見出し画像

富野由悠季から高畑勲まで、展覧会におけるアニメ監督

現在は社会的状況もあり、休館や延期も相次いでいますが、近年、アニメファンにとって重要なイベントのひとつが、美術館や博物館で行われる企画展覧会です。様々なテーマを切り口に、作品が完成に至るまでを設定やイメージボード、原画、セル画、背景美術などの展示で紹介します。作品の制作過程やテーマを追えるだけでなく、絵自体の楽しさも堪能できるのがアニメならです。

一昔前までアニメは、ファインアートやクラシック、伝統芸能より一段したと見られがちでした。しかし美術館や博物館の展覧会だけを見ていれば、少なくともここでは現代日本の多様な文化の一翼を担っているようです。
2017年には国立新美樹館で「新海誠展 「ほしのこえ」から「君の名は。」まで」、2019年には国立近代美術館で「高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」が実施されています。2020年もマンガ・アニメ・ゲーム・特撮をテーマに「MANGA都市TOKYO」が国立新美樹館で予定。アニメ関連の企画展は、いまや国立美術館にまで進出するほどです。

そうしたなかで、2019年に僕がとりわけ印象に残った展覧会が、「高畑勲展」、そして兵庫県立美術館で観た「富野由悠季の世界」展です。
このふたつは面白いところに、共通点があります。いずれもアニメーション監督をテーマにしており、しかも二人ともアニメーター出身ではなく、絵を描かない監督です。絵を描かない人物をテーマに美術展が成り立つのはちょっと面白いなと思いました。

調べてみると、アニメがテーマの展覧会には監督を切り口にしたものが少なくありません。先の「新海誠展」もそうですし、2018年の「未来のミライ展~時を越える細田守の世界」、2019年の「河森正治EXPO」もそうでしょう。アニメーターや美術監督、メカデザイナー、キャラクターデザイナーがテーマのこともあります。
実写映画に較べると、アニメでは段違いに制作スタッフや制作スタジオにフォーカスすることが多いのです。監督やアニメーター、デザイナーといった作り手への関心が前提にあるのでしょう。絵を描かない監督の展覧会はその象徴で、アニメ作品には作家性が求められているのかもしれません。

『君の名は。』や『天気の子』を監督である新海誠と結びつけたメディアの記事は多く、人々の記憶とも深く結びついてます。ところが実写映画では、大ヒット作でも監督の名前が広く認知されることが多くないように感じます。むしろ記憶に残るのは主演男優・女優の名前です。
アニメはスタッフの名前が深く刻まれる点で、古い実写映画とよく似ています。監督とそれを支えるチームが映像を作る古い映画の伝統は、いまはアニメに受け継がれていると思うことがあります。

こうした日本アニメのスタッフフォーカスは、海外とも異なります。海外のアニメーション展覧会では、特定のジャンルやスタジオ、作品をピックアップすることが大半です。監督やアニメーターにフォーカスするのはあまり聞いたことがありません。近年で印象に残っているのは、ロサンゼルス・カウンティ美術館をスタートに巡回したティム・バートン展くらいでしょうか。

逆に面白い現象も起きています。2020年末にロサンゼルスのハリウッド地区に鳴り物入りでオープンするアカデミー博物館のこけら落としは、「宮崎駿」展なのです。作り手と作品のイメージが強く結びついた日本アニメの独特の立ち位置がここでも透けて見えないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?