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なぜ日本の職場には「数字で話す」文化が根付かないのか

端的に大きく分けると

 ①具体的な数字で説明すると、自分にとって都合が悪いから
 ②日本語自体が曖昧さを助長する用語を多く取り揃えているから

です。

①については問題外です。最初から自分のことばかりで相手にかかる迷惑なんて一切考えていない人がやる事です。

②は「だいたい」「おおむね」「すこし」「ほとんど」など、数字にしなくてもざっくりと表現できてしまう用語が日本語には多すぎると言う点があります。

もちろん、話し手と聞き手で同じイメージをしていると言う確証はなく
高い確率で"問題"となるのですが、それでも止めないところが日本人の日本人らしさと言うところでしょう。だからグローバルビジネスでは2手も3手も諸外国より遅れているわけですが。

中には

 「数字を上げろ!」
 「根拠を数字で示せ!」

……職場で日々飛び交う企業もあります。ただそのわりに日本人の多くは本当の意味で「数字で話す」ことができていません。言っている本人もおそらくはできていないことでしょう。

 「今度の商品は、多くの顧客から『使いにくい』と言われている。
  営業部もみんなダメだと言っている。
  これじゃあ営業がいくら頑張っても売れない。
  最近、いつもこうだ。どうにかしてくれ!」

どこかの社内にて飛び交いそうなこんなセリフ。マンガ、アニメ、ドラマ、小説、どこかで一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。「多くの」「みんな」「いつも」「ずっと」「しっかり」「ちゃんと」……こうしたセリフは何の疑問も持たれずにビジネスの場で多用されています。

詳しく聞いてみると、数百ある取引先のうちの2~3社からあるいは特定の部署の声の大きな人が数人「使いにくい」と言っただけ、ということだったりします。

ただ、2~3社としか話をしなかったから統計学も何もなく、ただ勝手に「多くの」と言っているにすぎません。正しくは「一部の顧客から、ダメだと言われている」でしょう。

もちろん、たまたま聞いた2~3件の意見が「全体を表している」という考え方もできます。あるいは2~3件の意見を少数だからと圧殺していいというものでもありません。


人の意見というものは必ず「正規分布」──つまり良いほうにも悪いほうにも極端な意見が数%は出てきます。そこだけを拾えば「この商品は全然ダメだ」という結論にも、「この商品は素晴らしい」という結論にも導くことが可能となってしまうのです。

図23

これは正規分布のグラフと、標準偏差とその2倍、3倍σ、2σ、3σの範囲を示したものです。

感覚的な個人の感想を述べてくれることは差し支えないのですが、この特性を悪用して現場の意見を針小棒大に誇張して社内の他部門を攻撃する人も出てくる人も出てきます。過去に実績を上げてきたプライドの高いベテランほどこの傾向が強いのが困ったものです。

企業や業界の種類に関係なく、日本でよく起こる悪習として

 数字による証明がないと「声の大きな人」の意見が通る

と言うことが起きます。なかでも主観的で感情論、根性論を交えてくる人は手に負えません。具体的な「数字で話す」ことができれば、このような問題を避けることが可能になります。

「みんな」とは具体的に何パーセントの人で
その人たちは本当にボリュームゾーンと言えるのか。

もし、本当に売れていないのだとしたら、
具体的には他の製品よりどのくらい売れていないのか。
それによる損失はいくらくらいになるのか。

こうした事実や仮説、その検証の数字があって初めて建設的に議論は前に進みます。数字を用いて話をすることは、一見「強者の戦略」に思えるかもしれません。

しかし、実際にはむしろ、数字で話すことは「弱者の戦略」と言っていいでしょう。なぜなら感性的な議論になると最後に勝つのは必ず「声の大きい人」だからです。

声の大きい人とは多くの場合、いわゆる「立場が上の人」「年齢が上の人」となります。そして声の大きい人ほど他人の話を中断し、割り込んで、マウントを取ろうとします。そうしないと自分の意見が通せないことを理解しているからです。そうしないと数字で話す人に「負けてしまう」とでも思っているのでしょう。

こうして結局、現場の人や若い人の意見は握りつぶされ、旧時代的な考え方の意見が採用されてしまうのです。保守的、と言って差し支えありません。

こうした組織はいつまでも変わることができません。

多くの人がそんなフラストレーションを抱えているのではないでしょうか。「数字で話す」ことはそうした状況を打開するための強力な武器となるのです。


ビジネスは「数字を追いかけること」の連続だと言えます。

それは企業が永続的に営利を求め続ける存在としてある以上、絶対に覆せないものです。

 目標売上〇〇億円
 目標利益〇千万円を目指す
 固定費の〇〇%の削減を目指す
 etc.

そのわりに現場ではあまりにも数字に無頓着で、感性的な言葉が飛び交っているというのが現実ではないでしょうか。

 「"もっと"訪問件数を増やせ」
 「"もっと"安くしろ」
 「"最近"どうも顧客の反応が"鈍い"から、
"なんとか"しろ」

こうした「旧来型」の上司にありがちな指示は何かを言っているようで、実際には何も言っていないのと同じです。

かと言って何一つ"考える"ことをしないで、根拠もなく適当に

 「あと1000万、売り上げを伸ばせ」

と言ったところで、その実現性1つ浮かんでいなければ意味がありません。

たとえば、1000万という数字は具体的に、どの程度の労働力提供によって得られるのでしょうか。月当たりの原価水準は、

 大手SIerの担当で100~120万、マネージャークラスで150~200万
 中堅SIerの担当で65~80万、マネージャークラスで100~120万

と言ったところではないでしょうか(10年くらい前の記憶ですけど、そんな大きく変わるのかな…?)。これは、その原価に見合った働きをしていればお客さまに請求できる金額…と思ってください。つまり、1000万稼ごうと思ったら、

 マネージャークラス1名で5~6カ月
 担当クラス1名であれば12~15カ月

その原価に見合ったパフォーマンスをお客様に提供し続けて、初めて手にすることができるわけです。簡単に「1000万なんとかしろ」と言われても、その期間分の仕事に従事できる要員や要求スキルを考えると、それがどれだけ難易度の高い話かが見えてくると思います。

具体的な行動につなげるためには、

 あいまいな指示を、具体的な数字に落とし込んで語る

ことが不可欠です。

訪問件数をもっと増やせという「もっと」とは、具体的に何件なのか。
もしそれが1日5件だとして、なぜそれが5件なのか。
どんな5件でもいいのか、量だけでなく、質には着目しないのか。

そこまでブレイクダウンして数字で語ることで、現場は動き出すのです。

さらにいえば、「そもそも、件数を増やせば本当に売上は上がるのか」という疑問を持つ人もいそうです。もし、そう聞かれたらちゃんと「数字で」答えることができるでしょうか。あなたが経営者や上司なら、自分の指示を常に「数字」に落とし込むクセをつけましょう。一方、あなたの上司が残念ながら「数字で話せない」人ならば、あいまいな上司の指示を自分の中で数字に落とし込むクセをつけることです。


これは、プロジェクト計画でも同じことが言えます。

多くの計画書は「まだ計画を立てることに不慣れな人向け」として必要最低限すら満たさない程度のテンプレートとなっていることが多いと思います。わざわざ会社の中でベテラン向け、若手向け…というように書式を変えたりはしませんから、大抵の場合は「レベルの低い人」に合わせていることと思います。

ですが実際に効果を期待するのであれば、

 現場が動き出せるほど具体的なルールや手順

…いわゆる『アクションプラン』となっていなければならず、スケジュールやコストなども、そこで指定された計画数値が、信憑性の高い根拠を示せるものになっていなければ、本当の意味で実現性の高い『計画』とは呼べません。計画とは、ただの夢物語ではなく、実現可能な具体的将来像でなければならないからです。

たとえば、ある機能の設計書を作成する日程を担当Aくんに5日割り当てるとして、

 その5日の根拠は?内訳は?

もし、「1日に2ページ作るとして、10ページ程度を予想しているから」と言うなら

 「ただ作成するだけで5日費やしてしまったら、レビューの日程は?」
 「レビューで指摘を受けたら、その修正スケジュールは?」
 「そもそもどの程度の件数、指摘を受けると見込んでいるのか?」
 「と言うか、1日2ページは妥当なのか?」

等々、具体化を求められると必ず答えられなくなるでしょう。日本ではこのような精緻な計画を「費用対効果が悪いから」という理由で忌避する企業や現場もあります。そしてそれが当たり前のように横行するのです。

だから実行するメンバーの力量に100%依存したギャンブルのような仕事が増えます。だから若手や未経験者はいつも苦労を押し付けられるし、いつも理不尽な精神的苦痛が耐えないわけです。そんなものマネジメントでもなんでもなくただの丸投げでしかないというのに、です。

大手SIerでは、生産性や不良件数などもスケジュールとあわせてすべて管理するため、プロジェクトの様々な実績結果をデータとして蓄積し、

 「T社は平均〇件」
 「J言語なら、全社的に平均□件」
 「C工程なら、平均△件」

と言った基準値を持っているところもあります。そうなるための具体的な条件や状況なども一緒に情報管理していれば、そうすることによってより信憑性の高い、より具体的な計画やリスク管理が可能となる可能性があるからです(残念ながら、まったく同じ条件ということはあり得ませんし、携わるメンバーの違いや経験頻度の違いでも大きく効果は異なるので、参考程度にしかなりませんが)。

ただし、これらは常日頃からデータを蓄積する試みが無ければ、絶対に運用できません。ですが多くの企業では、まだこうしたデータ蓄積が導入されていないためなかなか難しいでしょう。


以前、あるベンチャー社長が若い頃のエピソードを語った記事を読んでいて、「これぞまさに『数字で話す』だ」と感銘を受けたことがあります。

その方は若い頃、企業にコピー機を納入する営業マンをしていたのですが、いきなり飛び込みで訪問し、マニュアル通りのセールストークで売り込みをしてもなかなか成果が上がらなかったそうです。

そこで、やり方をがらっと変えました。

まず、担当エリアの会社を1軒1軒回り、セールスは一切せず、使用中の事務機器メーカーとリース料、契約期間、1日のコピー枚数などを聞いて回ったそうです。そして、その数字を分析した上で再訪し、

 「コピー機を弊社のものに替えると、こんなに節約できます」

と具体的な数字を示して営業するようにしたところ、面白いほど契約が取れた、というのです。

現在は価格を比較するサイトなども多いため、同じやり方でそううまくいくかどうかはわかりません。

ただ、

 「当社ならコストが"ぐっと"削減できますよ」

といった感性的な言葉よりも、

 「年間〇〇万円削減できますよ」

のほうが伝わるのは言うまでもありません。人はどんなに「いいですよ」「すごいですよ」と言われたところで、それが具体的にイメージできなければ心を動かされません。

それが「100万円もコストダウンできますよ」「売上が20%上がりますよ」などイメージできる"数字"を使って語られた瞬間、頭の中で具体的なイメージが浮かび、心を動かされるのです。
 

もう1つ、「数字で話す」ことの意外な効能があります。

それは、

 数字をスラスラ使って話すと、
 すごい人(=ちゃんと考えている人)と思われる

ということです。
コンサルタントは主要な数字を覚えるクセがついています。
新人のうちからそれだけを徹底的に叩き込まれるからです。

そのため、

 「御社の今年の売上は350億円でほぼ前年並み、
  営業利益は20億円ちょっとで前年比2割減、
  営業利益率で6%弱ぐらいですよね」

といった感じで数字を混ぜ込みながら話すことができます。私も、品質を保証する上では、必ず"具体的数字"を提出するようにしています(すべてかどうか…は集まるデータ次第なので、何とも言えませんが)。

エンジニア時代にも、マネージャー時代にも、そしてQA時代であっても、数字で説明し、ご納得されないお客さまはいませんでした。

事実に基づく正確な数字にはそれだけの説得力と、言い返せない魔力があります。

いい返せるとしたら、取引を討論の"勝ち負け"か何かと勘違いして、頑として受け入れようとしなかった人がごく僅かいらっしゃった程度ですが、たいていの場合、同席された別担当の方がご納得されて渋々折れていただいていました。

数字で表現するにあたってはなにひとつ特別なことは必要ありません。
やってること自体は、学生でも、なんなら中学生でもできることです。

ファクト(事実)を数字で把握しているから、その数字が頭に残っているだけ。それでも「この人はこんなに自社のことを知っているのか」と思ってもらえたりします。

細かい数字まで覚え込む必要はありません。
なんなら、端数を切り捨ててざっくりでいいのです。

 2.8%をおおまかに「3%程度」
 1011万をざっくりと「1000万強」
 不良9件を「10件未満」

と表現して、何が困ると言うのでしょう。

大事なのは、自分は数字を使って考える人間だと相手に伝えること。コンサルティング業界では、駆け出し時代にこうしたプロ意識を叩き込まれます。

欧米のビジネススクールには、世界各国から頭の回転が速い人たちが集まってきます。中でも、インドや韓国の中には、とてつもなく計算能力が高い人がいて、瞬間的に暗算し、数字を使いこなすさまはまさに魔法と言われています。

あまりにも数字で話すことに慣れていない文化で育つ日本人では、まったく歯が立たないんだそうです。

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