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私的な日記と、誰かに読まれることを前提とした日記について

①手帳類図書館

友人にオススメされ、手帳類図書館という施設へ行って来ました。

一般の人によって書かれた手書きの日記・スケジュール帳・メモ帳などがコレクションされた、世にも変わった閉架式図書館です。
最寄駅は東京の参宮橋駅。小さなギャラリー内の一区画の、ごくごく小さなスペースでした。
それらの手帳類は館長によってPOP的なものが作られており、例えば

「2008年から2010年に女子高生によって書かれた日記。大学ノート8冊組の超大作。先生に恋する様子が綴られた甘酸っぱい作品群です」

みたいなあらましが書かれています。
POPを読んで気になったものを3つ店員さんにお願いし、読み終わったらまた次の3つを出してもらう…というシステムです。1時間1000円也。私は2時間滞在し、以下の6冊に目を通しました。

1、先生に恋する女子高生の日記

とにかく長い!!よくこれだけの量の文章を手書きで書き続けたな、と驚きます。この子が現代の女子高生だったら、きっと5分に一回ツイートしてるだろうな。
内容の8割が恋について。
大学1年になっても暫く日記は続いていますが、ある時急に2年の空白が入り、「⚪︎⚪︎君と付き合ってる」というキティへの報告が入ってENDとなります。(※キティとは日記を擬人化したもの。アンネの日記を元ネタにしていると思われる)
あれだけずっと好きだった先生ではなく、2年の空白を経て全く別の男の子と付き合いだしたというオチがリアル。日記って毎日書かなきゃってプレッシャーで続かなくなるものだけど、空白は空白なりに雄弁なんだなぁと気づかされます。

2、構成作家を目指す男子大学生のネタ帳

1日3つ、箇条書きで気になったことや思ったことが書き留められたネタ帳。
「寿司屋でカッパ巻きを頼む人の意味が分からない。口直しと言うけれど、ガリを食え、ガリを。口直し6切れもいらんだろ」とか。
クスっと笑える小ネタが沢山。こういのを日々マメに収集している人が、構成作家になるんだろうなぁ。

3、意識高い系の大学4年生〜新入社会人のスケジュール帳

1月始まりのスケジュール帳ですが、半年分しか記入されていませんでした。
巻頭の1月から3月末にかけてのページからは、「学生最後の数ヶ月を最高に充実したものにするぞ!」という決意の元、非常にアクティブに未来への期待感を抱きながら行動するキラッキラな女子大学生の姿がありありと思い浮かびます。(セブ島へ旅行したり、英語やインドネシア語に力を入れたり、彼氏と朝ジムへ通ったりetc)
しかし4月からは「今日はプレゼンだった。同期の男の子は上司から笑いを取ってたりして、すごい。私は声を出すだけで精一杯」など、早くも新社会人として挫けそうな様子が…
「真面目だよね、って言われると傷つく」という走り書きを最後に、スケジュール帳には白紙が続くようになります。
その後、元気にやっていけたのでしょうか?気になる…

4、エステサロン勤めの女性が徐々に風俗へ転職していった様が見て取れるスケジュール帳

1冊目は家計簿兼日記帳。几帳面にレシートが貼られ、出費と収入、その日の気持ちなどが綴られています。「夢にまで見た初月給!〜万円。正直、こんなもんかぁと思ってしまった」という一文にはめちゃくちゃ共感を覚えました。
2冊目からはスケジュール帳となりますが、月々のページに律儀に月収が書かれ続けます。
ある時から「GOD HAND体験入店」というあやしげな文字が目立つようになり、月収も増加。次第に色んな店を掛け持ちするようになり、それに伴って月収は最初の3〜4倍へ。
不思議だったのは、「性感回春なんとか」という漢字5文字以上の店名をシフトがある毎に律儀に毎回(週5とかで)書き続けていること。自分さえ分かればいいスケジュール帳なんだから「性」って略して書くとかすればいいのに…なんで?
風俗嬢になる前もなってからも、「くまちゃん」と呼ぶ仲良しの友達と頻繁に遊んでおり、実家の母親とも関係は良好そう。
マメで明るく行動的な様子の彼女のスケジュール帳を読むと、テンプレートな風俗嬢のイメージが覆されます。

5、詩人(女性)のなんでも帳

一番意味が分からなかった一冊。まず、字が汚い。半分くらい読めない。
チラシや雑誌の切り抜きがそこかしこに貼られているため、メモ帳自体が本来の3倍くらいに分厚く膨らんでいる。
これ、持ち歩いていたのか?重くなかったのだろうか?
詩人の頭の中ってよく分からないな、ということがよく分かる一冊でした。

6、美大生の実験ノート

ページごとに異なる絵画手法で色んなものが描かれた、目に楽しい画帳。文字が少ないのですぐ読めます。


他にも「ギャンブルが辞められない父親の日記(死後息子の手によってこの施設へ売られた)」や、「ひたすら客の特徴やグチが書かれた風俗嬢の日記」や、「恋について延々と書かれた、男子高校生(珍しい!)の日記」や、「闘病日記」などなど、読んでみたいものが沢山あったのですが、タイムアップ。
また近くへ行く用事があれば、是非立ち寄りたいと思います。

②自費出版の日記

「さて折角なので」と、この日は数駅隣の下北沢で下車し、「日記屋 月日」という本屋さんにも立ち寄りました。

こちらは手書きのものではなく、出版された日記を扱った小さな本屋さんです。
それこそアンネの日記だったり、著名人の日記だったり、日記について考察した専門書があったり。一般の人によって自費出版された日記のコーナーもあり、『ティンダー・レモンケーキ・エフェクト』という自費出版本を見つけました。(1980円也)

わたしの日記を送ります。あなたの日記を送ってください––––––。

Tinder上で「日記」と名乗り、夜な夜な毎日、日記を送る。
日記を交換するうちに、ひとりの男性に恋をした。
あなたから届いた日記に、わたしは今日も救われている。
2022年2月から10月までのわたしの日記と、数日間の彼の日記。

上記のPOPを読んだ時、「なんだこの変な女!!!」と衝撃を受けました。
私は「変な女」を褒め言葉として使います。
なかなか出ないレアな褒め言葉として、大切に使っています。
ティンダーを使って面白い活動をしてる友人が一人いますが、彼女に似たワクワク感を覚えて、つい購入してしまいました。断捨離中で書籍を200冊捨てたばかりだというのに…嗚呼。

結構な文字量でしたが、1日半かけてしっかり堪能。いやぁ、とても面白かったです。自分も大概サブカル女だと思っていましたが、高円寺に住んでる女には敵わねぇ。頻出する音楽やアートの固有名刺の数と濃度に圧倒されました。
知らないアーティストや、名前は知ってたけどチェックしてなかった映画などが出てくる度に検索しながら読み進めました。(それが楽しかった理由の1つ)
筆者は日課のようにギャラリーや美術展に通っていおり、多分その系統の職業に就いてる方だと思うのですが、一体何者なんでしょう…会ってみたいなぁ。
相当色々見て触れてるだろうに、行間中から発せられる「私はちゃんとコンテンツを受信できてない。私は感度が鈍い」という自己評価にはもどかしささえ覚えました。そんな謙遜せんでも。

読まれることを前提としていない手帳類図書館の作品群(作品と呼ぶのも変な気がする)と異なり、誰かに読まれることを前提としているので、同じ日記でも全くスタンスが違いました。
例えば詩的な文章が突如出てきた時、前者だと「ほんとにポエティックな気分だったんだろうなぁ」と感じるけれど、自費出版された日記だと「よそ行きな表現をあえてしたい気分だったんだろうなぁ」と感じます。
本当のところどんな気分で書いたかは本人のみぞ知る、ですが、一読して意味の分からない文章があるかないかが一番の違いかもしれません。

途中からとある男性に恋をし、日記は半ばラブレターのような、往復書簡のような、なんと呼べばいいのか分からない表現の場へと変貌していきます。その変化もまた面白い。

日付さえあればそれは日記で、日記を定義しようとすることすら、特に意味がない。(略)なんだって、あなたが日記として書いたなら、それは日記だよ。

という文がとってもいいなぁと感じました。
読むと自分も日記を書いてみたくなる、そんな一冊でした。
ちなみに彼女noteもやっているようで、「ティンダー・レモンケーキ・エフェクト」についての記事も見つけたので貼っつけておきます。↓



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