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フィラー(つなぎ表現)

一人前のビジネスパーソンになると人前で話す機会は否応なく各段に多くなります。こればかりは避けることができません。逆に、コミュニケーションの多寡は、ビジネスパーソンとして一人前かどうかを図る試金石といってもいいかもしれません。

それは一人前でないビジネスパーソンのために代表してそうなることもあるし、そうすることが最もビジネスとして成立しやすいからと言うこともあるでしょう。

その際、「うーん」「えー」「えーと」「ちょっと」というつなぎ表現を頻発している人はいますでしょうか。

どれほど素晴らしい話をしていてもその行為が聞き手の集中力を奪い、彼らの心を動かすことなどとうていできません。

Um.(うーん)
Ah.(えー)
So.(で)
You know.(ほら)
Like.(なんか)
Right?(でしょ?)
Well.(さて)(まぁ)

話している途中で突然言葉に詰まってしまったとき、ついこうしたフィラー(つなぎ表現)に頼ってしまう人がいます。その理由は緊張のためかもしれないし、集中していないからかもしれないし、次に何を話せばよいかわからなくなってしまったからかもしれません。

フィラーを口にしている間に考えをまとめるころができるかもしれませんし、場合によっては次に話すことに注目してもらう効果があるかもしれませんが、ただしこれを乱用するとつかえた話し方(専門用語で言えば「訥弁(とつべん)」)になってしまい結果的に話し手の信頼性が損なわれ、本来のメッセージから聞き手の注意をそらしてしまうことになりかねません。

ある実験では、行動科学とAIおよびデータを組み合わせた研究手法を用いて、フィラーの最適な頻度が

 およそ1分間に1回

であることがすでに突き止められています。ですが、現実のフィラーの平均頻度はおよそ1分間に5回…言い換えれば12秒ごとに1回となっているそうです。これはかなり頻度が高いといえ、場合によってはかなり耳障りに聞こえることがあるのではないでしょうか。

そこで、こうしたフィラーについて前述のデータが何を語っているかを見てみましょう。フィラーの乱用により話し手のインパクトがどれだけ弱まるのでしょうか。そしてフィラーを使わないようにするにはどうすればよいのでしょうか。

話し手が発する言葉の3語に1語が「フィラー」だということは、話の内容に注意を向けるのが難しいことは誰もが知っています。けれども、そうした耳障りな言葉が実体験にどのような影響を及ぼしているかを厳密に探り当てるのは難しいものです。

そこで、話し手がどれくらいフィラーに頼っているか、またフィラーが聞き手の受け止め方にどのような影響を及ぼしているかを特定すべくデータベースに収録した4000を超える口頭コミュニケーション・サンプルを分析したところ、フィラーの乱用はさまざまな角度から聞き手にネガティブな影響を及ぼしうることが判明しています。

なかでも3つの重要要素が『フィラーの乱用』と著しく負の相関関係にあるそうです。

①メッセージを効果的に伝えるには、聞き手をひきつけておく必要がある。
 フィラーを乱用すると、聞き手が一言一句に耳を傾ける可能性は低下する。
 フィラーが邪魔となり、伝えようとしている話が届きにくくなるから。

②聞き手は、話し手が1対1の会話をしているときと同じように自然に振る舞い、
 話していると思えることを好む。当然、ほとんどの人はくだけた会話では
 フィラーを用いるが、マイクに向かってフィラーを連発すると話し手の核となる
 個性に注意が向かなくなり、信頼を置ける人というよりは緊張しているとか、
 集中していないとか、あるいは上の空といった印象を与えてしまう。

③聞き手にメッセージを受け入れてもらいたければ、明瞭に、筋道を立てて、
 わかりやすく伝える必要がある。
 残念ながら聞き手は、耳障りなフィラーをかき分けるようにしてまで、
 重要な内容をキャッチするという認識努力はしない。
 したがって、フィラーを乱用すれば、おそらく聞き手はより容易な認知作業
 (たとえば自分のやることリストについて考える)を始めてしまい、
 話に耳を傾けなくなる。

なぜ流れるように話すのは難しいのでしょうか。

研究によれば、ためらいまでも言語化してしまうのは、言うことがないときでもすき間を埋めるよう我々が条件づけられているからだそうです。

たとえば、次に話す内容を頭の中で組み立てている最中に「会話の場」をしっかり握っておくために、「Um(うーん)」とか「Ah(えー)」と口にするのです。「Ah」は一瞬の言い淀み、「Um」は比較的長い言い淀みを示しています。

幸い、こうした弱みを強みに変えられる方法はあります。
フィラーの代わりに、一瞬だけ沈黙するのです。

諸研究が示唆するところによると、大半の会話音声は、

 短い沈黙(0.20秒)
 中程度の沈黙(0.60秒)
 そして長い沈黙(1秒以上)

で構成されています。講演の達人は2秒から3秒の沈黙、あるいはそれよりも長い沈黙さえ頻繁に利用しています。平均的な話し手は1分間に3.5回しか沈黙しておらず、それでは不十分というわけです。

しかし、そうなるもの無理はありません。
スピーチやプレゼンなどにおいて、沈黙はなかなか受け入れにくいものです。

たとえば、多くのプレゼン、スピーチにおいて講演者にとっては極めて短い沈黙でさえ延々と続くように感じられる場合があります。なぜなら、考えるペースよりも話すペースのほうが速くなりがちだからです。

平均的なプロの講演者は毎分150語のペースで話をしますが、ミズーリ大学の研究によれば人が考えるペースは毎分400語といわれています(速い人なら、毎分1500語に達する場合があるそうです)。

この差があるがゆえにスピーチをする際に時間の認識がしばしば歪められ、講演者には永遠のように感じられる時間が実際は2~3秒で聞き手にとってはほんの一瞬となるのです。

第一印象はどうであれ、うまく沈黙を活用すれば冷静で落ち着いているように聞こえるうえ、次の3つの効用があるといいます。

考えをまとめる

考えの脈絡を失った場合はほんの少し沈黙することで、ふたたび脈絡をとらえる時間が得られます。沈黙が長すぎない限り(5秒未満)そのせいで聞き手から責められることはまずないでしょう。

神経を鎮める

スピーチを始める前に沈黙することは、人前で話すことに不安を抱いている人には、特に重要となります。なぜなら、神経を鎮める効用があるからです。この戦術はスピーチの途中でも役立つことでしょう。言葉に詰まった場合は短く沈黙し、(聞こえない程度に、こっそりと)深呼吸して、リセットするといいでしょう。

サスペンスを盛り上げる

沈黙は必ずしも「守り」の戦術ばかりとは限りません。戦略的に沈黙を演出すればサスペンスを盛り上げたり、ポイントを強調したり、聞き手に重要な見識を吸収する時間を提供したりすることが可能になります。フィラーを使うのと同様に一瞬沈黙することでひと息入れ、次の言葉を見つけ出すチャンスが得られます。沈黙した場合は自信に満ちて状況をよく把握しているように見えるのに対し、フィラーを乱用した場合は聞き手の注意をそらせ、何を言ったらよいのかわかっていないように聞こえてしまいます。


爪を噛むことであれ、「ほら(you know)」を乱発することであれ、習慣を変える第1のステップはまず「自覚する」ことです。

自分が使っているフィラーを特定するには最近のスピーチの録画か原稿を見直して、どのフィラーを頻繁に口にしているかを見極めることです。いったん自覚すれば日々の会話でも、自分がそのフィラーを口にするたびに気づくようになるでしょう。

フィラーを聞いたら、ちょっとした行為をするといいでしょう。

たとえば、「なんか(like)」と言っていることに気づくたびに脚を軽くたたく。
あるいは、フィラーの使用状況を家族や親しい友人にチェックしてもらい、フィラーを口にするたびにパンと手をたたくとか、パチンと指を鳴らすなどして注意を喚起してもらうのもよいでしょう。

次に、口癖になっているフィラーがわかったら沈黙を自分に強いることを始めましょう。その訓練として、その日1日にやったことを話す自分の姿を録画してみるとわかりやすいと思います。一連の出来事を回想する際、フィラーの代わりに沈黙をする訓練をするのです。

最後に、どんなに強調してもしすぎることがないのが準備の重要性です。

緊張状態はフィラーを乱用する最大の要因の1つです。準備がおろそかであるほど緊張が増してそれが原因で早口になりすぎ、言葉をとちり、次に話すべきことを忘れる…という事態につながります。

だからこそ、準備が必須なのです。

平均すると、準備とパフォーマンスの最良の割合はプレゼン1分につき練習が1時間ですが、せめて聞き手の前に出る前にスピーチの通し練習を少なくとも3回はするよう、コミュニケーションの専門家は勧めています。

私も、何度も繰り返して慣れているセミナーの講師をする場合であっても、やはり1週間ほど前から時間を見つけては何度も練習を繰り返し、場合によっては説明するシナリオにあわせて幾度となく資料を見直し、修正する…というのは当たり前のように実施しています。

フィラーは、控えめかつ効果的に用いれば、聞き手に対していっそう好意的に受け止められる可能性があります。ひと息つく時間も得られ、重要なポイントも強調できます。

そのため、ユーザーの代わりに電話をかけて話せる音声システム

 Google Duplex(グーグル・デュプレックス)

では、フィラーを口にします。

ただし、緊張あるいは準備不足からフィラーを乱用して耳障りになると、話し手の信頼性を損ねてしまうので気を付けてください。ちょっと相手の目を見て反応を伺うそぶりをするとか、すこし考え込むようなジェスチャーをするとか、沈黙といっても様々な表現によってその時間をより一層有意義なものにすることが可能です。

単調なフィラーでは体現できないことも多いのが「沈黙」の強みでもあります。

プレゼン準備時には最も頻繁に使うフィラーを特定して、その使用を避けるように訓練してみるのもいいでしょう。そして、次にスピーチの場で考えをまとめるときには、その時間を音声で埋める代わりに沈黙を活用してみてください。


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