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「理屈」と「感情」で納得を引き出す

チームとしての力を高めるためには、それぞれのメンバーがチーム全体の意図に合った行動をしなければなりません。

リーダーはチームの方針や目標に基づいて各メンバーの仕事内容や行動のしかたを指示しますが、すべてのメンバーが100%の納得感を持って仕事をするのはなかなか難しいことです。命令という形で無理にでもやらせるしかない状況は多くのリーダーが経験していることでしょう。

しかし、メンバーが納得しないままの命令や強制を繰り返しているとそれぞれのメンバーの行動力は徐々に鈍り、いつしか自分たちで考えることをやめ、チームとしての力はどんどん低下していってしまいます。

いかにメンバーが納得感を持って仕事をするかということは、チームづくりのうえではとても大切です。なぜならメンバーの行動、メンバーのアウトプットこそがチームの成果を最終的に決定するからです。

メンバーから納得を得られるリーダーに共通しているのは、指示や命令の際の「論理」「感情」の使い分けが絶妙だということです。


あるIT企業のリーダーYさんは技術知識やスキルの高さが認められ、最近チームリーダーの役割を担うようになりました。理系大学出身で何でも論理的に考える、いかにも技術者といった雰囲気のリーダーです。

メンバーへの接し方もこの雰囲気通りで、どんな些細なことでも丁寧に、理解しやすいように論理的に話をします。リーダーになってからはメンバーとのコミュニケーションも積極的に意識し、できるだけ多くのことを話し合うように心がけています。

チームが担当するプロジェクトは、頻繁な顧客要望、突発的なトラブル、その他事前に予定を組むことが難しい仕事も多く、対外的な調整事項もあって仕事としてはなかなか厳しいものです。

しかし、Yさんは何かある度に関係するメンバーには細かく状況を説明し、メンバーたちからも状況を聞き、そのうえで業務指示をしています。常に説明をしてコミュニケーションをとっていたのでチーム運営はうまくいっていると思っていました。

そんな中、ある日起こったトラブル対応に関する業務指示の際に、メンバー数人がYさんに対する不満をぶつけてきました。その内容はこんなことでした。

 「Yさんはいつも一方的で話を聞いてくれない」
 「強引に抑えつけようとする」
 「自分たちの大変さをわかっていない」

Yさんとしてはメンバーからの話も聞いていたはずですし、十分な説明もしていたつもりです。

しかしその後さらに話してわかったことは、メンバーが「理屈だけで一方的に抑えつけられてきた」と感じている気持ちの問題でした。

確かに理路整然と説明され、そのうえでの指示命令でしたが、メンバーにとっては大変な作業もあり、そのことに反論してもやはり理屈で返されてしまうので、そんな自分たちの気持ちがリーダーには理解されていないという不満が積み重なっていたのです。

その後Yさんが心がけるようにしたのは、今までのようにきちんと説明することは続けながら、それにプラスしてメンバーへの期待、引き受けてくれたことへの感謝やねぎらいなど相手の気持ちに寄り添う言葉をかけることでした。

仕事がひと区切りつけば、たまには感謝の気持ちを込めて食事やお菓子をご馳走することもありました。それを始めてからメンバーは大変な仕事であっても前向きに取り組んでくれるようになり、たまに出てくる不満などについてもチーム内で話し合って解消することができるようになりました。


こうした例のように、チーム運営上の大切な要素として「納得感」があります。これがあるかないかによって、メンバーの姿勢や行動は大きく変わってきます。理屈が正しければ納得するかといえば決してそうではありません。

しかし、たとえば技術者や研究者など、論理志向の強い職種では、何でも筋道を立てて理屈で解決しようとする人が多く、悪く言えば理屈っぽいところがあります。

もちろん他の職種でも同じような人はいます。

そういう人は、チーム運営やメンバーとのかかわりにおいて何か調整が必要な場面や、とにかくやってもらわなければならないようなことに遭遇した時には、論理的な説明で相手を納得させようとする傾向があります。

もちろん論理は大切です。
論理性がないビジネスなんて未来が全く予測できないと言っているのと同じようなものです。ですから論理を構築すること自体は必須ではあるのですが、だからといって人の感情や気持ちを無視していい理由にはなりません。

人というのは、いくら理屈があっていたとしても、感情では納得できないことが多々あるものです。

たとえば「遅刻をしてはいけない」は間違いなく正論ですが、それを言ってくる相手が遅刻の常習者だったとしたらたぶんほとんどの人は納得できないでしょう。

 「ほかの人がどうあれ、遅刻をするべきではない」

と言われてしまえばそうなのですが、だからといって言った本人がまずそのことを守っていないようであれば、やはり納得は難しいものです。「あれ?結局守らなくていいんじゃないの?」となってしまうでしょう。反対に、これを時間厳守の人から言われればそれで納得しない人はいないでしょう。

どんなに難しい依頼でも「この人に頼まれたら断れない」といったことや、どんなに簡単なことでも「この人の言うことはやりたくない」といったことは、避けて通れない人間の感情です。

感情だけで動く人はいませんし、感情だけで相手に何かを求める人もめったにはいません。

同じように論理だけで動く人もいませんが、論理を過信してそれだけで相手を動かそうとするリーダーは、私が今まで見てきた中でも意外に数多くいるものです。

もちろんリーダー自身はメンバーに真面目に向き合い、それが正しい理屈であることを一生懸命説明し、だからこそ「正しいことは好ましいこと」だと訴えかけて、同意や納得を得ようとします。

しかし、そうやって理詰めで押されるだけで心情を理解されなかったメンバーが反論するには感情に訴えるしかなくなってしまいます。そして感情的な態度をとることが好ましくないと思えば、その感情は自分の中に押し込めておくしかありません。そうして積み重なるのは、不満、あきらめ、思考停止といったネガティブな思いばかりですから、チームの空気に与えるのは悪影響しかありません。

 「人は理屈がなければ動けないが
  理屈だけで動かすものではない」

ということはあらためて肝に銘じておく必要があります。
論理だけ、感情だけでは相手の納得は得られません。
その両方を場面に応じて使い分けることが重要になってくるのです。

しかし、だからといって何でもかんでも感情に配慮すればよいかといえば、必ずしもそういうことではありません。

感謝やねぎらいの言葉も安易な形で繰り返されているとメンバーはいつか慣れてしまい、「本音ではない」「真剣でない」「口先だけ」などきちんと受けとめてもらえなくなります。

リーダーとして、メンバーに厳しい要求をしなければならない場面は必ずあるもので、それは感謝やねぎらいの言葉だけでごまかせるものでもありません。

たとえば、非常に厳しい内容の仕事や責任の重い立場をメンバーに指示しなければならないような時、もちろん論理的な説明は徹底的にしますし、フォローする体制や責任の所在などで受け入れやすい環境を作ることもしていきますが、本当に最後の最後の局面では、

 「あなた以外にいない」
 「力を貸してほしい」
 「私の顔に免じて」

などといった自分の気持ちを、心を込めて話して納得してもらうということです。そのためには普段から乱用するのではなく、「最後は理屈ではなく感情に訴えるしかない」といったいざという時の切り札に使いましょう。

ただし、そのためには相手から「この人にそこまで頼まれたら仕方ない」と思われるような、日頃からの信頼関係作りがあってこそでなければなりません。相手にも迷惑がかかることですから、本当にどうしようもないときにだけ使うべきです。この努力を怠っているといざというときに肝心な話ができません。

ですから、私は様々なシーンでも公言していますし、実際それを常に形にできるよう活動していますが、

 有言実行
 率先躬行

は絶対的な指針でなければならないと思っています。

口先だけで相手が常についてくると思っていると、いつか手痛いしっぺ返しとなることでしょう。日々の積み重ねがこういうところで活きてくるのです。

論理と感情のどちらかだけに偏らず、両方に配慮することは間違いなく大切です。それと同時に、人は「最後の最後は感情が優先する」というところがあります。そのことをしっかりと意識した接し方が最終的な納得感にもつながります。

チームによい空気を作り出すに、またチームが最高のパフォーマンスを出し続けるためには、そのメンバーたち自身が納得感を持って仕事をすることです。

それはメンバーの感情にも配慮することであり、日々の信頼関係づくりによってはじめて得られるものです。メンバーに納得感をもたらすリーダーになるために「論理」と「感情」の使い分けを見直してみましょう。

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