2020/01/05 Maison book girl『Solitude Hotel ∞F』ライブレポ
2020年のライブレポ第一弾、年が明けてから初めてのライブでいて、かつ「今後しばらくこれ以上の体験はないのではないか?」となってしまったMaison book girl(以下、ブクガ)のワンマンライブ『Solitude Hotel ∞F(ソリテュード・ホテル・エイトエフ)』のレポートです。
「何があったか」という観点だと、直近のワンマンライブはナタリーが気合の入った写真付きで即日に上げてくれています。サムネイルもすごいカットだ。
ですが、「ライブを見た人が何を考え、何を思ったか」という観点はありません。なので、その切り口でレポートします。中でも、今回のワンマンライブでは既存曲に対して大胆な変更が加えられたため、そこを軸に話をします。
大前提としてパフォーマンスが滅茶苦茶良い
演出がどうとか、映像がどうとか、曲に対する工夫がどうとかはこれからいくらでも言及できますが、まず歌とダンスが滅茶苦茶良いです。
ブクガは常に最新作で最高を更新し続けているグループなので、まずは聴いてみてください。2019年12月リリースのアルバム『海と宇宙の子どもたち』のリードトラック、「海辺にて」です。
観ましたね?そして、聴きましたね?
観て聴いたものとして話を進めます。
ブクガはお聴きの通り、一般的にイメージされる「アイドル楽曲」から明らかにかけ離れた曲が特徴のグループです。活動初期は、難解な曲構成と抽象的な歌詞に対して、抑揚の少ないボーカルとのギャップがウケていた面もありましたが、近年は曲だけでなく、歌もダンスも格段に進化を遂げています。
特に歌に関しては、「活動初期の曲をライブで披露すると上達が著しいため別物」「リリースした音源よりライブの方が良い」ということがザラにあります。今回のライブは12月にリリースされたアルバム『海と宇宙の子どもたち』を踏まえたものでしたが、歌声に強弱、曲に沿った歌い方を使い分けることで情感たっぷりに歌い上げ、曲の持つ魅力を更に引き出していました。
これまで開催されたワンマンライブでは、大掛かりな舞台装置や照明、VJも注目されています。ですが、まずパフォーマンスが強固でなければ、それらの演出も意味がありません。歌とダンスがしっかりしているからこそ、大掛かりな舞台演出も活きるし、パフォーマンスとの相乗効果を生み出すことが出来ます。大きな花は根本がしっかりしているからこそ咲くのです。
ライブ・コンサートにある前提を覆す既存曲の演出
話は変わりますが、同じアーティストのライブ・コンサートに足繁く通う行為は、その体験に慣れてマンネリになってしまう危険性を孕んでいます。ライブパフォーマンスというのは、「決まった曲を決まった流れで決まった形で披露する」ものだからです。これはアイドルに限らず、バンド、弾き語り、楽団、どのような編成を取っていても変わりません。
バンドを始め楽器の演奏が絡む編成の場合は、アドリブやインプロビゼーションといった方法である程度形を変えることはできますが、一定のルールでもって演奏することに変わりはありません。
アイドルの場合は、歌やダンスの技術、もしくは曲中の煽りなんかは毎回変わるものではありますが、短期間で劇的に変えられるものではありません。また、アイドルのライブが「オケに合わせて歌って踊る」という形式である以上、オケのアレンジや曲の流れは変えられないと言ってもいいでしょう。
この前提を、今回のワンマンライブでは既存曲への大胆な変更によって大きく覆しました。
「rooms」では、サビで無音になる部分が入る度にその拍がどんどん長くなっていました。
「karma」では、その歌詞とダンスが「cloudy irony」に書き換えられ、コラージュしたかのように繋がれていました。
「my cut」では、メンバーが観客を煽ったかと思いきや、ワンコーラスが終わった後で突然、別アレンジの「MORE PAST」に切り替わりました。
「レインコートと首のない鳥」では、ペストマスクを被った人が突然ステージに登場し、4人のダンスやフォーメーションを崩していきました。
「bath room」では、途中から少しずつ曲のテンポが遅くなり、最後にはほぼ止まったような状態になり、メンバー1人1人の叫びが入り混じり、最後の曲へ移りました。
歌を壊し、ダンスを壊し、オケを壊し、曲の流れ自体を壊す演出は、一瞬トラブルが起こったようにも思えるようなものでした。しかし、これらの演出は予想を裏切るための演出であり、これまで何度となく行ったパフォーマンスにもう一度新鮮さを取り戻す演出でもありました。
擬似的なトラブルを起こすことによって不安も与える
また、一見トラブルが起こったような演出を観た時に、過去のライブを思い出しました。それは2018年5月の「ビバラポップ!」での一場面です。
夏フェスに先駆けて毎年ゴールデンウィークにさいたまスーパーアリーナで開催される「ビバラロック」というフェスがあります。2018年からアイドルを集めた番外編として「ビバラポップ!」が開催されており、初回のこの年は会場を1日使っての開催でした。
ブクガはアリーナ内にあるメインステージでのパフォーマンスでしたが、イベント途中からステージ上のディスプレイが故障し、バックで流れる映像がおかしくなりはじめました。しばらくの中断の後に始まったライブ本編では、最初は問題なく動作したものの、やはり途中からは画面がおかしくなり始めます。
そこで突然画面に出たのが大きな bug の3文字でした。
これは、「もう表示がバグってしまったのでそう書いてしまおう」という咄嗟のアイディアから生まれたものだったのですが、このトラブルも含めて全て演出だと思わせるアドリブでした。この文字が出た瞬間にセッティングの不安がライブの喜びに切り替わったのを感じました。楽しさだけでなく不安を感じたこの日のライブは、強烈な体験として今でも覚えています。
今回のワンマンライブは、素晴らしいパフォーマンスや大掛かりな舞台装置による楽しさや感動はもちろんありましたが、一見トラブルにも見える演出によってそれと同じくらいの恐怖や不安を与えるようにもなっていました。
恐れの気持ちは記憶に残りやすいと聞いたことがあります。今回のライブは「ビバラポップ!」での一幕も取り込んだように思えるのです。
最新と過去との対比
ライブ終了後にベストアルバムが4月にリリースされることが発表されました。
「既存曲に大胆な変更があった」「活動初期の曲をライブで披露すると上達が著しいため別物」というのは述べた通りです。なので、ベストアルバムにはボーカルの再録があるんじゃないか、と少し期待してしまいます。あとは、アルバムよりも曲やプレイリストでの視聴が増えている昨今でベストアルバムをリリースするなら何かしら変更が欲しい、というのもあります。
また、今回のワンマンライブも、直近の流れに沿っているのであれば映像化が期待されますし、ベストアルバムの初回限定版に収録される可能性は高いです。映像化されれば、表情や指先の動きといった細かい部分も見ることが出来ますし、今回話した視点以外でもライブを捉えることが出来ます。そして、何よりその場にいなかった人がライブを見ることが出来ます。
ブクガはもっと聞かれるべきだし、もっと見られるべき人たちだと思っています。見聞きする人が増えれば、今回より更に大きな場所でワンマンライブが出来るし、そうなればもっとヤバいライブが見れるはず。僕はそれが見たい。
Amazon Prime Videoでライブ映像やドキュメンタリーも見れるので、少しでも興味のある方はこちらをどうぞ。
ではでは。
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