見出し画像

日本最大のアニメ企業はどこなのか? 主要企業を売上げ順に並べてみる

■日本最大のアニメ企業はどこ? 

昨今は国内のアニメビジネスの成長が注目されています。アニメ関連企業の売上げや利益も高い伸びになることも多く、たびたびメディアを賑わせます。これを見て、新たにアニメビジネスに参入しようとする企業も少なくありません。
ところがアニメ業界を牽引している会社がどこなのかは意外と知られていません。 たとえば日本最大のアニメ企業はどこなのでしょうか?
 
実際にアニメ企業のビジネス規模や売上げを比較することはあまりありません。
アニメビジネスは多方面に広がっており、会社ごとにビジネスのかかわり方が異なります。それが単純な比較を難しくしています。
国内最大のアニメスタジオは東映アニメーションですが、その売上げを配給会社や映像ソフトメーカーの販売と並べるのは違和感があります。
もうひとつあまり比較されない理由は、アニメ事業を持つ大半の企業にとってアニメはいくつもある事業のひとつだからです。アニメ事業だけ切り離した売上げを開示しておらず、業績発表ではアニメと実写映画、アニメとゲームなどのセグメントを明確に分けていない企業が多かったのです。
 
これが近年、変わりつつあります。ひとつはアニメ企画・出資・ライセンス管理をする「製作」の仕事と、実際に作品を作るアニメーション制作会社(アニメスタジオ)の仕事「制作」が融合しつつあるためです。
主要なアニメスタジオが大手製作会社のグループ会社になる傾向が強くなっています。一方で国内最大手のアニメーション制作会社の東映アニメーションは製作・出資のビジネスが、会社全体の売上の大きな割合を占めています。業界大手のバンダイナムコフィルムワークスは、製作部門と制作部門の合併により誕生した企業です。製作と制作は、経営面では急速に融合しています。
 
さらに業績発表で、アニメ事業を切り分ける企業が増えています。アニメビジネス展開の強化を掲げるなか、業績を数字で示すことでアニメ事業の大きさを誇示し、成長目標を立てるためです。
これまでブラックボックスにも見えていた各社のアニメビジネスの概要がつかめるようになりました。

■アニメ企業の比較はなぜ難しいのか

ただ事業規模の比較となると、問題はまだあります。
各社が考えるアニメ事業の範囲がばらばらであることです。ある企業ではアニメ映画の配給は映画事業にあり、別の企業ではアニメ関連事業に含んだりします。フィギュアやゲームなどをアニメ事業に組み込む場合もあれば、それが玩具やデジタル事業に分類される場合もあります。
このため発表数字だけで事業規模を並べると、同じ視点で評価できません。いろいろ誤解も生みそうです。それぞれの数字算出の注釈が多く必要で、通常のメディア記事にしにくい感じです。
 
それでも最初に触れたように、アニメ業界における大手企業がどこなのかは意外に知られていません。一般的な企業の知名度や事業規模と一致しないことも多いです。
事業規模をピックアップしつつ、アニメ業界の主要なビジネスプレイヤーを紹介することは意味のあることでないでしょうか。
 
そこでnoteの出番です。noteは自由に書けるので、出来る限り注釈をつければ。日本のアニメビジネスを牽引している企業、アニメで存在感のある企業、全体像の把握の助けになればありがたいです。 
 
ただ、ここにある各社の数字は企業ごとにカバー領域が異なり、厳密に比較できないことが大前提なことはご理解ください。
 
それではまずざっくりと数字から

【国内主要アニメ関連企業のアニメ事業規模】
 
■ソニーミュージック(映像メディア&プラットフォーム)
2021億円 (▼)
■東映アニメーション(連結)
886億円 (△)
■バンダイナムコHD(IPプロデュース(映像・音楽)事業)
824億円 (△)
■東宝(アニメ事業)
462億円 (△)
■KADOKAWA(アニメ・実写映像事業)
460億円 (△)
■テレビ東京HD(テレビ東京 アニメ事業+AT‐X合算)
244億円 (△)
■セガサミー(映像事業)
239億円 (△)
■エイベックス (アニメ・映像事業)
161億円 (―)
■IGポート(連結)
118億円 (△)
■日本テレビ(アニメ事業+タツノコプロ合算)
72億円 (△)
*数字は直近の期末決算から
*()内[△,▼,―]は今期(2025年期)の現時点での業績トレンド

各社決算資料がら筆者作成

[参考]
*業績数字が開示されていない有力プレイヤー
電通/ADK/小学館・集英社グループ/スタジオジブリ/Netflix
アニメイトグループ (グループ会社 ムービック:135億円(2023年10月期))

■業界最大? ソニーミュージックとソニーグループの数字の考えかた
 
各社の公表されている業績から、現在一番数字が大きいのは、年間売上高約2000億円でソニーグループのひとつソニーミュージックです。この数字はソニーグループの「連結業績補足資料」に記載されている音楽事業、さらにそのセグメント事業である「映像メディア&プラットフォーム(Visual Media & Platform)」のものです。
音楽事業は日本と米国のソニーミュージックの売上げですが、ソニーミュージック(日本)の子会社アニプレックスを軸にアニメ事業を広く展開しており、その業績が「映像メディア&プラットフォーム」と区分して示されています。このなかにはアニプレックスのほかにA-1 PicturesやCloverWorksなどの制作会社やそのほかのアニプレックス関連企業の売上げも組み込まれているとみられます。
 
他企業に比べると断トツに大きな数字ですが、注意したいのは売上げにアニメから派生するスマホアプリゲームが含まれている点です。アプリゲームは市場が大きく、これをアニメ事業に含むかどうかで売上規模は大きく変ります。
2024年の現在、ほとんどのアニメ関連企業の第1四半期売上げが上昇トレンドにあるなかで、ソニーグループのこの「映像メディア&プラットフォーム」は数少ない下降トレンドです。業界全体が厳しい局面にあるアプリゲームが事業のなかにある影響でないかと憶測できます。

■ソニー・ピクチャーズとクランチロール
 
ソニーグループには、ソニーミュージック以外にもアニメ事業があります。ただソニー・ピクチャーズ(日本)は傘下のアニマックス、キッズステーションを売却、保有する東映アニメーションの株式を売却をしたことで、これまで事業重複と見られていた国内アニメ事業は、ソニーミュージックにほぼ一本化されました。
 
より重要なのはソニー・ピクチャーズ部門に含まれるクランチロールです。こちらは海外映画事業の一部となり、個別の売上げ利益は開示されていません。
直近で発表されている有料配信会員1500万人をベースに考えれば、定額課金(サブスクライブ)だけで年間売上げが2000憶円を超えることになります。さらに広告付き配信、劇場配給、他社配信・放送局へのサブライセンス、イベントやゲーム運営などの売上げも加算されるはずです。クランチロールの売上げは、すでに日本のアニプレックスを抜いているか、もしくは抜きつつあるのでないでしょうか。
ちょっとここら辺りの状況は、推測に推測を重ねて明確でなく、何かよい意見がありましたら教えてください!

■製作と制作が並列、グループで完結するバンダイナムコグループ
 
バンダイナムコホールディングスのアニメ事業の売上げは、IPプロデュース事業の数字です。バンダイナムコフィルムワークスのほかバンダイナムコピクチャーズやアクタスといったアニメーション制作会社、ライセンスマネジメントの創通、音楽・ライブのバンダイナムコミュージックライブなどが含まれます。
事業セグメントとして「IP(知的財産)」を掲げますが、要するにアニメ作品やそのキャラクターの制作とその周辺ビジネスです。実写映画なども一部含みますが、声優やアーティストも含めて大半がアニメと紐づいています。
 
約900億円は一見は、アニプレックスの2000憶円から大きく引き離されてみえます。しかし、これこそが企業による事業領域の考えかたの違いです。
アニプレックスの売上げにはスマホアプリゲームが含まれていましたが、バンダイナムコグループではアニメ・キャラクターから派生するアプリゲームの大半は家庭用ゲーム/ネットワーク事業に含まれます。またガンプラなどアニメから派生する玩具やフィギュアは、トイホビー事業に含まれます。
そうした事業をアニメ事業とみなすべきか議論のあるところですが、おそらく事業基準を揃えて比較すれば、バンダイナムコグループがソニーミュージックを上回る可能性が大きいはずです。
 
もっともソニーグループ全体と比較するのであれば、アニプレックスとクランチロールを合算する必要があるかもしれません……、どちらが大きいのか? アニメ企業の比較が難しい理由です。
いずれにしろ、現在、日本のアニメ業界のなかでバンダイナムコホールディングスとソニーグループがその事業の大きさで2大プレイヤーであることは間違いありません。

■急浮上する東宝、映画事業と成長スピードが鍵
 
アニメ業界のパワープレイヤーとしてもう一社、東宝をあげることが出来ます。
発表されているアニメ事業の売上高は462億円、ソニーグループやバンダイナムコホールディングスとはかなり差があります。また2社と違いアニメーション制作部門は小さく、グッズやイベントの展開など多角化もまだ十分ではありません。
 
しかし東宝もまたバンダイナムコと同様に、アニメ事業として数字に表れていない巨大な関連事業があります。映画配給と映画興行です。
東宝は日本有数の劇場運営者ですが、年間784億円の興行売上げのうちアニメ映画の割合がかなりあるはずです。(映画興行業界全体のアニメ比率は3割程度) また年間336億円の配給売上げに占めるアニメ映画の割合も高いはずです。
これをアニメ事業に含めるかも難しいところですが、製作と配給、興行が結びつくことで映画分野において大きなパワーを発揮します。
 
東宝でもうひとつ注目すべきは、成長スピードです。2024年2月期に前年比90%増と売り上げをほぼ倍増させたアニメ事業は、2025年2月期第1四半期はすでに前年同期比約80%増という驚異的な成長をしています。これが東宝をソニー、バンダイナムコと並ぶパワープレイヤーとする理由です。

■アニメ特化で最大、業界の顔 東映アニメーション
 
アニメ企業のなかで異色な存在が、東映アニメーションです。他の巨大企業がエンタテインメントの総合企業で事業部門としてアニメーションを抱えているのに対し、東映アニメーションはアニメーション制作スタジオであり、アニメ特化の企業である点です。
会社全体の売上高は900億円弱、グループ13兆円のソニーグループ、1兆円のバンダイナムコなどに比べれば小さい存在です。しかしアニメに限れば、これらの企業に伍した存在感を持ちます。何よりも日本で800社以上とされるアニメーション制作会社で最も歴史が長く、最大規模、日本のアニメーション制作を牽引するリーダー企業とみなされることが大きいでしょう。
 
しかし東映アニメーションの事業は、アニメーション制作会社としてはかなり特異です。制作主体とみられますが、売上げの半分以上は国内外の版権(ライセンス)や商品販売事業からです。さらに映像製作・販売事業から海外映像販売と映像ソフトを除外した時のアニメーション制作そのものは100億円に達しないとみられます。自社が制作したアニメを、自ら全方位で展開するのが東映アニメーションのビジネスです。
そして製作会社としては他企業と異なり、「企業全体=アニメーション」であることで会社全体がアニメを軸に回り、求心力を持ちます。これが国内外に向けたブランド効果も発揮しています。
 
さて、この後にKADOKAWA、IGポート、さらに放送各社(テレビ東京、日本テレビ)に触れようと思ったのですが、あまりにも長くなりました。
ひとまずはここで切って、残りは第2弾とさせてください。
 
To be continued

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?