ヤマト再入門

「宇宙戦艦ヤマト」再入門講座でみる‐アニメ文化継承の挑戦-

9月12日、東京・日比谷のHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEにて、「アニメ再入門講座 第1回 宇宙戦艦ヤマト」が開催されました。『宇宙戦艦ヤマト2199』総監督の出渕裕さん、アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)研究員・辻壮一さんが出演し、『宇宙戦艦ヤマト』を振り返るものです。
当日は1974年放送の『宇宙戦艦ヤマト』第1話を全員で鑑賞。その後に出演者ふたりが登壇しました。
放送当初からファンだったふたりの愛と情熱溢れる話は、たびたび脱線しそうになるのを、何度も引き戻しつつ。全26話がどう構成されているか、第1話の組み立てがいかに優れているかなど、『宇宙戦艦ヤマト』をよく知る人にも、若い世代にも興味深かったはずです。

話題は60年代から70年代のアニメ・特撮文化全体にも広がります。出渕監督は、当時夕方帯に再放送が多く、それが作品人気に大きな役割を果たしたことを解説。実は自身も第1話はリアルタイム放送を観ていなかったことを明かす場面もありました。
また『宇宙戦艦ヤマト』が同時代の様々なカルチャーから影響を受けたことも指摘。洋画の『ナバロンの要塞』やスポ根アニメブーム、『ハレンチ学園』のスカートめくりまで。作品は単独で生まれた訳でないことが理解できます。『宇宙戦艦ヤマト』もまた、その後の『機動戦士ガンダム』などの次世代につながっていくわけです。

参加者は、木曜日の夜の楽しいひと時をきっと過ごしたと思いますが、ここで注目したいのは、この企画がなぜ実現したかです。2時間たっぷりのイベトが無料であった理由です。
今回のイベントは、日比谷ブロードウェイ大学と特定非営利活動法人 アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)の協力によって実施されています。

ATACは、映画監督の庵野秀明さんらが中心となり、2017年に設立されました。日本アニメ・特撮文化の記録・保存と継承を目的とします。
日本のポップカルチャーは、国内外でいまとても注目されますが、一方でその作品や資料の散逸が急速に進んでいます。ATACはそれらを集め、保全を目指します。

エンタテイメントはビジネスの側面が強く、常に新しい動向に目が向きがちです。またポップカルチャー(大衆文化)は、大衆向けであることから沢山作られて、何でも多く残っていると思われがちです。
しかし逆にそう思われることで、きちんとした保存のシステムがなく、驚くほど短期間に作品や資料が失われつつあります。人気アニメやマンガ、特撮ですら、すでに作品がなくなり内容を確認出来ないケースもあります。ATACの目的はアニメ・特撮の文化遺産を未来に伝えることです。

ATACは作品を保存するだけでなく、その活用も進めます。これまでも保存資料をもとに展示企画などをしてきました、今回の「再入門講座」もその一環で、トークイベント単体では初めて試みです。
「再入門講座」にはいくつか役割があります。

・トークを通じてアニメ・特撮の知識を次世代に伝えること
・制作資料やデータを残すだけでなく、時代のライブ経験・記憶を残すこと(今回のイベントは全編にわたり映像録画されています)
・ATACの認知度を広げること

ATACは非営利法人でありますが、国や行政から特別な支援を受けているわけでありません。一方でATACは作品の制作素材(原画・セル画など)を保存、データの整理・研究・調査に多くの資金を必要としています。そのための寄付金も受け付けており、活動をイベントから知ってもらい支援につなげるわけです。
 
日本は、世界でも類まれな巨大で豊富なアニメ・特撮文化を築き上げました。しかし巨大であるからこそ、残さなければいけないものも多く、重要性も高くなります。ATACはその問題に、正面から取り組んでいます。
「アニメ再入門講座」は、今後も機会があれば開催したいとのこと。もしそれを見て、あるいは参加することがあれば、その背景にあるATACにも是非注目したいところです。

特定非営利活動法人 アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC) https://atac.or.jp/
【寄付の紹介】https://atac.or.jp/donation/

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