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プロジェクト計画書の作り方|実現可能性があるか

よく中途半端なエンジニアやプロジェクトマネージャーからは

 「計画書なんて意味ないんじゃないの」
 「どーせ作っても、あと使わないし」

と囁かれてきましたし、今でも同じように聞こえてきそうですが、そう思う人がいるということはおそらくその計画書は

 まったく意味がない

ことでしょう。

計画書とは、目標(ゴール)を設定した後、そのゴールまで「どうやったら辿りつける(つもり)か」を具体的に記述したものです。メンバー一人ひとりが計画書を読みながら、計画書通りに業務に勤しめば、プロジェクトは必ず成功する…となるべきものです(最終的な理想)。

そして、それらは実現可能なものでなくてはなりません。

実現可能性の低いプロジェクト計画書なんて見ても無駄です。
見たところで実現しないのですから当然です。

ちなみに、ググって見つけることができる様式やその他企業・各部門でオリジナルを利用されている様式も、基本的に元をただせば大手メーカーやSIerの書式を模したものがほとんどです(私も元は大手SIer系の出身者なので、当時使っていた「開発品質計画書(通称、開品計)」を参考にしている部分は未だに多々あります)。

本当の計画書とは、利用者が困った時に誰かに聞くものではなく、

 「遠足のしおり」

と同様に何度でも見直せて、それを見るだけで大抵の作業は行き詰まる必要もなく、行動できる

 バイブル

のようなものでなくてはなりません。「作れ」といわれたから何となく作っただけの計画書ほど無価値なものはありませんし、そんな無価値なものを作るために人生を費やすほどバカげているものはありません。

「遠足のしおり」のくだりを子供に説明するレベルとナメてかかっている人は、おそらくこの本質を理解できていないでしょう。

計画書はかっこよく書けばいいというものでもありませんし、読み手が理解できない難しい内容を書いて悦に浸るものでもありません。その意味では、「計画書」がメンバーにとって指針となり、困った時には何度も見直されているプロジェクトなんてどれほどあるでしょうか。

マネージャーにとっては「評価」するための比較元であり、メンバーにとっては困った時にまず「確認」するためのバイブル。それが計画書の本来のあり様です。

そんな計画書が作れているプロジェクト、プロジェクトマネージャーは2割もいないのではないでしょうか。

この問題は、

大手SIerの様式に則しすぎて
「何を」「どうする」は記載しているのですが、
「どうやって」の部分が抜けてしまっていて、
後でプロジェクトメンバーが見直したくなる要素が無い

という点にあります。思考停止してどこかのものを流用すればそれでいいと思っているようでは、まともに扱えるわけがありません。チームにとって、あるいはプロジェクトの特性にとって最適解であるかを考えていないわけですから当然です。

たとえば「プロジェクトの終了条件」について考えてみましょう。言い換えるなら、プロジェクトがどのような状態になったら「目標を達成した」といえるのか?という定義でもあります。

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こんな感じの抽象的なサンプルならいくらでも出てくると思います。でも抽象的すぎて、実際にはこの基準に則って確認することはできず、形骸化しているはずです。

記載する方向性自体は間違っていませんが、問題はこうした条件を満たすためには

"どうやって進めればいいのか"
"どんな評価をすればいいのか"

を記載する箇所が無いということです。

他の定義、他の手順を組み合わせれば、最終的にこれらが満たせなければなりませんが、他の章でも目標や定義を記載するだけで

 「どうやって実現するのか」

と言う進め方に関する記述欄が殆ど存在しないのが問題です。

たとえば、コストマネジメントの定義において、多くのプロジェクトでは

 「原価率85%で終了する」
 「利益率15%で終了する」

といった、プロジェクトのコストコントロールについては一切触れないまま企業の目標値をただ言いなりになって記載するだけ…というケースが多いのではないでしょうか。

記載はどちらでも構いませんが、こうした目標を立てたとします。

しかし、その実現のためにはどのようにコストセンターであるメンバーたちを操作して、どのような手順やどのような手段を講じてその原価率にするのか、多くの計画書では判断できないままとなっていることでしょう。

ですが本来、コストマネジメントはいわば「見積り」の延長線上にあるものです。WBSから各タスクに対するアクティビティを特定して、作業見積りを行って正確な予算を見積り、そのコスト計画内で収まるようコントロールするのがコストマネジメントです。

もう少しわかりやすく言うなら

 お母さんの「家計のやりくり」

と同義です。家のことに無頓着で外で働くだけの人にはひょっとするとこの大変さ、偉大さがわからないかもしれませんね。家計をやりくりする術を持たない人、経験してこなかった人には、本当の意味でのコストマネジメントは困難かも知れません。

実はこれ、他社の計画書様式…特に大手SIerを模してしまうことに問題があります。いえ大手SIerの計画書がダメなのではありません。大手SIerと自社の違いを理解しないまま模してしまうから失敗するのです。

大手SIerはほぼすべての企業の中で、独自の開発プロセス(開発モデル/開発標準)を持っています。そのためその開発プロセスに準じてプロジェクトを進行する都合上、計画書にはわざわざ「どうやって」の具体的手段を記載する必要がまったくありません。

各SIerが、それぞれ自社で持つ開発プロセス通りに進めたとしたら、

 「どんな体制で」
 「どのくらいの予算で」
 「どの程度の基準に達成することを目標とするのか」

といった定量的な定義を設定するだけで、計画書は成立してしまうのです。

しかし、多くの中堅SIer以下の企業には基準となる開発プロセスがありません。そこに重きを置いていない経営者や管理職も多いし、エンジニア達も変に個人主義にこだわってフリーダムにしたがります。

基本、属人的な定義に依存するため、抽象的に計画を構築することはできても具体的に「計画」まで落とし込むことはできません。

 ・スケジュールを立てる
 ・進捗を確認する

大きく2つだけやっていればそれ以外は各エンジニア任せで、あとは都度出てきた課題に対処するのがマネジメントだと勘違いしている人も多いのではないでしょうか。


また、Web系アプリ、Windowsアプリ系、モバイルアプリ系、組込み系、etc.…技術体系の全く異なる開発プロセスを一意に固定化することは非常に困難です。

たとえば富士通系列であれば「SDEM(エスデム)」、日立系列であれば「HIPACE(ハイペース)」などが主流だったかと思いますが、当然各SIerの中でもグループ企業や事業体ごとに取り扱う開発プロセスは異なっていると思います(盲目的に相性を考えず強制したプロジェクトは軒並み失敗しているんじゃないでしょうか)。

そう言った事情や背景を知らないまま「大手が使っているものだから」と妄信して真似しようとしても上手く活用できないのは自明の理です。うわべだけしか見えていないのですから当然です。

逆に、自社、自部門等のなかで技術体系にあわせてそれなりに確立された開発プロセス/モデル/標準が構築できて、現場で推進されてさえいれば、大手SIerと同じ計画書様式でもうまく活用することができるでしょう。


では、大手SIerと同じ粒度の計画様式にしないとした場合、各プロジェクトではどのようなことを書けばいいか?

そこで、もう一度振り返って確認すべきは

 遠足のしおり

です。遠足のしおりは子供が見ても若干難しいかも知れませんが、たとえば子供が迷子になった時に、その辺の通行人に見せても、初見で

 「誰が」「いつ」「どこで」「なにを」「どうしているのか」

がわかるようになっています。いざと言う時、子供が頼るべきは大人だからこそそうなってないといけないからです。

プロジェクト運用においても同様です。

プロジェクトリーダーあるいはマネージャーが不在になった時に、メンバーたちが見れば、

 「誰が」「いつ」「どこで」「なにを」「どうすべきなのか」

がわかるようになっていて、プロジェクトの進行が止まらないようにしなければなりません。しおりだからです。プロジェクト計画書を作成する際、本当に注視すべきはこの観点です。

ただ、会社から言われたからというだけで「やらされ感」の強い人も多いと思います。しかし、計画書を作成しない、あるいは計画自体を明確に思い描いていない人は2重の意味で不誠実と言わざるを得ません。

1つは、『会社やメンバーに対して』です。

エンジニアとはいえ企業の従業員である以上、第一の目標はやはり「利益貢献」です。他にもいくつかありますが、真っ先に見られるポイントは利益貢献です。

企業である以上、永続的に営利(栄養)を求めるのは仕方のないことです。そこに貢献することで評価を受け、金銭や待遇面の改善が行われることになるのです。

すなわち、プロジェクト活動において

 売上から経費を除けば、必ず利益が出る

ようにするためにはどうすればいいかを、メンバーや会社に説明できない、
あるいは説明できないような計画や進め方で仕事をするのでは、不誠実と言わざるを得ません。計画が杜撰と言うことは、プロジェクトを始める前から会社やメンバーを安心させる根拠も構築できないということに他なりません。

もう1つは、当然『お客さまに対して』です。

お客さまこそがプロフィットセンターです。プロジェクト活動で動くお金の大半はお客さまが稼いできた中から動くことになります。私たちが最終的に「利益」として得るお金でさえも、お客さまが作ってくれたものであり、お客さまが「お金を払ってもいい」と思ってくれた結果です。

それをどの程度用いて、どのような要求に応えるのか、それは本当に応えられるのか、どうやって答えるのか、一切説明できないということはお客さまに何1つ計画実現の保証ができないということです。

計画しないということは、100万、1000万、1億という金額を無計画でギャンブルのように使い、失敗したら謝ろう…程度の姿勢で取り組もうというのと同義です。

計画は、

 あらかじめ"始める前"に、
 成功するための筋道を立て、説明できる状況を作り出す

というものです。

「遠足のしおり」がたとえ話として優れているのは、それ1冊で多くの児童の親御さんたちも納得させるだけの説得力と、計画実現性の高さが非常に優れている、と言う点にあります。単純にわかりやすさを追求した結果として引用しているわけではありません。

ゆえに「遠足のしおり」の引き合いを嗤い、軽視する人は恐らく計画書の重要性を正しく認識できていないということでもあるのです。

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Takashi Suda / かんた
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