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1on1の重要性を理解しよう

最近、多くの企業で上司と部下、メンターとメンティーが1対1で定期的に行う、

 「1on1ミーティング」(以下1on1)

を導入されているかと思います。

目的は「人材育成」だったり、リモート環境下における「人のつながり」だったり、コミュニケーションを増やすことで部下の「不安を拭う」ためであったり、まぁ理由は様々なのでしょうけどそんな1on1も10年、20年前にはほとんど取り上げられていませんでした。厳密には「他に聞かせられない」もの以外実施されていませんでした。

しかし、それでも企業は回っていました。

つまり、1on1はあってもなくても事業が成立することは証明されているわけです。
にもかかわらず最近ではことあるごとに「1on1」が取り上げられています。

もちろんそこに求められる期待効果は理解できます。

問題はその期待効果を

 正しく理解しているか?
 正しく理解し、その目的に沿って行われているか?

という点にあります。

この目的というやつに従属できないのであれば、目的を果たす気がないのであれば、それはただの絵に描いた餅であり、流行に流されただけの無為な時間…非生産的活動でしかありません。

実施している当人たちは、そのことを正しく理解しているでしょうか。

複雑で未来予測が難しい現代、従業員一人ひとりを自律的に行動する人材に育成する重要性は日に日に増しています。また、人材の流動化が進むなか、優秀な人材の流出防止も欠かせません。

1on1は、そうした人事の様々な課題に対する施策の1つとして注目されています。

従来から行われてきた業務報告や人事評価のための1対1の面談とは性質が異なり、これは「部下の育成」「従業員満足度の向上」に重点を置くものです。当然、業務上必要に応じて行われる1対1の打ち合わせなどは、おそらく1on1とは別物という扱いでしょう。

上司は傾聴やコーチングの姿勢で部下の感情や悩みに寄り添いながら話を聞くことによって、部下自身が「自分はどんな人間で」「何をしたいと思っているか」と「自己理解を深めていく」過程を応援します。その上で現在の仕事に紐づけ、どう力を発揮していくかを一緒に考えていくものです。

それだけなら「うちもやってるよ」と言うところがあるかも知れません。

しかし、従来の1対1面談と1on1が異なるのは、

 上司の期待を押し付けるものではない

という点にあります。1on1は部下が主役です。上司には上司の想いがあって都合があるのかもしれませんが、1on1の目的は部下と仕事とのエンゲージメントを高め、部下がやりがいをもって仕事に取り組む環境を整備することにあります。そのことを理解したうえで、さらに部下には気づかれないように上手に誘導してあげなければなりません。

そうすることによって、業績のアップやエンゲージメントの強化につながると期待されているのです。部下の特性や、本人のやりたいこと、やりたくないことを中心に据えて、適材適所を配置し、必要な教育などを行い、時に支援し、エンゲージメントを高めてもらうのです。

社員中心という点に意味があります。
逆にそれができない上司、理解できない上司、理解する気がない上司などがいれば、その時点で1on1は意味を成しません。

顧客があって、プロジェクト活動があって、それらを中心に据えて部下一人ひとりを最適に当てはめていくためにはどうすればいいのかを検討し、説得し、納得させ、はっぱをかける…という従来型の面談ではエンゲージメントはなかなか向上しません。

結局、上司の都合がいいようにコントロールしようとしているにすぎないからです。業務・業績中心で個人を押さえつけていることなっているのです。

それが、個人一人ひとりとマッチングしないために部下のモチベーションなどに好影響を与えず、高いパフォーマンスが出ない結果となっているのです。

また、組織内に1on1の制度を導入したものの、

 「多忙な日々の中で時間の確保が難しい」
 「部下のやる気を引き出すどころか逆効果に」

との上司からの声も出てしまうような、そもそも部下に対する育成の優先度が低い状態では現場への定着が行われないのは自明です。特に日本企業の場合、課長クラスの役職者というと一般的にプレイングマネージャーとして非常に多岐にわたる業務を企業から押し付けられていることでしょう。

それまでの従来のマネージャーとしての業務を行いつつ、顧客折衝など営業的な側面も押し付けられ、さらに組織の数字目標を達成するためのあれやこれやという雑務もあり、部長から様々な資料提出を求められ、そのうえで部下の育成まで手を付けなければなりません。

そんななか、上司に代わって社外のサポーターが1on1を行うサービスも登場しています。それくらい自前でまともな1on1を成立させることが難しい企業が日本には多いということでもあります。

「部外者に1on1の相手が務まるのか?」

と思われるかもしれませんが、メンター制度などがいい例でそもそも直属の上司でなくても下位要員の支援はできないわけではありません。むしろ日本型のヒエラルキー組織では先述の通り課長クラスにかける負担の大きさが異常ですので、メンター制度などを用いなくてはロクに社員のフォローもできない…という企業も多いでしょう。そのフォローも結局「生産的な活動に紐づいている」とは認めない頭の固い社員たちのせいで導入が行われない企業も多いと思います。

一般的なメンター制度

そういう意味で、こうしたメンター制度をアウトソージングする仕組みは理にかなっているのではないでしょうか。

実際、事後アンケートで8割超が「有意義」と回答するなど、利用者からの評価は上々ということらしいです。

上司と部下の1on1では日常の人間関係や評価への影響を気にして部下が本音を言えないケースや、そもそも上司が自分にとって不都合な情報は聞く耳を持たなかったり、上司が無能なせいで「言っても無意味」というケースも多くあります。

それくらい『上司』という存在は1on1に向いていません。

上司が部下の意見、要望、不満等を真摯に受け止め、自らを部下の個性に合わせて変革し、組織を部下が最もパフォーマンスを出しやすい環境に改善していくくらいの覚悟がなければ機能しないことが多いのです。

実際、私も過去に10年以上幾度となく1on1を受ける機会がありましたが

 ・上司が説得しようとする場
 ・雑談の場
 ・ただの既存業務の報告の場

で終わることばかりでした。「忌憚のない意見を」と言われても、日ごろから上司の言動や好き嫌いを見ていれば忖度もしますので、言いたいことをズバッということなんてありません。本音で話す相手やタイミングなんて慎重になるに決まっています。

裏を返せば、常日頃から「慎重にならざるを得ない」を判断させてしまうような上司しか存在しないということでもありました。

1on1の質を大きく左右するのは、厳密には「誰が行うか」ではなく

「上司側に正しい1on1を受けた経験があるかどうか」

が大きいものです。何が正解かもわかっていない上司たちが一人ひとりの価値意識によって実施すれば当然方向性はバラバラになりますし、期待効果を得られる可能性は低くなります。

今のご時世の上司世代の多くはトップダウンのマネジメントを受けてきました。

美味しい料理を食べたことのない人が美味しい料理をつくることができないのと同じで、自分も経験したことのない1on1を部下に行うのは簡単ではありません。そのため、部下の前に、まず上司自身が本当の意味で正しい1on1を受けてみると効果が大きいのです。

人は自分が経験して良かったことは、他の人にもしてあげたいと思うものです。

違うことを施しても、同じ結果には絶対にならないからです。だから良かった経験は真似したくなるのです。

そうすることで多くの事例から見えてきた1on1実践のポイントは、

「部下にとって安心安全の場であること」
「相性の良さ」
「上司側の『聞く』姿勢」

などです。

米googleが、大規模労働改革の末に行きついた答えが、まさにこの『心理的安全(psychological safety)』だったと言うのは比較的新しいニュースだったと思います。

しかし、そのすべてを上司だけに依存するのは難しいでしょう。

上司だからといって完璧な存在である人は少なく、ピンキリ存在するからです。そもそもほとんどの日本企業の人事評価の仕組みの中に

 「1on1スキルが高い」
 「部下の心理的安全性に注力できる」
 「コーチングスキルが高い」

といった評価基準は存在していないのではないでしょうか。であれば、こうした取り組みが形骸化するのも仕方のないことかもしれません。企業が、上司になるべき力量として求めていないのに、上司がその力量を身につけようとするはずもないのですから。

ですが米googleは試行錯誤の末に行きついたように、

 部下のパフォーマンスを最大値化

することがチームの、ひいては組織のパフォーマンスを最大値化するのは言うまでもありません。経営者や管理職にとって居心地がいい組織であれば売上や利益が上がるわけではありません。実務を担っている従業員のパフォーマンスが上がらない限り、企業の成長も継続もありえません。

昔の製造業中心の高度成長期時代はそこまで考える必要がなかったのでしょう。

工場のライン生産のようにあらかじめすることが決まっていて、一人ひとりの能力や発想に依存することもなく、作業の生産性のみを見ていればよかった時代はトップダウンですべてが済ませられていたのだと思います。

しかし、現代は逆です。

一人ひとりが同じことをしませんし、できない、させられない業態が増えてきました。特にサービス業に属する企業は顕著です。仕組みや手順で画一化できないからこそ従業員一人ひとりの能力に依存せざるを得ず、その特性や個性を活かさなければ成立しない業務ばかりということもあります。

そのような業態では経営者や上司が中心にはなりません。部下たちが中心にならなければ企業は回らないのです。

その点でも「部下」を中心に据えた業務構造の改革は待ったなしの時代に差し掛かっているのかもしれません。

1on1の対話的コミュニケーションは、これまでも喫煙所や飲み屋で部署や立場に関係なく行われてきた会話や相談のようなものです。

しかし、日常にそうした機会が減っている今、意識的に組織の枠を超えた対話を充足させることもひょっとすると必要なのではないでしょうか。

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