「見える化」の第一優先目標
見える化するというのであれば、何よりも優先的に達成しなくてはならない目標…それは、
"異常"の「見える化」
です。
分かりやすく言えば「予防管理する」ということです。
予防管理とは、問題が発生する前、または目標未達が確定する前に、その事実を予知して予防的処置をとることです。仕事において、問題なくあるいは遅滞なくそして損失なく遂行すると言うのは、当然のことであり、最優先の命題でもあります。
たとえば、定期的にリーダーやマネージャーが進捗状況を確認しますよね?アレがまさしくそうです。
期日を最後まで使い切って、
「やっぱできませんでした」
と言われてもリーダーもマネージャーも、企業もお客さまもみんな困ってしまいますよね。だから、そうなる前にあらかじめ立てておいた「予定」と「実態」とのギャップを測定し、異常が取り返しのつかない状況にまで進んでしまう前に検知、把握してしまおうということです。
これは見える化の第一目標にされるだけあって、「管理」をする上での初歩中の初歩と言えるでしょう。
予防的処置を開始するためには、異常を「見える化」します。
異常を見えるようにするためには、まず
「何が正常なのか」
その答えを定義します。
・問題の発生を左右する"正しい行動・動作"
・行動した結果、変化した時の"正常な状況"
・目標・結果の"正しい状態"
などを明確にします。
これは言ってみれば、学校のテストと同じです。
先生は、生徒に解かせる「問題」を作ると同時に、必ず「答え」を用意しますよね。人によって正解が変わらないよう、必ず唯一解が導かれるような問題を作っていることでしょう。
生徒が説いた問題を集めた先生は、あらかじめ作っておいた「答え」と答え合わせをするはずです。
この答え合わせが、まさに「予防管理」なのです。
そして、その答えから外れた状態を、"異常″とします。
全てはここから始まると言ってもいいでしょう。
正常か異常かの状態を管理し、常に見える化しておいて、いつでも対策をとれるようにする…と言うのは、とても重要なことなのです。
これは経営でも、プロジェクト運営でも同じです。
①"目指す姿"を見える化する
「見える化」は手段であって、目的ではありません。
そこでまず目的を設定しなければなりません。「見える化」で仕事をどうしたいのか、改善後の「めざす姿」を定義します。
「仕事がやりやすくなって、業務上の目標が達成できていく
手応えを感じるような職場にしたい」
「問題や異常にすぐ気ついて、事が大きくなる前に対処でき
お客さんから信頼されるようになりたい」
「お互いの仕事がどのように進んでいるのか共有でき、
助け合いながらチームとして仕事を遂行する職場になりたい」
などといった夢を語り合っていきます。目的や目標を決めなければ、目的や目標に沿った活動(見える化)は絶対にできません。
②"行動"を見える化する
めざす姿が実現できている職場は、いまの職場とは明らかに何かが違うはずです。いま以上に知識や経験も豊富で、いろいろな工夫が仕事の中でされているでしょう。いまはまだできないことが普通にできるようになっていることでしょう。
つまり、いままでとは行動が違っているということです。
たとえば、現状は
「会議を開催する時にテーマだけ決めて、
会議の中でテーマに関する情報交換や議論をする」
という会議の仕方だとします。これに対し、
「会議が脱線することなく、
短時間で必要な情報交換と意思決定がなされる」
というめざす姿を定義したとすると、そのための行動とは、
「司会進行が会議の開催に先立って、会議がどのように進行され、
何が伝えられ、どんな意見が交換されるかについて見通しを立てている」
ということでしょう。具体的には
・アジェンダを予め作成し、参加者に配布して周知している
・ファシリテーターを配し、脱線しないよう会議を誘導する
という行動に移っているはずです。そうしなければ決めたテーマ以外の話に脱線するのですから。
めざす姿を実現するために、いまはできていない行動ができるようになるイメージをしっかりと持つ必要があります。
③"見るべきもの"を決める
行動が変われば仕事のスタイルが変わり、結果が変わって、成果が出ます。
ただし、これは正しい方向に行動が変わった時の場合です。もし間違った方向に行動を変えてしまった場合は、成果が出ないのはもちろんのこと、障害が発生したり、収拾がつかなくなったりしてしまいます。
行動してすぐにその行動が「良かったのか?悪かったのか?」、明確な結果が現れればいいのですが、なかなかそうはいきません。そこで、結果が出る前に良い結果に向かって行動がなされているのか、その適切性を見極める必要があります。
適切な行動がとられているかを判断するために何を見れば良いのかを考え、その見るべきものを決めます。
最初から的確なものを選ぶことはなかなかできません。
まずはやってみて、見るべきものからのデータと結果を照合して、見るべきものが妥当なのかを何度も見直していきます。この経験を積み重ねていくことによって、自分たちの行動の適切性をはかるための見るべきものを見抜く力が備わっていきます。
一般の仕事では、最後までやり切ってから見直すのではなく、未完成でもいいので、ほんの少しできた時点で見直しを行うことを指します。
(見直しのライフサイクルを短い単位で区切ると言うこと)
④"日常的に「見える」工夫"をする
ところが"見るべきもの"というのは、得てして簡単に見ることができないものです。あるいは簡単に見ることができるはずなのに、「いつでも見れる」と思ってあまり意欲的に見ようとしないものです。
たとえば、非常な手間をかけて"見るべきもの"のデータをとったのでは、コストがかかってしまいます。そしてついに見えた時にはすでに結果が出ていて、もうそのデータは必要ないということもよくあります。
たとえば、EXCELなどでまとめていると、毎回毎回自分からEXCELを開くのが億劫だという人が出てきたりします(まぁ、ある意味で職務放棄なんですけど…)。
"見るべきもの"を「明確にすること」は、経験を重ねていくことによってできるようになります。しかしその"見るべきもの"を、コストをかけず、すぐにその場で見えるようにするのは、経験だけでは解決できません。
知恵と工夫を駆使して、改善を繰り返していくことが、唯一の道です。
「見える化」ができない組織のほとんどは、この"日常的に「見える」工夫″をしていません。
手間がかかるからデータが集まらない。集まらないから、見るべきものと結果の関係がいつまでも学習されていかない…的外れなものをいつも一生懸命に見ていることになってしまい、「見える化」によって仕事は良くなっていかないという、非常にマズいサイクルに入ってしまっています。
このサイクルによって醸成された組織は1年や2年では元に戻すことができません。ウォーターフォールと同じで、一度落ちてしまうと、元の高さに戻すための労力やコストは尋常ではありません。
⑤「見える化」を実践する"ツール"を用意する
「見える化」を実践するために日常的に"見るべきもの"を見て、そこから行動を開始するためのツール(道具)を用意します。日常的に見える工夫がなされた、その職場にあった使いやすいツールを、自分たちで考えてつくっていくことが大切です。
ツールで大切なのは、ただ見えるようにすることよりも、
『見えたものから行動がいかに開始されるか』
という点に力を置くことです。これは、PDCAの「A」や「P」に重きを置くと言うことに他なりません。見えるようになると、それで何かもう良くなった気がして、そこから先は見た者が判断して行動すればいい、と思ってしまうことが多いのですが、「見える化」は行動を変えさせることに意味があるのであって、見えただけでは意味も価値もありません。
「どのように行動を変えるのか」
という行動変容があって、その目的のために
「そのためにツールはどうなっていれば良いのか」
を検討しなければならないのです。
そうは言っても、何もないところからツールをつくるのは大変です。最初はテンプレートとなるものを選んで、それを改造することからはじめていきます。
まとめ
見える化は、個人の能力向上にも非常に役立ちますが、組織力の向上にも非常に効果をもたらしてくれます。
たとえば「○○さんに聞かないとわからない」と言う仕事があるのは、仕事の進め方(フロー)が見える化されていないためです。もしも進め方が見える化されていて、新人でもその通りの手順で進めれば達成できればどうでしょう。
たとえば、マクドナルドのようにアルバイト用の作業マニュアルがあるような状態をイメージしてみてください。
毎度毎度質問される社員の負担も減りますし、その人がいずれ退職や異動してしまっても、企業としては困るような状況には陥りません。
昨今では、こういった「人に依存せず、仕組みを用いて」業務や事業に損害を与えない考え方を
サステナビリティ(継続/持続可能性)
と呼んでいます。
この言葉が市民権を得始めて、かれこれ5年…10年弱ほど経過したでしょうか。投資家にとっても、経営としての事業継続性は非常に重要視される部分です。
よって、上場企業の中にはCSRの一環として、自社が投資に値する企業であるかどうかをサステナビリティと言う形で報告しているところもあります。
ほとんどの企業が、対外的な
・CSR(社会的責任)の意識づけと活動の徹底
・ISO 14001に紐づく環境面への貢献
などを謳っていると思います。
ですが、私はそういう遠くを見て、足元を見ないようなサステナビリティは「経済的余裕」という条件次第で早々に破綻すると思っています。そう、持続可能性と呼ぶほど、企業活動の中核を担っているとは到底思えません。
本当の意味での持続可能性を謳うのであれば、まずは企業が企業として存続するコア活動を「特定の人に依存しない」「誰でも」「同じことをすれば」「再現性の高い」活動にして、そのうえで収益が見込める形にするべきではないでしょうか。
「特定の人が数名いなくなっただけで事業が立ち行かない」
「人が変わるたびにパフォーマンスが劣化する」
のはプロセスとしてまだまだ未熟ということです。
そのためには、見える化…もっとわかりやすく言うなら
情報のオープン化
はどんどん率先して行うべきなのです。
いただいたサポートは、全額本noteへの執筆…記載活動、およびそのための情報収集活動に使わせていただきます。