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死の華

美しい花を見た。

密集して咲く、淡いオレンジ色の花。

それはきっと、キツネノカミソリだ。

ヒガンバナより先行して咲く死の華。

良く晴れた日の午後、僕はとある花屋の前に立っていた。

実際、目的はそこでは無かった。

しかし、南国風のセンスの良い外観に心奪われ、
思わず足を踏み入れていた。

店内は多種多様な植木に溢れ、
温室のように濃厚な植物の香りがする。

僕の知っている所で言うと、
フィカス・ウンベラータやガジュマル、モンステラやパキラなど、
形や大小さまざまである。

何より興味深いのはその植木鉢の種類豊富さで、
僕は小屋に残して来た観葉植物たちをいちいち想起してみた。

殊巨大に生長し過ぎたモンステラ二株をどうしたものかと思索に耽る。

どちらも、今にも植木鉢ごと倒れそうな危険性を孕む。

早々に植え替えを行わなかった僕が悪いと言えばそうなのだが、
しかし、これ以上大きくなられては困ると言う思惑もあった。

恰幅の良い女性店員が出て来て反射的に愛想笑いを浮かべたが、
彼女は思いの外クールでつんと澄ましたまま
「いらっしゃいませ」と言った。

僕は自らを阿呆のように思い彼女の無愛想に気を悪くするが、
しかし、
自分は彼女に何を求めていたのだろうと思い直し、
その滑稽さに今度は笑いが漏れた。

傍から見れば正真正銘の変人である。

慚愧に堪えず店内を早歩きで一周すると、
極まり悪くなって店を出た。

籐で出来た鉢カバーが素敵だと言う事だけは分かった。

さて、本日の主題へ戻ろう。

今日はそもそもペットショップへ猫缶を買いに来たのだ。

うちにはメメと言う女王猫が居て、かつおの猫缶をこよなく愛する。

僕の呼びかけに応じないくせに、
かつおが欲しいとにゃあにゃあ鳴き立てる。

それを無視した僕には左ストレートでお見舞いである。

まあ兎に角、可愛い奴なのだ。

キツネノカミソリを見つけて来たのも彼女で、
バックガーデンでバタバタやっているので何だろうと思って見てみると、
キツネノカミソリの群衆の中でセミと格闘しているのだった。

照り付ける午後の日差しの下に、
キツネノカミソリに囲まれたセミの死骸。

死の華の傍らには矢張り、死が転がっている。

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