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「なぜブシロードの広告は多いのか」 木谷高明氏ロングインタビュー第2回

2007年設立、2019年7月に東京証券取引所マザーズ市場に上場と、破竹の勢いで成長するエンタテイメント企業ブシロード。その創業者・木谷高明氏に、昨年12月に日経COMEMOの場で1時間半にわたる公開インタビューを敢行しました。
そのトークの内容を、3回にわたりお届けるインタビュー記事の第2回です。

前回は「ブシロードの誕生と成長」について伺っていますが、今回はビジネスの極意と、木谷氏のプロデューサー論に迫ります。

■“トレーディングカード”と“プロレス”にあったビジネスチャンス

数土直志(以下、数土) 2007年にブシロードを立ち上げた時に、なぜトレーディングカードゲームからビジネスをスタートしたのですか?

木谷高明氏(以下、木谷) 簡単です。2007年当時、トレーディングカードゲームにビジネスの可能性があると信じていたからです。

数土 2006年の日本のトレーディングカードゲームの市場は400億円しかありませんでした。停滞感が強く、滅びゆくカルチャーだと思われかねない状況でした。

木谷 400億円はユーザーマーケットの金額ですから、出荷高で言えば250億円くらいですね。そこに『遊戯王』や『ポケモン』と強力なプレーヤーがいましたが、そこにあえて入っていきました。
ただその頃はビジネスプレーヤーの数は少ないし、商品リリースも少なかった。2005年ぐらいにカードゲーム専門店と「今月は新作ないっすよね」って話していたんです。要するに新しいカードゲームがない。追加すらない。ということはここにビジネスの可能性があるわけです。
最初に出した『ヴァイスシュヴァルツ』は、それまでにない作品ごとにブースターセットを売るカードゲームでした。作品ごとにデッキを組めばいいと考えたんです。これまでのカードゲームは継続して買わなければダメでしたが、単体で買ってもいいように変えたんです。買いやすくなることで、リリース数も増やすことが出来ます。今では当たり前ですが、当時の業界では発明でした。

数土 実際にブシロードが参入した翌々年くらいから急に市場は成長を始め、2018年でいうと市場は1100億円くらいです。
先見性では、プロレスにも繋がっています。プロレスも2012年の新日本プロレス買収時は、深夜以外のテレビ中継は無くなり、滅びゆく文化に見えたかもしれません。その売上高がいま50億円です。

木谷 2019年7月期で54億円です。子会社化した時が10億円ちょうどでしたから5倍以上になりました。お客さんの人数も当時は10万人だったものが、今期(2020年7月期)は45万人くらいになると思います。*
*インタビューの実施は2019年12月時点

数土 新たなファンは、どこにいたのですか?

木谷 感覚的ですが、戻ってきたかたが半分、新規のかたが半分でしょう。30代、40代が多くて、50代もいます。20代の若い人は女性の方が多いかな。
日本でプロレスに一番お客さん入ったのは1990年代なんです。もしかしたら50、60万人いたかもしれません。90年代に客が入ったのは、プロレスは88、89年くらいまでゴールデンタイムでテレビ放送していたからです。80年代前半は20%の視聴率を取っていたので、毎週2000万人が見ていた。中学校、高校でプロレスが会話になるわけです。その時小、中、高校生だった人が、90年代になって大学生、社会人になってお金払って見に行くようになったんです。ところがプロレス業界は動員数が増えているから、テレビが深夜枠になっても、新規客や子どもに対するアプローチをしなかったんです。そこを「K-1」や「PRIDE」といった総合格闘技に攻められ、だんだん沈んでいった歴史です。80年代にテレビを観ていた30代、40代を取り戻せればお客さん増えますよね。

■今後のアニメは短く、そして長くなっていく 

数土 世代の話がでましたが、エンタテイメントビジネスで“世代”を軸にした考え方は重要ですか?

木谷 日本のエンタメ・コンテンツビジネスの根本的な問題はそこにあります。新しいことを仕掛ける時に人口構成が凄く不利な状況になっています。人間は年を取ると、新しいことやりにくくなる。団塊の世代が毎年250万人、45歳から50歳の団塊の世代の子供たちが200万人。ところが去年生まれた新生児は92万人です。半分以下。新しいものに飛びつくのは若い人ですから、新しいものを立ち上げるのは難しい時代になっています。

数土 マーケットが小さくなっているわけですね。

木谷 もう一つ新しいものを立ち上げるのが難しい理由は、テレビの影響力が落ちていることです。こっちの方が、影響は大きいですね。テレビは放っておいても情報が入ってくる受け身型ですが、ネットは自分で取りに行くものです。人は知らないものを取りに行くことはほぼないですよね? コンテンツビジネスで新規に立ち上げるのは至難の技ですよ。

数土 新規で立ち上げるのが難しいのであれば、人気IPのライセンスを受けてビジネスにすることも出来ますが、ブシロードは次々に自分達で新規コンテンツを立ち上げています。

木谷 大きなIPを借りる実力がまだないからですよ。うちより大きな会社が先に持っていきますから。

数土 多角的なノウハウを持つブシロードと組めば、自社のIPがもっと伸びると考える会社はありませんか?

木谷 向こうから一緒にやりたいと言ってくれればですね。こっちからはあまり積極的にいきません。うちがプライズ商品をやったりとか、海外に拠点作って越境ECやったり、海外の会社と組んだりといった多角的にやるのは、自分たちでエンタメの商社的な機能を持っていたいからです。

数土 多角化では、2019年に『BanG Dream!』の劇場映画の配給をブシロード自身でやられました。『BanG Dream!』の人気でいえば、大きな配給会社でさらに大きな興行収入を目指すことも出来たのでは?

木谷 いや、出来ないですね。いまの映画宣伝は古いんです。それと劇場と直接やれば、配給手数料を他社に払う必要がありません。もうひとつアニメのフォーマットの変化も考えています。いまの30分刻みで番組を作るアニメのフォーマットは、戦後テレビが普及した時に生まれたんです。80年前、90年前のアニメは、ミニアニメと劇場アニメしかなかったんですよ。今後3年間ぐらいでこれが間違いなく先祖返りします。テレビの影響力がもっと下がった時に30分のフォーマットに意味があるんですか?

数土 テレビの30分は、ひょっとしたら人に心地いいから開発されたとも考えられます。

木谷 便利だったとは思います。心地もよかった。でも、小刻みに動画をみる時代には30分は長いですよね。劇場でゆっくり座ってみるんだったら、もっと長くて70分から90分ぐらいが一番いい。これからは30分フォーマットが徐々に崩れて、ミニアニメと劇場映画が増えると2年前ぐらいから言っています。
今までのアニメビジネスは、テレビで観た後にパッケージ(DVD/Bluray)を売るものでしたが、これからはこれが難しくなります。
一方でいま1話3500万円かかるアニメいっぱいあるわけです。3話で1億500万。劇場映画やOVAと同じ制作費をかけるなら劇場というアナログな空間でイベントにすればいい。テレビ放送より先に観たい人もいるし、仲間と一緒に行きたい人もいる。行けばグッズも買える。これからは劇場OVAが増えると思っています。そこで自社タイトルだけでなく他社の作品もやってもいいし、中国企業のアニメもいいと思います。そのためには劇場との直取引を増やしたいんです。

数土 直接取引のビジネスは、ブシロードが広告マーケティングを自分でやるとの強い意志を感じます。

木谷 それは僕がそれを好きだからですね。

■なぜブシロードの広告は多く目にするのか

数土 前期の売上高が321億円、広告費が60億円です。ブシロードの交通広告はとてもよく目にしますし、テレビの露出もすごいです。広告の量を増やすことでどういう効果を狙っていますか?

木谷 これに販促費を足すと全部で70数億円ですね。これは連結全体なので、ブシロード単体では売上げが220億円で広告宣伝費が45億円ぐらい、25%くらいです。普通の会社は売り上げに対して大体5%から10%ですから他社の3、4倍は使っています。
うちはまだ小さい会社ですが、1000億円企業と同じだけ広告宣伝費使っているわけです。大きな会社と伍してやっていくためと認識しています。あと実は広告枠の購入費が他社より安いです。例えば「電車の中になんであんなに広告を打てるのか」って思うじゃないですか? 定価で買っているものはあまりありません。

数土 先ほど1000億円企業と同じレベルって話されましたけど、購入価格と合わせた広告露出量の実態はもっと大きいわけですね。

木谷 1500億円企業と同じくらいは打っていると思います。しかもハウスエージェンシーを持っていて、そこで直接取引する部分を増やしています。だからコストが安いんですよ。なぜ割安な枠を案内されるかと言えば、クイックレスポンスするからです。案内されるとすぐ返事をする。そうすると案内が来るようになるんですよ。「明後日入稿です」みたいな案件が来ますから。とりあえず買って、何の広告にするかは後で決めます。

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■木谷高明のプロデューサー論

数土 経営者とプロデューサーは、違うものでしょうか? 木谷さんは両方やられています。

木谷 経営者とプロデューサーは、かなり似ています。ほぼ同じと言っていいです。大事なのはコンセプトメイクで、構想力が大事。未来を語れない経営者には誰もついていきません。たとえばみんなの前で話す時に、原稿を読んでいたらその時点でアウトでしょう。

数土 でもそうしたかたは、多いですよね。

木谷 だからダメなんだと思うんです。今年(2019年)の株主総会の時に、「想定問答集を作って」と言われたんです。想定問答集って作るものかなって思ったので、「俺作らないから」と言いました。数字は不正確だったら困るのでそれは集めますが、それ以外の自分の担当の質問は全部見なくても答えられるから作らなかったわけです。

数土 エンタメビジネスに向いているのは、どういう人だと思われますか?

木谷 どのレイヤー(段階)に向いているかで、かなり違います。起業するとか、一発デカい作品を作るプロデューサーだったら、圧倒的にパッション(情熱)が必要ですね。でも経験も必要です

数土 どういった経験ですか?

木谷 作品作りですけど、どんな経験でもいいです。成功も失敗もしていないと、説得力がないからみんながついて来ないですよ。一流のプロデューサーは20代からは出ないと思います。35歳にはなっていないと説得力がないんです。この人だったら一緒に張れると思わせる実績とパッションがないと。

数土 クリエイティブのすごくある人と、ビジネスセンスがある人、もちろん両方あればいいんですけれど。どちらかしかない場合は、木谷さんだったらどちらを社長にしますか?

木谷 ビジネスのセンスですね。ビジネスのセンスがないと会社を潰しますよ。どっちを採用するかなら両方採用したいです。
僕は自分をクリエイターと思っていますけど、プロデューサーとクリエイターだったら、8:2ぐらいでプロデューサーのほうが多いと思います。原案は作りますけど、原作は作らないです。クリエイターやどこの会社と組むか決めたら、「後はよろしく」って進行管理しているだけです。プロデューサーで一番大事なのは人間力ですよね。

数土 人間力とは具体的にはどういう能力なんですか?

木谷 クリエイターの苦しみとか悩みを共有して、「俺が手伝ってやる」と言えることです。相手から信頼を得て、「お任せします」という言葉を引き出せるかですね。
世間での僕の評価はわからないけれど、2社目のブシロード立ち上げたのが大きいです。前の会社の後半はしんどいところも多かったけれど、それを見ている人はよくあそこから復活したなと思うわけです。16、7年前ぐらいに絶対に逃げないって決めたんです。2003年ぐらいは土日はベッドから起き上がれないくらいしんどかったんですよ。でも平日は必ず朝9時までに起きて、一切休まなかった。
僕はしんどそうな顔している人には「前向かないと」とアドバイスするんです。「弱っていると思っていても、背中を見せたらダメだよ」と。じゃないとラッキーが飛んできても捕まえられないですよ。人間はなかなかうまくいかない時もあるから、その時は前向いたまま下がればいいんですよ。そうしたら、また風向きも変わるかもしれない。

第3回に続く

そして第1回の振り返りはこちらで!


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