見出し画像

2019年にTVアニメ制作が大幅減少、理由を考える

[2019年、TVアニメ制作が前年比大幅減]

2020年11月に日本動画協会が刊行した「アニメ産業レポート2020」によると、19年のTVアニメの制作本数は18年に較べて大幅に減少しました。
19年の制作タイトル数は314本、前年の350本より36本減少です。15年の361本、16年352本から3年連続の減少でもあります。

TVアニメシリーズは各話1分程度や30分枠まで長さは様々で、必ずしもタイトル数から制作現場の稼働は分かりません。そこで日本動画協会は、制作分数でも動向を発表しています。こちらは19年が10万7006分の制作、18年の13万347分と較べて18%もの減少、さらに過去7年で最も低い水準です。

これは2019年のアニメ業界動向で見逃されがちな事実です。なぜなら昨年の「アニメ産業レポート」のサプライズは、アニメ産業市場の前年比15%増、過去最高の大幅更新だからです。アニメ制作会社の売上げを集計したアニメ産業市場も過去最高で初めて3000億円を超えました。
アニメ市場、アニメ業界市場が拡大しているのに、なぜTVアニメの制作が減少しているのでしょうか? これは一時的な減少なのか、それとも中長期のトレンドなのでしょうか?

[中国で全話事前審査の導入の影響?]

2019年の特別な理由として、「アニメ産業レポート」は中国ファクターを指摘しています。中国当局が配信会社による随時独自審査のアニメ配信を、当局による全話事前審査に切り替えたためです。

日本アニメはこれまで、放送を続けながら同時並行でその後のエピソードを制作していました。しかしいまや中国は市場として無視できず、中国と日本の同時展開を維持する必要があります。
そこで日本の放送を後ろにずらすことで全話完成納品をし、当初は19年放送としていた作品を20年以降に放送に先送りしたといいます。

これは19年の大きな落ち込みは説明できますが、過去数年間の減少トレンドは充分説明しきれません。

[劇場上映、配信オリジナルが好まれる訳]

もうひとつの要因は劇場映画です。これまでならTVアニメとなった作品が、映画として制作・上映されるケースが増えています。映画1本で完結せずに3部作とか4部作とシリーズになる作品がこれに当たります。
2019年では『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]』、『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』、『LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘』、『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱』、『蒼穹のファフナー THE BEYOND』などです。実際に、19年の劇場タイトル数は過去最高の91本、23%増です。

配信オリジナルアニメの増加もあります。Netflixの独占性の高いオリジナルアニメも19年から本格しています。テレビでなく、配信をファーストウィンドウに選ぶことが増え始めています。

劇場、配信への移行は、深夜アニメのビジネスモデルが崩れているためです。制作費の急激な上昇もあり、深夜放送で作品の認知を高めてBlu-rayやDVDの売上で投資資金と利益のほとんどを回収する従来のやり方は現在ほとんど不可能です。
であればチケット代が取れる劇場映画や、放送自体に売上がある配信にファーストウィンドウが向かいます。

[再考迫られるアニメ作品の分類方法]

こうした状況はアニメの分類にも再考を迫ります。劇場アニメとOVA、テレビアニメと配信アニメはますます融合し、区別することは難しく、その意味もなくなってきます。
海外ではアヌシー国際アニメーション映画祭がここ数年、コンペティション部門のテレビ部門をシリーズ部門と読み替え、配信オリジナルアニメを対象にしています。エミー賞やアニー賞も同様です。
近い将来、アニメは、「劇場映画」「テレビ」「ビデオソフト」「配信」といった流通メディアでなく、長さとフォーマットを基準に「長編」「短編」「シリーズ」と単純に区分されていくでしょう。そうなれば「アニメ産業レポート」の分類も再検討を強いられるかもしれません。

それでもTVアニメの減少が、今後も続く大きなトレンドかは、もう少し見極めたいところです。本来は2020年の数字でさらに検討するところでした。
しかし20年は新型コロナ感染症の影響でTVアニメ制作、納品の遅れ、延期が多発しました。この影響による前年からの減少が濃厚で、18年、19年との単純な比較は難しいでしょう。全体のトレンドは、今年21年の数字で確かめることになりそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?