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生産性は「量」以上に『質』が大事

経営学者のピーター・ドラッカーは、

 「生産性の本質を測る真の基準は、量ではなく質である」

と述べました。これは経営者視点でビジネスモデル(ビジネスの仕組み)を検討するときによく当てはまります。

たとえば高収益で有名な計測制御機器メーカーのキーエンスは、顧客に対して価値の高い製品を提供することで圧倒的な高価格を実現しています。量以上に質が大事というのは、一般のビジネスパーソンにも当てはまる話です。特に知識労働を中心とするホワイトカラーではその傾向が強くなります(それに対してレジ打ちのような定型業務では、スピードや量が圧倒的に重要になります)。

さらに書籍の出版というビジネスでは、会社にもよりますが、上位10%の編集者のつくった書籍が利益の80%から90%を稼ぐといわれています。見方を変えれば、平均的な編集者が業務をこなすスピードが1.5倍になり、アウトプット(出版する書籍の数など)の量が1.5倍になっても貢献は限定的ということです。

これは決して量が大事ではないという意味ではありません。生産性というと、一般的にはインプットとアウトプットの対比で説明されます。言い換えるなら、

 「かけた費用に対して、どれくらいの価値を生み出すことができるか?」

ということです。

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コストとは工数…つまり労働力量のことですが、具体的には

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となります。これは個人であってもチームや組織であっても同じです。かけた工数分だけ予算を費やすわけですから、この分母をイメージしておきましょう。

そしてかけた工数に見合ったアウトプットはより質のいいモノを、よりたくさん提供できればできただけ、生産性は高いということになります。

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仕事をこなすスピードがあがり、アウトプットの量が増えること自体は悪い話ではありません。しかし知識労働の比重が増えるに伴い、量以上に質が大事になってくるのです。

とは、最終的に企業にキャッシュをもたらす顧客に対する価値の高さです。生産性向上というと住々にして

 効率化=スピードアップ

に目が行きがちですが、それ以上に顧客にとって価値のある(高額であっても対価を支払うに値する)仕事、あるいはそれにつながる仕事をすることが大事です。

 まずは効率化=スピードアップからスタートし、
 その余った時間を有効活用して質の底上げを図る

というサイクルがいいでしょう。

消費者の目線から考えてみてください。
日本語にも

 安物買いの銭失い

という言葉がことわざとして残されているくらいです。質より量が良いということになるケースは決して多くありません。少なくとも、IT商品やサービスのような高額消費に対しては、なにより「質」を求められることが多いのではないでしょうか。

もともと、IT業界は常に人手不足と言われてきました。

しかし昨今ではその傾向が顕著で、高齢化の進む中、人材の確保も難しくなる一方です。そのような中で製品やサービスの質で勝負せずに、人工(にんく)つまりは量だけに頼ったビジネスを継続していては、遠くない将来いつか破綻します。

ゆえに私たちエンジニアは、効率化に力を注ぎつつも、なにより価値の高いサービスや製品を提供しなければなりません。その「製品/サービス」すらもただ製品を作っていれば、サービスを提供していればいいだけの時代はもうとうの昔に終わっています。

ただプログラミングだけ楽しんで、何かしら言われた通りの製品を作っているだけの作業者はもうこれからの時代を乗り切ることはできません。本当の意味でのエンジニアは

 『Engineering』(工学)

を修め、それを駆使できなければなりません。

工学…私たちIT業界の場合はソフトウェア工学になりますが、ソフトウェア工学は

 実装だけでなく、開発だけもでなく、その後の運用・保守に関しても
 体系的・定量的にその応用を考察する分野でなければなりません

ソフトウェア工学には「設計法」と「生産法」の二つに分類される領域がありますが、ソフトウェア設計法はソフトウェア構造を考察する領域であり、一般的にソフトウェア・アーキテクチャと呼称されています。

つまり「エンジニア」とは、アーキテクチャを使いこなせる

 ソフトウェア・アーキテクト

も兼ねていなければならないということなのです。プログラミングができるだけで「エンジニア」と呼ばれる昨今では、「アーキテクト」は別に切り出して役割定義されることが多いですが、実際に現場でアーキテクトが重用されている…という話はあまり聞きません。

それくらいレベルの高いポジションであると同時に、アーキテクト不在のまま「なんとなく」で開発している企業が多いんですね。


もちろん「質」をいったん身につければ、あとは「量」の繰り返しによって「質」の向上を図らなければなりません。量と質はどちらかだけで十分なのではなく、どちらも必要です。ただ、まず「質」の基準を正しく知らなければ、正しく「量」をこなすことすらできないということを知っておかなくてはなりません。

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