見出し画像

ムダを省けば企業もうれしい/個人もうれしい

人口構造の変化と同じように重要でありながら、経営戦略上ほとんど関心を払われていないものとして、支出配分の変化がある。21世紀の初めの数十年は、この支出配分が重要な意味をもつ。

ドラッカーの言葉ですかね。

かつては、生活水準の高さを示す数字として、エンゲル係数が使われていました。エンゲル係数とは、1世帯ごとの家計の消費支出に占める飲食費の割合(パーセント単位)のことです。

画像1

こうした支出の割合を以って状況を正確に測ろうとするのは、何も生活に限った話ではありません。プロジェクトマネジメントにおいても、企業経営においても同じことが言えます。

「支出配分の変化こそ、企業にとってあらゆる情報の基本である」

プロジェクトマネジメントにおいて、「仕事の進め方に無駄はないか」「無駄な成果物は存在していないか」を検討するのは、マネージャーのみの責任と思われがちですが、意外とそうでもありません。

支出が多いと言うことは、一人ひとりのメンバーの活動において、その部分に何かしらの注力をしていると言うことです。そして、その注力している活動が、本当に必要なものであれば、かならず後でそのコストに見合った対効果があるはずです。対効果が望めない活動や投資に支出ばかり当てるのは、失血死を待っているような状態と変わりません。

そして、対効果のない業務を続けようとするから、ムダ(冗長コスト)が発生します。人の活動に無駄があれば「人件費」という形で支出が増えますし、事業に無駄があれば「変動費」という形で支出が増えるのでしょう。

これは、マネージャーだけでなくメンバー一人ひとりにとっても、日頃行っている業務一つひとつに対して、

 「どうすればもっと効率的に作業できるか」
 「どうすれば残業を減らせるか/しなくて良いか」
 「本当にそれは必要不可欠なことなのか」

を考えて行動しなければなりませんし、そう考えながら従事することが求められています。ただ言われたこと、ただ目先の作業を、何も考えずにこなしていればいいというわけではありません。少なくとも知識労働者の自負があるというのであれば、それに見合った知性を発揮して欲しいところです。

もちろんマネージャーがそのコントロールや支援、環境整備をしなければ、メンバーは意識的な活動ができないこともあるでしょう。そういった意味で双方に責任があると言えます。

そして、その理想的な関係の実現のためには1日の、あるいはプロジェクトの予算が具体的にどのように消費されているのか、人月や単価だけでなく、各活動ごとの支出…コストと、そのコストに見合った費用対効果について、強く意識しなければなりません。

 ・普段から見ていればわかることなのに、誰も見ようとしない。
 ・誰も関心を持たないから、利益率が上がらない。
 ・利益率が上がらないから簡単に上げられるような仕事を探そうとする。

簡単に利益を上げられるようなそんなものが本当にあれば、どの企業だって飛びつくことでしょう。見つけにくいだけで、実際には探せばあるのかもしれませんが、そもそも発見率は高くないはずじゃないですか。にもかかわらず、そのことに未練を残して稼働率を上げ、無駄なコストが増える…もうどこからツッコんでいいやらって感じです。

プロジェクトの支出が適正かどうかを測定するには、EVM(アーンド・バリュー・マネジメント)がわかりやすいかと思います。

画像2

EVMは、作業の進捗と支出の進捗を測定し、プロジェクト進行の適切性を把握する方法です。ここで詳しくは語りませんが、コストとスケジュールを監視したいのであれば「EVM」、スケジュールに余剰を生まず、ムダなく最短でプロジェクトを進行したいのであれば「CCPM(クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント)」を活用するといいでしょう。


そもそも利益は、売上と経費の差額によって生じるものですから、「売上を伸ばす」か「コストを抑える」かでしか、利益を伸ばす方法がありません。ですが、利益については知っているとしても、多くの人は「売上を伸ばす」よりも、「コストを抑える」方が楽なことを知りません。

もしも、提供するサービスなりプロダクトなりの価値(あるいは付加価値)を飛躍的に向上させることができれば、それに見合った対価を請求できるので、売上を伸ばすことも可能でしょう。ですが、仕事の仕方を変えず、作るものを劇的にいいものにするでもなく、漫然と仕事をしているだけでは、価値そのものが向上しません。仕事の流れや仕組みを見直すことなく、売上をあげるのは原則不可能なのです。

そこで、労働集約型のビジネスモデルを中心とした企業はどうするか、と言うと、企業を成長させる…あるいはさせているとみせるために労働人口を増やそうとするわけです。働く人間が増えれば増えた分だけ、売上は伸びます。コストに変化が無ければ、相対的な利益率は変わらなくても、絶対値として一定の利益は増えることになります。

が。

この労働年齢人口減少時代において、そんな前時代的なビジネスモデルが中長期戦略として成立すると思いますか?

短期的に見れば、まだもう少しの間はなんとかなるかもしれません。大企業がリストラを敢行してくれている現在、超優秀な人材はともかく、そこそこな人材は見つけられるかもしれません。40代の採用なら、あと10年やそこらは何とかなるかもしれません。

ですが、今、抜本的な手を打っておかないと、労働人口を集めるだけの対策では、いずれ必ず破綻するでしょう。

それに、労働人口を増やしても、景気の波によって、労働人口分の仕事を取ってこなければ、人件費ばかりが増加し、赤字化して倒産…なんてことにもなりかねません。価値向上に注力することなく、売上をあげようとすると、必ず大きなリスクを伴うことになります。


それにくらべると「コストを抑える」のは圧倒的に楽です。

仕事ってのは、基本的に「ムダ」があるものです。ムダがゼロの仕事なんてそうそう見つかるものではありません。どんな仕事でも、属人的にすすめれば、組織活動に支障が出てしまって大きなビジネスにはつながっていきませんし、凡人でも非凡な成果を出すために仕組み化すれば、定期的にその仕組みを最適な状態に調整していかないと、いずれ陳腐化して、時代に合わなくなります。このちょいちょい現れる時代に合わない部分が、仕事上で大きな歪みとなって、ムダとなるのです。

ですから、毎年毎年徐々に陳腐化し、ムダが増える仕事の仕組みを見直すだけで、常に余計なコストが相当に抑えられるわけです。

みなさんは見たこと、経験したことありますか?

 究極にまでムダを削ぎ落された、完璧にスリムな業務

ってヤツを。私は、個人作業ではそうするつもりで常日頃考え、行動しているものの、それも完璧ではありませんし、組織活動において、それを自覚できるまでに優れた仕組みと言うのは実感したことがありません。どこか不満を感じたり、「もっとこうすればいいのに…」と思うのが常です。


だけど、「コストを抑える」方が普通は楽なことが多い…なんてことを知らないし、知ろうとしない現場や経営者が多いから、楽(効率的)にできる方法がないか模索する努力を惜しむのです。仮にそんな方法があっても周知されない、周知する記録体系もない、仕組もない、組織も徹底させない、etc.…。だから、こっそり努力してできるようになった者だけができて、それ以外の人は自覚し、努力するまで一生できないままとなっていきます。

結果、ますます属人的になっていくだけの負のスパイラルのできあがりです。

ほら、大抵そうじゃないですか?

 「楽をするために全力で頑張る」
 「楽をすることを全力で頑張ってる」

的なことを言って結果を出している人って、それなりに周囲からひとかどの人物として見られていますよね。


不景気になって市場が冷えると、望むと望まざるとに関わらず、収入(売上)側が絞り込まれていきます。どのお客さま企業にも予算の都合と言うものがありますので、どうしても不景気には財布の紐が固くなるのは仕方がないことです。そのような中でも、企業存続のために利益を確保しようと思ったら、どうしたって支出(コスト)に目を向けるしかありません。

しかし、好景気と不景気でビジネスモデルを変えるわけにも、業務の流れやルールをコロコロと変えるわけにもいきません。働く社員一人ひとりのスイッチングコストがバカ高くなりすぎて、逆に継続的な事業の体を為しません。

だから、常日頃から、

 「売上を増やして利益をどう上げるか」で考えるだけではなく
 「支出を減らして利益をどう上げるか」も考えなくてはならない

のです。

前者は、好景気やチャンスが訪れた時のごくわずかな期間でしかできない、あるいは新しい事業を企画し、大々的に売り出すときなんかに考えるものです。前者を選び、後者に目を向けず、前者に頼りきったビジネスモデルとしてしまった時点で、おそらく不景気を乗り切ることは難しくなります。

『支出配分に疎い』ということは、企業レベルで大きな問題なのです。

みなさんがそうしたことに興味を持っているのかいないのかはわかりませんが、組織の一員として、一人ひとりが強いコスト意識を持てないと、いずれ来たる不景気に耐えられない組織となっていることでしょう。


もちろん売上を伸ばすという思想のすべてが悪いわけではありません。しかし、たとえば、私たちのようなB2BのIT業界において、見積り手法のほぼすべてが

 単価 × 工数

と言う見積り方をしますが、この見積り方を続ける限り、単価…すなわちエンジニア個人の付加価値で交渉するのであればまだしも、工数をみだりに増減させることができません。

エンジニア個人の成長速度なんてそれほど高いわけでもありませんし、そもそもエンジニア一人当たりの適正単価なんてあって無いようなものです。お客さまの財布に事情がある以上、それ以上を引き出すには「単価」という概念では限界があります。

かといって、ある製品を作成し、納品するまでにかかる「工数」がコロコロと変わっては信頼を失います。適正以上に請求したとしても、それは見積り根拠の虚偽によるもので、ただただお客さまの信頼を裏切っているにすぎません。

ただでさえ、巷では「IT業界の工数見積りは時代遅れ」と言われている昨今、「実力以上の単価請求」「実績以上の工数請求」と言ったような、半ば詐欺のような売上向上にともなう利益上昇を続ける企業は、この先、生き残れなくなっていくでしょう。


常日頃から本当に見定めるべきは、従来の仕事に対するムダの排除です。

PDCAが苦手と言われる日本人ですが、本当に、適宜見直すことをしないと、アッという間に時代に乗り遅れることになりますよ。というか、昨今の企業の寿命がおよそ23年くらいでしたっけ?

それって要するに、企業体質や業務内容を見直さないまま組織を継続維持できる限界値ってことなんじゃないですかね。



色々難しいことこねくり回してきましたが、最後の最後にまとめるなら

 いいじゃん!
 もっと楽に仕事できる方法をみんなで探そうよ!

ってことです。

いただいたサポートは、全額本noteへの執筆…記載活動、およびそのための情報収集活動に使わせていただきます。