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本『映画を早送りで観る人たち』を読んで

この新書のタイトルを目にして、「私のことやんけ…!」と思いました。
以前、こんな記事↓(エンタメ不感症について)を書いたY世代の私としては、非常に身につまされる一冊でした。

本書は「映画を早送りで観るなんて一体どういうこと!?宇宙人なの!?」という感覚を抱く稲田豊史さん(現在51歳のライター)によって書かれたものです。
前書きには早送り派への違和感が率直に綴られ、続く第1章には集められた早送り派の若者達の声を淡々と書き連ねてます…という顔をしながらも行間から滲みまくる筆者の否定的目線に、最初は「なんかウッザイなぁー…このくらいの年齢のおじさんが一番『これだから最近の若者は』ってよく言うよね〜」なんて思いながら、「いや、でもイラっとしてるってことは図星な側面もあるからよな〜」と思い自戒の意味も込めて読了しました。

ざっくり言うと、以下の3点が倍速視聴の背景として挙げられていました。(なんでもかんでも“ざっくり言うと”で要約されることの是非について書かれた本をざっくり要約させて頂きます、ごめんなさい)

①映像作品の供給過多

サブスクの映像配信サービスの出現に加え、従来からあるテレビ番組、蓄積される履修マストの名作映画の数々、無料で見られるYoutubeなどのプラットフォーム…
観るべき作品が増えた結果、作品へ取り組む態度が【鑑賞】ではなく【情報収集】へと変化した。
大きな手間もお金もかけずに手に入れられる作品(コンテンツ)に対して、思い入れが減るのは必然である。

第1章のざっくり要約

これについてはめちゃくちゃ共感!!!!でした。
ただ私の場合、脚本執筆をまがりなりにも生業とするようになってからの症状なので、エンタメを職業としてない人もそうなんだと考えると、「なぜ?」という気がちょびっとしました。暇つぶしや楽しみのためなら、無理して沢山見なくてもいいのにな、と。しかし以下のような声には、なるほどなと思いました。

1、7話目から面白くなるよ、という触れ込みだったので、7話目までとばし飛ばし見た。
2、先に犯人が分かった状態で見た方が、「だからこの人こんな発言してるんだな」という見方ができる(=つまり2周目を楽しむつもりはハナから無い)
3、そもそも予告編で結末まで大体予想できてしまうから、ネタバレ=悪と思わない。
4、ホラーやバイオレンスシーンなどの怖いシーンは飛ばしたい。
5、日常生活で疲れてるのに、エンタメ見てる時まで心のカロリーを使いたくない。だからハラハラドキドキとか、予想外の展開なんて求めてない。想定通りの展開で、主人公が辛い目に合わない物語が心地よい。

言われてみれば5は別として、1〜4までの意見は「私もそれやってることあるな」と思いました。…と書きかけて、5の心境の時もありますね!?ありましたわ!!!
最近で言うと、よしながふみさん作の『きのう何食べた?』が心地いいんですよ…!そこまで大きな波乱は起きず、平和な日常の中で美味しい食事を楽しむというストーリー…!その献立を完全再現して食卓に並べるというのが、つい最近のマイブームでございました。心のカロリーを使わないエンタメ摂取…。やってたわ。
Netflixをザッピングして「う〜ん、特に見たいものないなぁ…」と億劫な気持ちになっている時、この漫画をドラマ化したやつがうってつけなんですよねぇ。1話25分という短い尺もありがたいっ。
一方、森鴎外の『舞姫』なんかは最悪でした。豊太郎のクズ男っぷりに心を掻き乱されイライラしっぱなしでしたもん。ただ好きな作品ではないけれど、面白いなとは感じました。このイライラを楽しいと思えてる内はまだ大丈夫だよね…?(何が?)


②現代人の多忙に端を発するコスパ(タイパ)志向

SNSの普及により、常に友人と繋がっている状態になった。ひと昔前は「あの作品みた?」「みたみた!」という会話は教室や飲み会の席でのみ行われる世間話だったが、現在の若者は四六時中なにかを友人からオススメされ、それを履修しないことは協調性のない奴だと見なされる(もしくは遅れてる奴と見なされる)恐怖を感じている。

第3章のざっくり要約

これについては「へー、Z世代ってそうなんだ。大変だなぁ」という感じで、自分とは違うなと思いました。別にSNSで友人と常に繋がってないし…(これがY世代だからなのか、単純に友達が少ないからなのかは議論の余地あり)
ただ、【多忙によるタイパ志向】についてはめちゃくちゃ納得です。
映像作品の増加のみならず、本も音楽も舞台も、ありとあらゆるエンタメが飽和状態ですし、エンタメを楽しむ以外にもやるべきことだらけの現代人にとってタイパ志向は共通事項だと感じました。

因みに、Z世代の特徴は以下の8つだそうです。
1、SNSを使いこなす
2、お金を贅沢に使うことには消極的
3、所有欲が低い(モノ消費よりコト消費)
4、学校や会社との関係より、友人など個人間のつながりを大切にする
5、企業が仕込んだトレンドより、「自分が好きだから」「仲間が支持しているから」を優先する
6、安定志向、現状維持志向で、出世欲や上昇志向があまりない
7、社会貢献志向がある
8、多様性を認め、個性を尊重し合う

ただし、8については「ほんとに多様性認めてる?他人に関心ないだけじゃない?」という筆者のツッコミが入ってました。
自分と関係ないところで好きに生きてる他者の多様性には寛容だけど、自分を否定する価値観には敏感(傷つきやすい)、とのことです。
エンタメ(=物語の中で描かれる登場人物達の心の機微)に触れることで自分以外の他者の考えや価値観を知り、理解する力が育まれると思うのですが、確かに倍速視聴でストーリーだけを把握するような見方だと、そういう力はなかなか育まれないよなと思います。


③セリフで全てを説明する映像作品が増えた

「つまんない」「分からない」など、バカでも言えるような感想(とも呼べない感想)を表明できる場(=Twitterを代表するネット)が生まれた結果、作り手がその層の意見を無視できなくなった。
これは、受け手にバカが増えたという訳ではなく、バカな受け手が可視化されやすくなったということ。(ひと昔は、感想をまとまった文章にしてどこかへ表明するのには大きな気力が必要だったから、そういう低レベルな呟きが表出されにくかった。)

第2章のざっくり要約

はいもうこれはめちゃくちゃそう思いました。セリフ過多な作品のなんと多いことか…!セリフの行間や役者の表情を読み解くのが大好き勢としては、非常に嘆かわしく思っていたところであります。(NHKのドラマ『グレースの履歴』はほんとに絶望だった…。特に1話の葬式の場面、あまりにも説明過多で「この不自然さ…ぎくしゃくした表面的な家族関係を表現するための、あえての脚本なのか!?」と思ってしまったほど)
ただ界隈では評判のすこぶる高かった『大豆田十和子と3人の元夫』が視聴率面では伸び悩んだことを考えると、商売としてやっていくには“分かりやすさ”ってやつと折り合いをつけてやっていかなければならないようです。う〜ん、でも分かりやすい作品ばっかになっていったら、滋味深い作品なんて死滅してしまわないか?(と言いながら倍速で見るのをやめる気は無い私でした。)


おわりに

今でこそ趣味人の趣味に成り上がったレコードですが、登場当時は“缶詰の音楽”と揶揄する声があったそうです。映画が登場した時は「生の舞台にはかなわない」と言われ、テレビが登場した時は「映画人になれなかったやつらが作るもの」と言われ、ビデオデッキが登場した時は「早送りで見る輩が生まれるぞ」と言われ…。
新しいメディヤやデバイスあるいは使い方が登場すると、それらは必ずまず否定されるところからスタートして来ました。
倍速視聴は必ず、スタンダートになると思います。(というか、もうなってる)

とは言え本書を読んで、「やっぱり倍速視聴は鑑賞とは別物だよな。鑑賞ではないよな。」と改めて感じました。
ポイントは【使い分け】と【ほどほどに】かな、と。
旬の話題作は知りたいし、時間は無限じゃない。情報収集と割り切って倍速視聴することは、とても有効だと思います。
ただ、情報収集ばかりで自分の大切な大切な時間を終わらせてしまっては勿体ない。あれもこれもと履修しようとせず、自分的に何が必修科目なのかを精査した上で、エンタメ不感症にならない程度に倍速視聴を続けようと思います。

最近noteをサボっていたのも不感症度に拍車をかけてたかも…。インプットだけじゃダメですね。アウトプットをもう少し心がけなくっちゃ!






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