がハンターの母にしたことが世代を超えてハンターのトラウマにもなっていたことと、「家庭を壊しにきたのか」というセリフが、そのシーンでは辛くて仕方ありませんでした。それを超えてハンターは自分の存在を見つめ直すことができましたが、やっぱりわたしは実の父に何か引っかかってしまいます。なんだろう。答えが出たら追記するかもしれません。

そしてラストシーン。ハンターはショッピングモールで中絶薬を飲みます。ハンターはトイレに胎児を「排出」します。ここは母へのアンチテーゼであり、中絶を肯定しているとも感じました。ハンターはこの行為により全ての支配から解かれましたが、正直、わたしにはまだ分からないです。いつか子供を身篭った時にハンターを思い出すかもしれない。ただ、ピンヒールを脱いで、ハンバーガーを食べて、カジュアルなファッションに変わったハンターの表情はかなり良かったです。

余談ですが、薬で中絶するところが日本との違いだなと思いました。言葉で「堕す」とか「中絶」とかは出てこないので、一瞬何の薬か全く分かりませんでした。改めてちゃんと調べたら、60ヶ国以上が中絶薬を認可しているのですね。

そして、ハンターはトイレを出ます。その後もトイレにはたくさんの女性が出入りします。それが、そのままエンディングになって……。これが本当にね、良いね。良かったね。解放……。場所もファッションも良いんだわ……。ハンターが決めるのはカーテンの色だけではないのです……。ハンターはトロフィーワイフでも子どもを産むための女でもないのです……。

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Twitterで見る評判がめちゃくちゃ良かったのでかなり期待しながら観に行ったのですが、大成功でした。しばらくはこの感想を語り続けるかもしれません。わたしにはお互い何も言わなくても観る映画が被る友達がいるのですが、その子ももう観たかな。

ちなみに、その子と去年は「82年生まれ、キム•ジヨン」と「燃ゆる女の肖像」で盛り上がりました。一昨年は「サラブレッド」かな。今年はわたしが「ハスラーズ」をようやく観たのでそれも。うちらのシスターフッドも最高!って言い合ってます。

次のネイルはスワロウを意識してデザインしようと思います。読んでくれてありがとうございました。













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