PDCAとYKK
先日、こんな本を見つけて、面白そうなので買ってみました。PDCAサイクルフレームワークが苦手な人向け…の本でしょうか。
PDCAというと、ほぼすべての社会人がおそらくは知っているであろう、組織全体の中で生産管理や品質管理などをスムーズに進める手法として非常に有名なフレームワークですよね。およそ、世界中のプロセスサイクルはすべてこのPDCAの理論が採用されています。企業経営でもそうです。ISO(国際標準化機構)のマネジメントシステムもそうです。一定期間のサイクルがあって、永続的にそのサイクルを回し続けていくものであれば、すべてPDCAが採用されています。
そもそも「やり方」というものに正解は存在しませんが、とりあえずやってみて、改善していこうというプロセス志向には非常にマッチしており、欧米では必ずと言っていいほど導入されている仕組みです。
しかしこのPDCA、日本人とは非常に相性が悪いとよく言われています。
日本のビジネスは、昔から終身雇用制度という世界的に見ても非常に特殊な人事制度が用いられてきました。そのため、他国と比べても離職率が圧倒的に低い国なのです。
アメリカは、個人のキャリアアップのために会社がある…という考え方の人が多いため、日本の年間平均転職率が4~5%なのに対し、アメリカはおよそ5倍近いといわれてもいます。そのため、各企業は社員一人ひとりの属人的な方法を認めていないのです。それを許してしまうと、優秀な人が転職で抜けてしまった時に、後から補充した人が同じパフォーマンスを出せなくなってしまいます。
ですから、アメリカなどでは「プロセス」を重視し、
誰がやっても、同じパフォーマンスが出る仕組み
を大事にします。PDCAであれば活動そのものを『計画』という名のもとに言語化できるので、継承した人もそれを読めば、同じパフォーマンスが出せるようになるわけです。こうした活動と、最適化活動、改善活動に特化したPDCAサイクルというフレームワークはとても相性がいいのです。
しかし、日本は属人化や人依存というが強く、あらかじめ詳細な計画を立てて、誰でもそれなりの品質を出せるような仕組みを嫌がります。そんなことをしてしまうと、自らが努力して身につけたスペシャリストとしての価値が下がる…と思っているのかもしれません。あるいは、今までは「自分にはできません」と言って逃げることができた"やりたくない仕事"が、逃げられなくなってしまうからなのかもしれません。
ですが、デキる人は、個人レベルでもこのPDCAを応用して、次々と成果を出していきます。
働き方改革の中でも重要視されているこのPDCAは、きちんと使いこなせれば、無駄を省き、作業の効率化に大きく貢献できるためです。
ところが、実際には
PDCAを回そうと思っても、
仕事は想定外の事態がよく起こるので、
うまくいかないことが多い
…と考えている人も少なくありません。とくに若手のうちは、トライしてもつまずくことばかりでしょう。ですから、なおさら「PDCAなんて無駄だ」と考えてしまうのかもしれません。
実際には、PDCAは100点満点を狙う手法ではなく、「前回より今回、今回より次回」「想定外のことが起こったら、次からはそれも想定に加えて」…というように、常に改善を加え、限りなく100点に近づけていこうというものですので、一生かけて取り組むものであって、簡単に成功が手に入るものではありません。
しかも、早期から取り組んだものだけが、より成功確率を高められる権利を得るだけで、「いつまで経ってもしない」「たまにしかしない」という人には、絶対に恩恵が下ることはありません。
それでも、おそらく大抵の人がPDCAに取り組めず、いつまで経っても負のスパイラルから逃れることができずに苦しんでいます。
そこで、何を目標に設定していいかわからない人は、P(計画)を飛ばしてD(実行)からはじめるようにするわけです。いわゆる「とりあえずやってみる」というヤツです。
「やって(Y)、感じて(K)、考える(K)」
PDCAが苦手な人向けの考え方ではないでしょうか。PDCAも最初の第一歩はあえて「P」を飛ばして体験から始めるということをする場合もあります。YKKというのはPDCAの「P」を抜いたDCAに考え方が近いのかもしれません。
「やって」が〈行動〉
「感じて」が〈知覚〉
「考える」が〈思考〉
順番はどこからスタートしてもいいのですが、「まず、やってみましょう!」というメッセージも込めて、Yからスタートします。PDCAでいうところの、P(計画)ではなく、D(実行)からはじめましょうということと同じです。そして、次にやることは、C(確認)ではなく、K=感じること、感想だけを話しましょうということです。
わかりやすく「何日間かトータルで100キロ走る」という例で考えると、こうなります。
まずY(行動)ということで、1回走ってみる、2キロ走れた。
次はK(知覚)なので、「どうだったか? 2キロ走れて、あと何回できるのか?」と考えるのではなくて、「2キロ走って、どんな感じだったか?」と自問するのです。
「久々だったから、2キロしか走れなかった」という感想であれば、もっとポテンシャルがあることがわかります。「準備運動をしなかったから筋肉痛になった」となれば、続けたらケガするのではと気づきが得られる。これらは感じた「感覚」からわかることです。
PDCAの場合、「P」から始めていればPの予測⇔Dの結果を比較するのですが、もし「D」から始めていれば、上記のように感想を述べるだけになっていたでしょう。
そしてその次に、K(思考)。
「では、どうしようか」を考えます。「ケガしないように準備運動をきちんとしよう」とか、「準備運動をして、今週中に1回、どこかたくさん走れる日を取って走ってみよう」とか、「そのときの記録と今日の2キロの記録を合わせて、次を決めよう」などと、やるべきことを考えます。
こうすることで、より精度の高いプランが立てられるので、次回以降は気持ちに余裕を持って進むことができます。
まさしく、PDCAの「A」と同じ考え方ですね。結果を「評価」し、その評価内容から、次の取り組みを考える…YKKやDCAでは、そこまでで終わってしまいますが、PDCAでは
「じゃあ、具体的にどう取り込んでいくのか?」
を計画化するというだけです。
「PDCA」はとても論理的で、とても優れたメソッドなのですが、人間的な感覚や感想が入る余地がありません。その違いを明確にするために「YKK(やって、感じて、考える)」という方法もあることを知っておくといいでしょう。
さすがに何百万、何千万、何億という数字が動く活動のマネジメントでそんな無責任なことはできませんが、初めて体験する個人活動なんかの中ではこうした取り組みをして、次からブラッシュアップを続けていくのも良いでしょう。
これはプログラム言語で言うところの
while文 と do while文
の違いによく似ている気がします。
繰り返し実施しながら、改善・向上を図っていくという意味でも、繰り返し文が適切なのですが、そのうえで、繰り返し"条件式"が計画/思考と考えれば、
while … 始める前に、条件(計画)を緻密に考え、
あとは繰り返し条件(計画)をチェックし、実行する
do while … 1回目はまず無条件に始めてみて、
2回目以降に条件(思考)を加え、改善プランを構築する
という違いだけでしかありません。
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