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「木谷氏が予測するエンタメ業界のこれから」木谷高明氏ロングインタビュー第3回

ブシロード創業者の木谷高明氏に聞くインタビュー第3回にあたります。第1回、第2回と多くのかたに読んでいただき大感謝しておりますが、その最終回です。
今回はエンタメビジネスのトレンドをいち早く読み解き成功をしてきた木谷氏にこれからのエンタメビジネスについて伺いました。多くのかたに参考になるのではないでしょうか。
*このインタビューは2019年12月時点のものになります。

■木谷高明が予測する今後のエンタメ業界

数土直志(以下、数土) これからのエンタテインメント業界を予測していただけますか。

木谷高明氏(以下、木谷) エンタメ業界は全体で煮詰まっています。だから会社は大きくならざるを得ない。アメリカではエンタメとメディアとスポーツ、場合によってはIT企業がお互いに喰い合いながらどんどん大きな会社になっている。これと同じことが日本でも起こるって思っていたんですけれど、なかなか進んでない。

数土 いまでもアニメ制作会社やゲーム会社の系列化は進んでいます。

木谷 ただメディアとはまだがっぷり組んでない。これからお互いに喰い合いながら大きなコングロマリットが出来ていくと思っています。ただアメリカと違うのは、日本は出版社が強いんです。アメリカの出版市場はほんとに小さかったんですよ。それが企業に買われて、出版を種に映像展開をすることで何兆円のマーケットが生まれたんです。

数土 日本で出版社主導のエンタメ業界再編は考えられませんか?

木谷 ないと思いますね。それを仕掛けたのがKADOKAWAです。あれがうまく行っていたら流れは変わったと思います。他の出版社は上場していないですから。でも大手の出版社の位置付けはこれからまた強くなると思いますよ。

数土 やはりコンテンツを持っているのが強いのですか?

木谷 強いです。実際は持っているのは版権ですけど、出版社は作家さんにとっては税理士や弁護士みたいなもんですよね。作家のコンサルタントです。ヒット作を出せる活躍しているクリエイターも、これからバリューが上がっていきます。

■エンタメ業界と世界の関係はどう変わる?

数土 グローバルの見通しもお願いします。

木谷 アメリカと中国を外しては考えられない。ウチも両国とも最重要拠点ですが、攻めかたはそれぞれ違います。アメリカはカードゲームとプロレスとアプリゲームの一部。中国はアプリゲームと一部だけカードゲームがあります。

数土 日本の会社では現地進出して、うまくいかなかったケースもあります。その中で、なぜブシロードは自分たちでやるべきと考えられるのですか? 

木谷 ブシロードのアメリカでのビジネスが上手く行っているのは、自分たちでやっているからです。プロレスでは2019年に10以上の大会を主催興行しています。2020年は20以上になるはずです。

数土 海外ビジネスのノウハウはどこで身につけられたのですか?

木谷 とりあえずやってみたら上手く行ったんです。「新日本プロレスワールド」という番組を定額課金でやっていますが、日本が大体55%、アメリカが35%です。ファンは課金してくれるんですよ。それ以外にも現地のケーブル局やYouTubeでみてくれている人もいるわけです。ただ会員を維持するためには、アメリカでもきちんと興行をしなければならない。

数土 アメリカの興行に集中すると、日本が手薄にならないですか?

木谷 そうならないようにしています。向こうにも道場があって、アメリカ人の新弟子がどんどんデビューしています。アメリカの方が人口も多いし、プロレスラー希望の人も多いんです。

数土 中国はどうですか?

木谷 中国に関しては、日本企業は相当ヤバい状況にあると思います。まず日本のゲームはもう中国で受けないんです。中国が欲しいのは日本のIPです。IPを借りて自分たちでゲーム作る。これを中国でリリースして、日本でも自分たちでリリースする。こうしたやり方がこれから増えていきます。やはり次は作品を作ることを目指しますが、これは自分達だけで出来ないから日本と一緒に作りましょうとなるでしょう。

数土 日本のIPのライセンスのニーズはあるわけですね。

木谷 日本側にとってもロイヤリティーだけ貰った方が気は楽じゃないですか。15億円とか20億円でゲームを中国で作って貰った方がいいですよ。最後に残るのは作品を作れる力です。

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■「池袋」と「渋谷」の時代が来る

数土 他にこれから大きく変わりそうなところはありますか?

木谷 秋葉原の時代も僕は終わったと思いますね。

数土 どういうところでですか?

木谷 秋葉原はここ最近では、映像にしろ、ゲームにしろ、パッケージの街じゃないですか。そうしたカルチャーに大変親しかった。今はそのゲームや映像が、配信に置き換わっているわけです。それにライトユーザーは列を作って買ったりはしません。
今は、機会があえばたまにアニメを観るぐらいの層とパッケージを買う濃い層、この間にある膨大な中間層が出来ているんです。この中間層を受け入れる街としては秋葉原は極端すぎます。これからは池袋と渋谷の時代だと思います。

数土 渋谷もですか?

木谷 渋谷の方がちょっとオシャレですね。そこにはIT企業が集まっています。IT企業があって若い人が渋谷に集まったら、そこに向けた小売店やサービスが必ず出てきますよ。渋谷はちょっと違った意味でこれからの時代を迎えるはずです。
池袋はどちらかというと、オタク寄りの正攻法です。いまは映画館もいっぱい出来て、ファミリーや一般層が来る。男の子も行きやすくなった。テレビアニメでいうと『名探偵コナン』みたいなもんですね。あらゆる層を全部含んでいるのが池袋です。

数土 ライト層にアピールするには、ソーシャルメディアが重要ですが、ここはどう変わりますか?

木谷 SNSはTwitterだけじゃなくて女の子が使うインスタが大事かなと思っています。ただ男の子向けはTwitterです。Twitterはゲームやる人が結構使っていて、アニメファンも多いですね。相性がいい。
YouTubeはまだまだ行けます。いまテレビのリモコンにNetflix、Hulu、U-NEXT、AbemaTV、YouTubeといったボタンがあって、押したらすぐ映像がつきます。しかもスマホやPCでみるよりテレビの方がデカくていい、ということが日本全国で起きているはずです。今後はスマートテレビが家庭に普及するから配信が来ます。

数土 最後に今後のブシロードのイメージをお願いします。

木谷 5年後がどうなっているのかわかんないですから5年計画は無意味ですよね。2年、3年計画くらいじゃないかな。何か立ち上げようと思ったら表に出るのは3年後なので、3年計画にすればまあ意味があると思います。
この間、ブシロードの幹部研修をしました。毎年内容を変えているのですが、今年は幹事を25歳前後の若手3人にしました。彼らが1週間後にプレゼンしたのが「10年後のブシロード」です。「なんで?」と聞いたら、「5年後はまだ会長が会社にいます。20年後はあまりに先なので考えても仕方ないですよね。だから10年後にしました」と言いました。
当日は外部講師の話聞いて、グループ分けしてディスカッションすると言います。そのメンバー見ると社長が入ってない。「社長は54、5歳ですよね。10年後はいないですから。50歳以上の人たちは全員なしにしました」と、50歳以上は誰も参加しない幹部研修が行われました。
こういうことが出来るかだと思うんですよ。今のほとんどの日本企業は、将来計画を50、60、70代が考えていて若い人は入ってない。全部である必要はないですが、役員レベルの人材はもっと年齢下げて裁量を持たせていいんじゃないかと思います。 

3回にわたる木谷高明氏のお話どうだったでしょうか。歯に衣着せない言葉と、その先見性に聞きながら度々驚かされました。
日経COMEMOのアニメビジネス企画は、今後も随時開催予定です。その際にはまたよろしくお願いいたします。

そして第1回、第2回がまだのかたは、こちらで是非読んでいただけますとありがたいです。


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