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人が動く条件

社員のやる気が失せていく

世の中ではそう言った状況に歯止めがかからず、自主廃業するような中小企業も増えているようです。

 「うちの平均年収は、決して低くないはずなのに…」

という話もあるそうですが、以前にあったディズニーの一件を見てもわかる通り「平均年収がなんたら」…と言うのはまったくもって参考になりません。

こうした問題が起きてしまうのは、そもそも経営者や上司が自らの野心ばかりに注目してしまって本来あるべき「仕事」がどうやって成立しているかということを理解していないからに他なりません。

「仕事」のみならず、何をするにおいても高い生産性や品質を実現するためには当の本人が必要十分なスキルや能力を持っていると言うこともさることながら、本人の仕事に対する気持ちも非常に大きな影響を与えます。

だからといって赤の他人がただただ「やる気を出せ」と指示をすることでやる気が出るのなら苦労はありませんし、そもそもやる気など他人が他人をコントロールできるような代物ではありません。

だけど、こんな状況だとどうでしょうか。

  • 個々人の創意工夫が許されていない

  • 何のための仕事か伝えられていない

  • 自分の仕事だと感じられない(自分事にさせてない)

  • 仕事が社会の役にたっていない

  • 成果に対して反応が何もない

  • 続けても成長できる実感がない

こういった事情がいずれか1つでも存在してしまうと、人はやる気を簡単になくしてしまいますし、やる気を出そうにも出せるアテが見いだせません。

できることはこうした状況を生み出さないようにすることです。

 「俺の言うとおりにさえ動けばいい」

未だにこういった高度成長期時代の宿便のような考え方をする人が一部にいます。

確かに、若年層を中心にまだ仕事に慣れていない人たちが悩まなくて済むように、あるいは迷わないようにするための道標としてマニュアルや手順、ルールを作ることは必要です。上司の具体的な指示があってもいいでしょう。

しかし、すべてに対してそんな風に決められた手順から外れないよう、規則や定義にしばられた中で創意工夫もなく手を動かすだけが「仕事」だとしたらそれはまるでただの工作機械です。ロボットと変わりありません。

誰にでもできる単調な「作業」でやる気を出すのは難しいことです。
単調な「作業」だけですべてのビジネスが円滑に進むわけでもありません。

世の中で"マイクロマネジメント"が批判されがちなのはそう言う理由からでもあります。

むしろやる気に左右されず、同じパフォーマンスを繰り返し提供し続ける機械だからこそ、マニュアルが必要になると言う状況に陥ってしまいます。

これは戦時、戦後の『工場』で就労する人たちに対して行うような考え方です。こんな扱いを今の時代でも続けようと言うのであれば、やる気が出るわけもありません。

そもそも「仕事」「作業」は違うものです。

「作業」というのは事前に定められた手続きに従って行う活動のことです。

手を動かすことに価値があります。だから、労基法がそうであるように一定のパフォーマンスを出し続けてさえいれば、労働時間こそが成果となるような考え方になるのです。

一方で「仕事」は、誰かに価値を届けるための活動です。

仕事をする人は「価値とは何か」を考えなければなりませんが、それこそが仕事の醍醐味となります。逆に言えば、相手が満足する価値さえ提供できれば時間は関係ありません。1分で100万の価値を生み出すことも可能なわけです。

仕事で成果を出すために途中で作業をする必要が出てくることもありますが、その逆はありません。仕事には進め方にも創意工夫の余地がありますが、作業にはありません。

仕事の場合、

 「どうやって無駄を省いて効率を上げるのか」
 「どうすれば効果的に価値を出せるのか」

のアプローチは仕事をする側に任されているものです。

私たちのようなB2Bを中心としたIT企業でいえば、顧客の問題や課題を解決することが事業として求められた「仕事」であり、ソフトウェアの開発は「作業」と言ってもいいでしょう。

その事業を担当している社員が本当にするべきことは、

 「たくさんのドキュメントやソースコードを書く」

作業ではなく、

 「作成したソフトウェアを使って、既存の課題・問題を解決する」

仕事です。

実際に利用するユーザーに対して一人ひとりCS(顧客満足度)調査を行っているわけではありませんから、分かりやすい結果や指標がないので非常に難しいと言う側面がありますが、代わりに責任感さえあれば自分で考えることのできる余地がたくさんあるとも言えます。

自分で創意工夫ができると思えば、仕事に対する主導権を握ることができます。それはやる気につながります。社員一人ひとりに対しては「作業」ではなく、「仕事」を任せなくてはならないのです。

しかし、中には自分で考えるやり方に自信がなく、上手く進まなかった場合に他人や他部署に解決を依頼する人もいると思います。そう言う人はまだ「仕事」をするには早く、自分で考えて模索するスキルが身についていません。

"責任感"や"覚悟"が足りていないのです。

まずはルール、基準、手順などのマニュアルを使ってごく初歩的な「作業」に慣れてもらい、最低限の仕組みが理解できてからそのうえであらためて「仕事」に取り掛かってみればいいのです。

 

生産性を高めるために、メンバーそれぞれが一部の工程だけを担当するような体制を作ってしまうと一部だけを担当する人間は全体像が見えなくなります。

何のための仕事をしているのか分からず、やる気を出せなくなってしまいます。

末端の担当者の中には、そう言った状況に陥りやすい人もいるのではないでしょうか。私も、新人の頃はそうでした。3年目に当時の課長に直談判しに行ったくらいです。

 「どんなに小さくても良いから、最初から最後まで関わらせてほしい」
 「製造だけやテストだけでは、自分が何をしているのかわからない」

と。
そしたら、翌日からいきなりプロジェクトマネージャー兼プロジェクトリーダーをさせられて、一度も経験のない見積書作成で戸惑ったことを今でも戦目に覚えています。もちろん誰もフォローしてくれませんでした。まぁそれもどうかとおもうんですけど。


得意分野で役割分担することは効率的ですし、得意な土俵で勝負しようということ自体は悪くはありません。最も自分自身の価値を発揮できるわけですから。

しかし、だからといって全体像や目的まで知らないようにしてしまう、気にしないようになってしまうとむしろやる気は出ずに、生産性は下がってしまいます。

たとえ担当するのが一部の工程であっても、全体像や目的を知っておくことができればより高い目線で仕事にのぞめるようになるし、チームの一員として貢献している気持ちが強くなります。創意工夫をするにしても、目的を知っている方が効果的なアイデアが出せます。

B2BのIT企業ではシステム開発をメインにしている部署が多いと思いますが、そう言った際にはお客さまから相談を受けるとき、どんなシステムを作りたいかを話す前に、

  • どんなビジネスをしたいのか

  • 今のビジネスをどうしたいのか

  • どんな社会を実現したいのか

といったことから情報を整理するのが一般的です。
(本来、「何を作るか」は設計工程で考えることです)

もちろん、ビジネスを成長させる部分まで私たちが担当するわけではありませんが、それを知っていればテクノロジーの観点から実現する方法を提案しやすくなりますし、なにより『顧客と同じ目線』で考えられるようになります。


誰かに決められた仕事をしているだけでは、どうしてもそれが自分の仕事だとは思えずにやる気が出ないときがあります。それは自分で決めたことではなく、他人に決められた内容だからです。言われたことを言われたとおりに実施するだけの作業となり果ててしまうからです。

そうした状況に陥らないためには、たとえばその人が担当できる部分ではないところがあったとしても、なるべく上流の『考える』段階から関係者として参画してもらっていた方がいいでしょう。

多くのコンサルティング企業、多くの大手IT企業が、上流工程から新人を連れて打合せに向かわれるのはそう言う意図も一側面としてあるからです。

また、上司は部下に対して「やってもらうこと」を決めてから仕事を依頼するのではなく相談から入るのも一つの手です。

 「(君は○○が得意だから)これをやっといて」

と言われるよりも、

 「困っていることがあって、君が得意な○○でなんとかならないか」

と相談された方が気持ちよく取り組めるでしょう。頭ごなしに命令するような上司相手では部下も戦々恐々で気持ちよく働けるわけがありません。

そして、『仕事をするかどうか』の最終的な判断は本人にしてもらうようにします。部下に「No」と言える選択肢も渡してあげるのです。そうすると他人が決めたことではなく自分で決めたことになるので、「Yes」と言って引き受けたとしても、「No」と言って別の仕事をするにしても、その決断に責任感を強く感じるようになります。

たとえば、システムに新しく作りたい機能があるとき、「何を作るのか」から語らず「何に困っているか」から話すようにして見ると良いでしょう。

その困っていることをどう解決するのかを一緒に考えていけば、本人には自分の考えたアイデアを実現する仕事になるため、主体的に仕事に取り組んでくれるようになるからです。

 

もし自分の携わる事業が反社会的なビジネスであったり、世の中に悪影響を与えるようなビジネスだったらやる気を出そうにも難しいでしょう。

通常であれば誰も悪事の片棒を担ぎたいとは思いませんから当然です。

お金を稼ぐことも大事ですが、

 「仕事を通じて世の中をよくしていくことに貢献できる」

と思えた方が、前向きに働くことができます。実際、学生の頃あるいは新人の頃にはそう考えてこの業界を選んだ人もいると思います。

しかし、何年もこの業界に居続けて、入社当時と同じような考え方で仕事に取り組んでいる人は何人いるでしょうか。初心を忘れてはいないでしょうか。

いつの間にか、顧客目線になることや社会貢献を目指していたことすら忘れ、

 「新しい技術を追いかけることが楽しい」
 「自分の知っている技術、得意な技術だけやっていたい」
 「アレやりたくない、コレやりたくない」

いつも頭の中では全然違うことを考えていないでしょうか。

事業に取り組む組織にはビジョンや価値観、達成するべき目標などがあるので必ずしも個人の想いとすべてがマッチングするわけではありませんが、少なくともそれを知った上で本人の信条ともフィットするならば、やる気を持って仕事に取り組めるはずです。

企業に価値を生み出し、企業が存続するために活動しているのは社員です。
企業が勝手に稼いで、勝手に存続しているのではありません。

常に『人』の活動がベースになって事業が成立しているのです。
『人』を疎かにした組織は決して長続きしません。

より多くの社員にやる気を持って一緒に働いてもらいたいならば、社会にとって意義のある、あるいは意義があると感じてもらえる仕事にするべきなのです。

少なくとも、売上や利益ばかりを見て、部下に押し付けるだけのスタイルを貫こうとするのは、結果的に組織や企業を衰えさせる一助となっているのだということをもう少し自覚すべきなのかもしれません。

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