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アニメ制作会社と映像メーカーが一体化、サンライズとバンダイビジュアルの選択

■5社を2社に集約、バンダイナムコグループのアニメ事業新戦略

2021年10月19日に、バンダイナムコグループがIPプロデュースユニットの事業再編を発表しました。IPプロデュースと言うと判りにくいですが、つまりはアニメを中心にキャラクターやライセンスを含めたビジネス部門です。
この主要企業である『ガンダム』でお馴染みのサンライズ、DVD・ブルーレイ・アニメ音楽のバンダイナムコアーツ、それに配信のバンダイナムコライツマーケティング、イベントのバンダイナムコライブクリエイティブ、さらにサンライズミュージックと5つの会社を2つの新会社に集約します。

サンライズが存続会社となる映像事業新会社がひとつ、アニメ事業会社と言ってもいいでしょう。もうひとつはバンダイナムコアーツを中心とした音楽とライブエンタテイメントの新会社です。
いくつもの会社を組み合わせた集約・再編は、バンダイナムコグループにとっての大勝負に見えます。

5つの企業の行方はこんなかたちです
○サンライズ(アニメ制作)→ 映像事業の存続会社 →(社名変更)
○バンダイナムコライツマーケティング(配信)→ 映像事業会社が吸収統合 →(消滅)
○バンダイナムコアーツ(映像ソフト・音楽)
  音楽ライブ部門→音楽ライブ事業の存続会社 →(社名変更)
  映像ソフト部門→映像事業会社が吸収
○バンダイナムコライブクリエイティブ(ライブエンタメ)→ 音楽ライブ事業会社が吸収統合 →(消滅)
○サンライズミュージック(音楽)→ 音楽ライブ事業会社が吸収統合→(消滅)

■ランティスからサンライズへ、パートナーが入れ替わった(旧)バンダイビジュアル

なかでも注目されるのは、バンダイナムコアーツの取り扱いです。同社は映像事業を分割し、サンライズと統合します。残った音楽ライブ部門が新会社です。
もともとバンダイナムコアーツは、2018年4月にアニメ・映画の映像ソフトメーカーのバンダイビジュアルと音楽会社のランティスが統合して誕生しました。映像ソフトと音楽ソフトの相乗効果を狙ったものでした。
ところがそれからわずか4年で再び両部門を切り離し、旧バンダイビジュアル部分が今度はサンライズと統合することになります。

バンダイビジュアルとランティスの統合は「映像」と「音楽」、いわばジャンルの拡大、つまり横展開でした。それに対してサンライズと旧バンダイビジュアルの統合は、「アニメ制作」と「アニメ流通・配給」の縦方向の展開です。

あまりにも早い方針転換ですが、これはアニメを取り巻くビジネス構造が業界関係者が思った以上のスピードで変化していることに理由がありそうです。なかでも映像ソフト市場の急激な縮小と配信ビジネスの急成長があります。

バンダイナムコアーツの映像事業の近年の業績はかなり安定しています。映像ソフトの売上はアニプレックスと首位を争うツートップですし、「ガンダム」、「コードギアス」、「ラブライブ!」、「ガールズ&パンツァー」、「宇宙戦艦ヤマト」といったヒット作も多いです。それでも中長期的にみれば、経営には不透明感が漂っています。

■配信時代に映像ソフトメーカーが進むべき道

それがDVD・ブルーレイの市場が急激に縮小していることです。急成長する配信事業に進出することも可能ですが、グループ内にはすでに配信会社バンダイナムコライツマーケティングあります。何よりも配信ビジネスには国内外の巨大なプラットフォームが群雄割拠し、自前の配信ビジネスは厳しい競争に晒されています。
そうであればアニメ製作のマネジメントを握ることで、配信権やその他のライセンス管理をする製作・企画会社に事業の軸を動かすことが合理的です。

しかし企画会社化を目指すのは、映像ソフトメーカーに限りません。アニメビジネスの利益の大半が配信権やゲーム化権といったライセンス運営から生まれる現在、放送局や映画会社、あるいはゲーム・IT会社も同じ戦略を取りつつあります。
大手アニメーション制作会社には、自らが企画会社に変ろうとする動きもあります。サンライズも同様です。現在サンライズはアニメーション制作会社でなく、IP創出企業を掲げています。自ら権利を運用することを目指しているわけです。バンダイナムコアーツとサンライズは同じ事業で競合しているわけです。経営統合は、こうしたグループ内の事業競合を解消します。

サンライズにとっても統合のメリットは大きいです。もとが制作スタジオであるだけにサンライズが創出できるIPはグループの制作会社の作品に限られていました。バンダイナムコピクチャーズやSUNRISE BEYONDなどのスタジオを設立し、制作ラインを拡大してきた背景に、IP創出の機会を増やす目的があったはずです。しかしここからさらに自社制作ラインを拡大するのは、人材不足もあり難しいはずです。
バンダイナムコアーツは製作委員会の中心的な役割を果たしてきたので、多くのアニメスタジオとビジネスをしています。外部からIPを取り込むのに問題ありません。

■アニメ映像事業の川上から川下まで、全てが揃う新会社

重複事業の統合だけでなく、サンライズとバンダイナムコアーツの映像事業部門は相互補完が大きいのも特徴です。両社が重なることで、企画・製作・制作・流通・配信・配給・販売・ライセンスマネジメントの全ての機能が一社で揃います。アニメ業界でも稀有な川上から川下までが、強力な陣営で並びます。

映像ソフトメーカーと制作会社の垂直統合は、実はここ何年かのアニメ業界のトレンドです。キングレコードがポリゴンピクチュアズに出資、エイベックスがFLAGSHIP LINEを設立、KADOKAWAはStudio KADANを設立しキネマシトラスに出資もします。
激動するアニメ業界のなかの生き残り戦略が、「製作と制作の垂直統合」というわけです。
垂直統合の一足早い取り組みが、アニプレックスが2005年に設立したA-1 Picturesだったかもしれません。2018年にはA-1 PicturesからスピンオフするかたちでCloverWorkも誕生しています。

しかしこうした垂直統合の多くは、いわゆる製作側(出資側)によるアニメーション制作会社の囲い込みの側面があります。
一方で今回のサンライズとバンダイナムコアーツの統合は、映像ソフトメーカーがというよりも製作と制作の対等な融合。スタジオ側の果たす役割も大きく映ります。そうした意味で新しいかたちのアニメ総合企業です。それだけにこの映像新会社が今後どのような戦略でアニメビジネスに進んでいくのかは目が離せません。

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