AI時代の泳ぎ方⑲ 市場分析スキルについてⅡ 新市場開拓能力は、AIより人間優位?
今回は市場分析スキルⅡとして、新市場開拓の場合について考察します。
この場合、対応するマーケティングのリテラシーはかなり異なります。
一言で言えば、「それは市場化が可能か?」の判断が最も重要な意思決定となるので、それなりのロジックを要します。
重要な観点は「習慣化できるか」
新商品の場合、マーケティングの最初の目標は「認知と体験」ですが、新市場開拓の場合、さらに重要なのが「リピートがあるか、習慣化できるか」ということです。
大げさに言えば、課題も戦略もそこになります。
スタートアップに対して、投資家がもっとも重視するポイントと言ってもいいでしょう。
例えば、一時期高級食パン店が流行りましたが、今は退潮です。つまり、習慣化には壁があったと言えるでしょう。
今回は高級食パン店の習慣化の失敗について考察してみましょう。
高級食パン店退潮の真因
高級食パンの火付け役は、2013年セブンイレブンの「金の食パン」からブームは広がったと言われており、今も売られています。
また、2015年にバルミューダ株式会社から「ザ・トースター」という高級トースターが発売され、食パンを外側から加湿してしっとり美味しくいただくという機能がうけてロングセラーとなっています。
そして高級食パン店が誕生。その代表格として、「乃が美」が2013年に創業、フランチャイズシステムを利用して、2018年には100店舗を越え拡大していきました。
が、ここに来て競合を含め、閉店が相次いでいるという報道がなされています。
私が思うに、「食パンを美味しく食べたい。そのためには多少お金をはたいても良い」というニーズは消えたわけではないでしょう。
事実、「金の食パン」や「ザ・トースター」は売れ続けています。
では、「高級食パン店」はなぜ凋落したのか?
巷間、「フランチャイズで店舗数が増えすぎたから」とか「高級食パンは生製法がネックで日持ちが悪いから」などと言われていますが、その真因は「元々習慣化には無理があったから」というのが私の仮説です。
つまり、食パン🍞一斤を毎週1~2回店に来て買ってもらうという所にユーザーニーズとのズレがあったということです。
そもそも、食パン一斤は食業界全体で進んでいる個食化にフィットするものではありません。
一世帯が一斤を即日食べるわけではないので、保存の為に切ってラップして冷凍するという手間がかかります。
何より、毎朝食パンを食べるという習慣自体にいずれ飽きが来てしまいます。
特に中高所得層は食パンくらいしか買えない低所得層に比べ、浮気しやすい。惣菜パン、サンドイッチ、ヨーグルトサラダでOKなど
私もそうでしたが、思い切ってザ・トースターを購入したての頃は、それこそ、いかに美味しく食べるか色々工夫して、毎日のように食パンをトーストしていましたが、ほどなく飽きてしまい、その他のオプションとして、出来合いの総菜パンを買ったり、グラノーラと牛乳のみで済ませたり、今では分散しています。
食という業態は、「飽き」という人間のネイチャーとの戦いであり、何かブームが起きても、それは一過性ではないか?というマーケッターの冷徹な眼が問われるのです。
このことに着目すれば、「高級食パン店の需要がずっと続くという見立てには無理があるかもしれない」という仮説は当初からあったはずです。
しかし、これはあくまで仮説であって、本当にそうかどうかは、誰にもわかりません。(当然AIにもわからないでしょう)
そこで、実際のユーザーの意識や行動を調べることがマストになります。
つまり、新市場の開拓にあたっては、ユーザー・リサーチが極めて重要な役割を果たすのです。
習慣化を測るキークエスチョンとは
言うまでもなく、リサーチの主目的、すなわち、キークエスチョンは、全く新しい自商品やサービスをリピートして使ってくれるか否か、言い換えれば、新しい習慣をつくってくれるか否かです。
なので、リサーチ項目としては、通常の商品受容性チェックに加えて
・継続使用意向や頻度とその理由
・使用シーンとのその理由
・既存代替品との比較とその理由
を聞いていきます。
また、分析にあたっての重要な視点は、その理由や背景分析を以下の観点で行うことです。
1.その商品・サービスは、ユーザーのライフスタイルや日常行動に本当に必要なのか。フィットするのか(行動パターンの分析)
2.その商品・サービスは、ユーザーの価値観にフィットするのか、好意を抱かれているのか(心理的要因)
これらをしっかり分析し、仮説を検証していきます。
また、分析を通じて、全てのターゲットに使ってもらうと言うより、いくつかのセグメントに分け、メインターゲットを定め、そのペルソナを細かく規定するという作業が必要になります。
つまり、最も習慣化してくれそうなターゲットを洗い出し、そこに照準を合わせたマーケティングを展開するのです。
大局的な観点で言えば、既存市場の場合、「市場や競合を見よ」と言いましたが、新市場の場合は、「顧客対自社商品にフォーカスして見る」ことに重点を置きます。
絶えずPDCAする
さらに、これをリサーチで何度も検証することが求められます。ユーザーの心は移ろいやすいからです。
実際、私の食パントースト習慣も脆弱でした。
高級食パン店の生き残り対策で言えば、思いつきですが、例えば、一斤ではなく、2~3枚売りや食パンを使った総菜パンの開発など、マーチャンダイジングへの工夫が挙げられるでしょう。
しかしながら、一端ブランドを高級食パンにフォーカスして設定した以上、限界があるのは否めません。それだけに最初の新商品コンセプトの重要性が問われるのです。
新市場開発におけるAIの役割はあまりない
このブログの主題でもある企画に生成AIをどう活用していくかというアプローチに関してですが、原則論で言えば、私はあまり余地がないと考えます。
思い出していただきたいのは、AIと人間の持つ知のスタンスの違いです。それは、AIは既知、人間はローカル知で共創しようということでした。
そして、新市場開拓は、未知の分野ですから、自分たちが創造する知=ローカルだけど新しい知が重要ということになります。
なので、AIから示唆を受ける部分は少ないだろうということです。
先述のように、新たな知として、リサーチ情報を元にした、初期顧客のリスポンスが超重要ということであり、これはローカルデータの役割が大きく、その判断も人間が中心になって行う分野だからです。
例えば、今回、この高級食パン店の行方をAIに考えてもらおうとプロンプトを考えようと思ってはみたのですが、やはり得るものがあまないと思い至りました。
もちろん、独自に実施したリサーチデータをAIに詳しく分析させて、より正確な意思決定に活用するということはできますが、初動はあくまで、リサーチ結果に基づく我々人間の仮説構築になります。
「んっ?まだまだAIにはできない人間の能力があるではないか!」
全ての仕事がAIに奪われていくということが言われる中、個人的には、なんか救われる思いがしました。
皆さんはどう考えますか?
以上、今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?