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決めたのになぜ動かない

結論から言えば、それは

 「決めた」のではなく、決めた「と思ってるだけ」だから

です。要するに「決める」「決定する」という言葉の意味を理解していないと言うことです。

 「会議で合意したはずなのに、なぜみんな動かないのか?」
 「どこで止まってるんだ?」

このような疑問を抱いたことがないでしょうか。

私は、過去のプロジェクトまで遡れば何十回、何百回と経験してきましたし、経験するたびに相当なストレスを抱えてきました。もちろん周囲の人からもよく耳にすることがあります。

つまりどういうことかと言うと、それだけ似たような経験をしている人が多いということは、

 その一人ひとりあたりに数名~十数名の人たちが
 会議をよほど軽視していて、ロクに守ろうとなんてしていない

と言うことです。
また、それを許そうとする人が周囲にいるからまかり通るわけです。

いかに会議で効率よく議論がなされ、決定が下されたとしても、実行されなければ何の意味もありません。さらに会議時間中は生産活動が一切できませんので、

 "するだけ無駄"
 "失われた時間を残業で充てなければならない"
 "個人の人生においても無駄"

ということになります。
正直、そんな人たちはまともに実行しようとしている人たちにとってただの人生の邪魔にしかなりませんし、そんな無意味な会議には一切呼ばれたくないと思っているのではないでしょうか。


 「腹落ちできていないから行動しないんだろう」

最初は、ひょっとすると?と思ってそう考えていた時期もありました。とは言え腹落ちしようとすまいと決定事項に逆らうこと自体がそもそもナンセンスです。抵抗するしないに関わらず、決まった以上は実行するのが仕事のはずです。にもかかわらず腹落ちしなければ行動しない…と言うのもおかしい気がします。

そもそもその「腹落ち」とは一体何なのでしょうか。

辞書には「なるほどそうだと思う。納得する。得心する。」と書いてあります。しかしなんともこの説明だけではそれこそ腹落ちできません。

だいじな要素の1つではあると思いますが、単なる理解や納得のみで人が動くならどれほど楽なことでしょう。

それならいちいち会議なんかしなくても、説明内容を録画して動画で共有しておくだけで十分なはずです。メール一本、指示一言でも十分でしょう。

しかし、わざわざ『時間』という有限な資源を最も大きく消費する会議にする…なにかしらメールや会話1つで済まない何かがあるのでしょう。

合理的説得によって相手を動かそうとした場合、約50%の確率で相手が抵抗を示すのに対し、相手の価値観や感情に訴え掛けると抵抗がほとんどなくなり、約9割の確率でコミットメントが得られる

「マッキンゼーが教える科学的リーダーシップ」

つまり単なる理解や納得だけでは不十分で、相手の内的な動機付けや、それに影響を与える事象に着目することが重要となるわけです。相手の内的な動機付けを知る第一歩は、相手に関心を持って相手の話に耳を傾けることです。

また、どういう時に興味を示しやすいのか、客観的に観察し、内面・外面から相手の心のベクトルを推定することも重要です。

その上で、相手の心のベクトルに共感を示し、そこに沿ったコミュニケーションを取ることで相手のやる気を引き出す可能性が高まっていくのです。

このようなやり方で、うまく相手のやる気を引き出すことができれば、行動につながる可能性はかなり高まるかもしれません。


けれども、それでも十分とは言えません。

目的を理解して、やる気はあっても行動できない、行動を変えられないということがありえます。

免疫マップというもので、以下の四つの要素を掘り下げることで行動を変えられない心理的なメカニズムや、そこへの対処法を探ることができるというのです。

具体的な例を挙げると次のようなものになります。

Aさんは出世したばかりで初めて部下を持った。
これまではずっとプレイヤーとして活躍しており、高い技術と業務遂行能力で周囲をリードしていた。
そんなAさんの部署で進めているプロジェクトでは遅延が発生し、トラブルも頻発していた。そこで定例会議で振り返りと問題分析を行ったところ、Aさんばかりが忙しく、部下にうまく仕事が委譲できていないことが明らかとなった。

1. 目標

Aさんはその結果を真摯に受け止め、納得し、これからは自分の仕事のやり方を変えなければならないと腹落ちしており、部下への『権限委譲』を改善目標に据えた。

2/3. 阻害行動および不安ボックス

次にその改善を阻害している行動を洗い出した。

  • Aさんはいくつかの仕事を部下に振ってみたが、その結果出てきたものの品質が低かった。その際に改善の指示をするのではなく、結局自分で作り直してしまった。

  • すぐいろいろな課題を見つけて新しいことに手を出し、仕事を増やしていた。その結果、自分で仕事を抱え込み過ぎて部下の教育ができなかった。

  • 細かい仕事も部下に依頼せず、目標とした権限委譲と逆行するかのように結果的に一人で抱え込んでしまった。

このように改善に向けて動こうとしているが、別の方向にも動こうとしており改善に向けて集中できていない。あっちにもこっちにも手を広げすぎて結果として何も動いていない状態に陥っている。

客観的に見ると簡単に分かることだが、当事者から見るとなかなか気づかないことも多い。そして、個人レベルでもこういった問題が起こるので、組織ともなるともっと問題が複雑になり、片方では変化を促すような施策が実施され、他方でそれを阻害するような施策が実施されてしまうことはよくある。

4. 裏の目的

次に、なぜ阻害行動をとっているのかを掘り下げた。すると下記のような裏の目的があることが分かった。

  • 自分が技術的には一番でありたい。

  • どのようなポジションになってもプレーヤーとして活躍したい。

  • 些末な仕事を頼んで部下の仕事や成長を邪魔したくない。

いずれも会社員として仕事上の成果を上げたいという善意に根差しており、それ自体に大きな問題がある訳ではなかった。

5. 強力な固定観念

では、なぜ善意に根差した行動が、阻害行動になってしまうのかを掘り下げると、下記のような固定観念があることが分かった。

  • 自分が技術的には一番詳しく、自分でやるのが一番早くて品質も高い。

  • 自分で手を動かして価値を生み出している人が偉く、手を動かさない人は給料泥棒だ。

  • 作業レベルでは人は育たない。

このような固定観念を前提とすると、仕事上の成果を出したいという当たり前の目的が、阻害行動を引き起こしても不思議ではない。


こう言った自己分析はよほど自分と真摯に向き合わなければできません。
自分に対して、本音ですべてを曝け出せるかどうかにかかっています。すぐに言い訳ばかり浮かんでくる人は正しく活用することが難しいのではないでしょうか。

他人に話すならともかく、自分自身にも嘘をつくようであればもう改善することは難しいでしょう。

では、どのようにすれば行動を変えて、動き出すことができるのでしょう。

このような場合、二つのアプローチが考えられます。

一つ目は、『裏の目的を調整するアプローチ(目標変更)』
二つ目は、『固定観念を変えるアプローチ(原因改善)』

です。

裏の目的にも優先度があり、優先度が高い目的が明確になれば別の目的は諦めがつくこともあります。だだこの方法は表と裏、どちらの目的も必達が求められるようなケースには使えません。

二つ目の固定観念を変えるアプローチは簡単なものではないでしょう。自己中心的な人やよほど自分自身のやり方に自信を持っている人は、ほぼ不可能と言っても過言ではありません。その固定観念の反証となるファクト(事実)を作り、積み重ねることによって徐々に変えることができます。

しかし、それは自分自身の『自信』の拠り所を真っ向から否定するような作業です。よほどの覚悟がなければ、なかなかできることではありません。

たとえば上記の場合では、一部の業務について重点的に部下を教育し、専門家を育ててみるといいでしょう。小さな仕事では人が育たないと考えているようですので、ある程度重要なテーマでかつ切り離して引き継げるテーマが望ましいと思います。テーマを絞れば時間が経つにつれて部下の方が詳しくなってきて、自分がやるべき仕事でないことが明白になっていきます。

一方でAさんは「技術的には一番でいたい」「プレーヤーとして活躍したい」といった目的を持っています。こういった願望は、管理職になったからといってすぐに捨てられるものでもありません。「じゃあなんで管理職になったんだ」と思わなくもないのですが、出世しないと待遇改善されない企業も多いため、

 「出世したい」+「好きなことをしたい」

を両立させたい欲求が出てきてしまうのでしょう。技術特化のプレイングマネージャーが課長職にある…というのはこうしてできあがっていくのです。

しかしこうした状況を放置したままにしてしまうと、部下の育成やフォローといった本来の役割が疎かになり、部下の離職率に影響を与えることもしばしばとなるわけです。

一部の業務を委譲しながら、より高度な技術領域に踏み込めるよう目標を立てて、そういった仕事を用意してあげる必要があります。

Aさんの場合は新しい仕事を見つけるのが得意なタイプのようですので、自分の仕事が他の人の手に渡ること自体にはさほど抵抗がないでしょう。

しかし、なかには自分の仕事が減るのを嫌がる人もいるでしょうし、一部の業務テーマに限ったとしても、自分が一番じゃないと嫌な人もいます。

この場合は、自分一人で行動を変えるのは難しいため、身近な人に自分の改善目標と免疫マップを共有し、阻害行動を起こした際に指摘をしてもらって何が大事なのかを思い出してもらうのがよいかもしれません。


しかし、会議において決まったことが実行されないのは、こうしたバイアスの問題以前に1つの「日本語」の理解に原因があります。

それは

 「決める(決定する)」

という言葉の意味を正しく理解していない、ということです。

決めるには、大きく

 「意思決定」「行動決定」

の2種類があります。
そして後者の場合、決定するという言葉の中には

 「行動する」

ということも含まれています。
つまり、行動決定において『決めたのに、動かない』と言うのは、

 「決まっていない」または
 決まった「と思っている」だけ

と同義なのです。

つまり、行動策定を決めるような会議において、決めたにもかかわらず決めた通りに動かないと言うのは、会議および会議によって決定された通り動くべき際の

 その時間、仕事をしていない
 (会議にかけた時間は無駄となり、仕事とは認められない)

ということに他なりません。

しかし、『決める』行為に対して正しい認識を持っていない人は、決めたにもかかわらずその所作を著しく軽視します。

これは「計画を立てても、計画通りに実行しようとしない」という心理にも同様にあらわれます。多くのプロジェクト活動において、プロジェクト計画書を軽視し、

 「計画そのものを見ようともしない」
 「計画を立てても、計画通りに実行しようとしない
 「計画自体を見直すでもなく、刹那的な判断に身を任せようとする」

結果、計画書なんて立ててもほとんど守られることは無いし、それが集団活動だけでなく、個人活動でも同様に行われやすいのもまったく同じ理由なのかもしれません。

決めた通りに動きたくないのであれば、決めないようにあるいは他の決定となるように働きかければいいのに、それをしないのは決めた後にでも容易に覆せると思っているのでしょう。あるいは、簡単にうやむやにできると思っているのかもしれません。『決める』と言うことの重大さを理解していないから起こせる行為です。『決める』場にいるという事実と自らの役割に対する責任意識が希薄である証拠なのです。

もしも、言葉の意味と重大さを理解したうえで動かないのであれば、おそらくは上記のような心の免疫マップを用いて原因分析してみると良いでしょう。

「裏の目的」や「固定観念」が邪魔して、本来"会議"で求められる本質が全うできていないのかもしれません。

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