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今するべき「生産性向上」

それは

 すべての社員が「対効果」を意識する

ことではないでしょうか。
たとえば、

 「時給1000円だとしたら、いくらの労働が必要なのか?」
 「ある仕事に3人がかりで5日かかるとして、
  延べ15人日分の価値ある成果が出るのか」

これを考える指標とするのがROI(投資対効果)と言う考え方です。マーケティングなどで使われる言葉ですね。1000円の投資に対して、2000円の成果があれば、ROIは2/1="2"ということです。みなさんは、1時間あたりいくら会社から投資(給与はもちろん、環境、時間、人的リソースなどを含む)してもらっていて、いったいその1時間の間にどれだけの価値を対効果として提供してるのでしょう。

たまに、「給料が安い」と言う理由で転職する人が増えている…なんて話を聞きますが、確かに安いとは思います。思いますけど、転職する人たちの多くは、本当に要求する金額に見合った成果を上げているのでしょうか。

その点については、どこの記事でも見かけないので、転職する人たちの肩も持てないし、なんとなくモヤモヤするんですよね。もし、対効果が"1"以上であるにもかかわらず、企業側が正当な報酬を支払っていない…と言うのであれば、私も声を大にして社会批判したいところなんですけども。


企業にとって、「利益」を生み出すと言うことは、従業員一人ひとりのROI(の平均値)が常に"1"以上でなければならないということです。このROIが"1"を下回ると、個々に赤字となってしまいます。もしも、全員が"1"を下回れば、事業そのものが赤字になります。

ビジネスにおける収益構造は、常に

 利益 = 収入(売上) - 支出(経費)

で成り立っています。収入を増やそうと思ったら、

 ・労働量(工数)を増やす
 ・価値(単価)を向上する

の2つしかありません。ですが、収入を増やすにしても限界があります。10人でできる仕事を15人に増やしたからと言って、お客さまに15人分の金額を請求できるわけではありませんし、10000円の価値を持つ商品を50000円で売れば、それはただの詐欺です。

厳密には、お客さまがその支払いで満足していれば、詐欺…とは呼べないのかもしれませんが。まぁモラル的には褒められたものではありませんよね。

実際にかかる労力や価値と、請求する価格に差がありすぎると、さすがのお客さまも取引したいとは思いません。お客さまが納得できる価格でなければ正当な取引は成立しないのです。

普通に考えて、現実的に提供できる労働量や価値が変化できない以上、収入を増やす…と言うのはなかなか困難です。基本的に「収入を増やす」施策は、市場ニーズを高めるしか方法はありません。これに対して、アイデア次第で比較的安易に対策できるのが「支出を減らす」ことです。

「およそ企業の内部には、プロフィットセンターはない。
 内部にあるのはコストセンターである。
 技術、販売、生産、経理のいずれも、
 活動があってコストを発生させることは確実である。
 しかし成果に貢献するかはわからない」

これは近代経営学の父、P.F.ドラッカーの言葉です。プロフィット(profit)とは"利益"のことを指しますが、一般的に企業そのものが企業内部で利益を生み出すことはありません。企業または企業に属する従業員は、ただただコスト(経費)を生み出すだけです。

最後に、顧客がお金を支払ってくれて初めて売上が生まれ、その売上と、それまでにかけたコスト(経費)の差額がプロフィット…つまり利益になります。利益を運んでくるのは常に顧客であり、それまでの間、支出を垂れ流し、耐え忍び続けるだけしか企業にはできません。

ゆえに、私たちは

 「どうやって売上があがるまでの間、
  売上を超えないように支出を抑えなければならないのか?」

と言うコントロールをすることしか、できることはありません。そのためには、常にROI…投資対効果を意識して業務に取り組む必要があります。投資…すなわち「ある業務にかけた人件費や経費」に対して、「どのような価値が提供できるのか?」と言う考え方です。

ROIは"生産性"の指標でもあります。

たとえば「『1時間』と言う時間を投資したら、どれくらいの成果があるのか?」ということを導き出せます。1時間の会議をしたときに、参加者の時給を合計したり、その会議時間に営業活動ができた場合の期待売上などから投資が計算できます。そして成果は、その1時間の会議の内容から計算できます。

投資1に対して、価値1以上の重要な決定ができれば、その会議の成果は大きかった(実施した甲斐があった)といえるでしょう。それを金額換算して、ROIの値が大きければ大きいほど投資対効果、つまり生産性が高いということになります。

逆に小さければ小さいほど、生産性が低いということになります。投資が10000円で、成果が10000円未満…たとえば成果が9000円とするとROI=0.9になります。10000円投資すると9000円しか返ってこないので1000円損をします。投資したらした分だけ元本が減るので、投資したくないですよね。

このような会議などはしない方がいいということがわかります。

 「すべての従業員がROIを意識する」

ということは、自分の1時間の労働時間は、ROIが1以上であったのかを常に意識し、常にチェックして仕事をするということです。ROIは分数なので、R(成果)を大きくすることとI(投資)を小さくする対策のうちのいずれか1つ、あるいは両方を行うことで、ROIの値…つまり生産性が向上します。具体的には、

 同じ時間を使うのであれば、より成果を出せる方法はないか。
 同じ成果を出す仕事をするのであれば、より短い時間でできないか。

を従業員一人ひとりが意識して、実行するということです。

考えてみてください。

実力が未だ身についていない新人であればともかく、必要な実力が伴っているベテランであれば、給与水準に見合ったパフォーマンスを出すことは必須のはずです。50万支払って、10万の実績しか生み出せないなら、さっさと辞めてもらって、もっとコスパのいい人材を採用した方がいいですよね。実際、最近増えている"黒字リストラ"の背景にはこの考え方があるために起きているのです。

それに、基本的に給与水準の大半は、労働時間に比例して支払われることになっていますので、同じ役職で、ROIが0.5の人と、1.5の人が同じ給与となることは、不公平感を生み出します。この問題への対策を現実的に形にしたものの1つが働き方改革法案の柱の1つ"同一労働同一賃金"制度です。

この制度自体は派遣やパート、アルバイトへの不当な扱いについて定めたものですが、それはプロパーであっても同様で、部下に「あれもやっとけ」「これもやっとけ」と言って、自分自身のROIは大してないのに、他人を利用してどんどん出世していく上司を見て、まともに働いている部下は、何を信頼して仕事をすればいいのかわからなくなるでしょう。

こういう問題を根底から解決するための対策の1つとして、

 企業が、ROIの成果に着目するところから始める

と言う方法があります。具体的には、評価システムに加えると言うことですね。なぜなら、仕事の成果は、役割において必要なスキルのうち最も低いスキルに影響されるからです。

たとえば、コンサルティングなどの提案上級職には、

 「ヒアリング力」「プレゼンテーション力」「クロージング力」

という3つのスキルが必要だったとします。それぞれ10点満点中5点レベルのスキルレベルが必要だとしましょう。あるメンバーのスキルレベルが、ヒアリング力3点、プレゼンテーション力5点、クロージング力8点だとします。

この人が実際にコンサルティングを実施した結果はどうなるでしょうか。

プレゼンテーション力は5点なので問題ありません。クロージングは8点なのでかなりのレベルです。しかし、ヒアリング力3点に足を引っ張られて、結果的に3点レベルの売上しか出せないのです。

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これは『ザ・ゴール』の中で記述されている「制約条件理論」です。

制約条件理論では、プロセスの最も弱い部分(制約条件)を強化することで、成果を高めることができます。上記の例でいえば、「ヒアリング力」のスキルが5点まで強化できれば、その人の他の能力をも活かしやすくなり、売上を効率的に上げることができるわけです。

制約条件理論に従って、強化すべきスキルに絞り、そのスキルを向上させることができれば、成果が大きくなり、ROI…つまり生産性が高まります。

プロジェクトチームでも同じです。

大抵は、最もスキルの低い人にフォーカスして基準やルール、標準化などを検討します。最もスキルの高い人に基準を合わせても、誰もついてこれないからです。だからといって、最もスキルの低い人に基準やルールを定めていては、スキルの高い人のパフォーマンスが最大値化できず、コスパが良くありません。

ですから、平均と最も低い人との間に基準を設け、その基準より低い人は教育や育成などを通じてスキルを底上げしてもらうとともに、全体的な平均値があがればあがるほど、基準も見直していくのが理想とされているのです。

まぁ、これがチームワークにおいて、優秀すぎる人の足枷になる一番大きな原因でもあるのですが。


もう1つ、ROIの成果に着目して、生産性を高める大切なポイントがあります。それは「やらないことを決める」ことです。ROIが低い…効果が小さい仕事をやらないということです。

よほど必要不可欠となるものでない限り、「費用対効果が薄い対策」「優先度が低い施策」と言うのは、やらない方がよいものです。実際、「やらないよりはやった方がマシ」と言うのは、効果にばかり着目していて、費用対効果まで考えていない人の名セリフですよね。

と言うわけで、断捨離と言うか、タスク整理と言うか、効果が小さすぎてコストをかける甲斐もないようなことは、極力やらない方がよいのが通説ですが、よくある話と思われがちですけど、これを実践できていないことの方が多いのが現実です。

目の前にたくさんの仕事がある。
どれから手をつけてよいかわからない。
あるいは、ある仕事をしている途中で、別の仕事がやってくる。
どれを優先するのか決めかねているうちに、時間だけが過ぎていく。

 「あぁ……1日が48時間くらいあればいいのに」
 「私の仕事の優先順位、誰か決めてくれない?」

そのようなことを思った経験はないでしょうか。私はあります。ありました。今でこそ、自分で自分のタスクを決め、自分の裁量でコントロールできる立場にありますが、まだそこまでに至らなかった時代は、「何のために必要があるのかわからない作業」「リーダーの個人的な自己満足のためにさせられるタスク」なんてものに、フラストレーションを貯めながらも黙々と実施している時代もありました。

もしも、皆さんの周りで「何のためにやってるんだろう」「意味あるのかな?」「こんなことしている暇があったら、もっと大事な仕事を…」と言う状況に陥っているようなら、一度

 やるべき仕事をリストアップして、
 優先順位の高い仕事から取り組む

ようにしてみてください。

ちなみに、今の私は常にやっています。たいていの場合、仕事の優先順位をほんの少し調整するだけで、なんとかなります(まぁ…実際には、できることは優先度付けだけではないんですけどね)。もしも、仕事が重複したとしても、顧客・上司・間接部門のいずれか、あるいは上司と調整するだけで基本的に解決できます。

ですが、多くのビジネスパーソンは、正しく優先順位をつけずに仕事をしています。「そんなことはない」と思うかもしれませんが、事実です。

たとえば、「依頼を受けた順番」などを優先順位として仕事をしている人です。これらもある意味で優先順位と呼ぶのでしょうが、これは正しい優先順位と言ってもいいのでしょうか。

もちろん、新入社員や派遣社員であれば、依頼を受けた順番で、段取りよく業務をこなしていればそれで十分かもしれません。しかし、社会人歴数年以上の若手~中堅社員で、依頼された順番、思いついた順番、やりたい順番などに仕事をしていたとすれば、それは「盲目的に順番をつけた」と言うだけで、本来の意味での正しい優先順位はつけられていないといえるでしょう。

正しい優先順位をつけることができれば、仕事の生産性は少し向上します。しかし、それだけではその効果は限定的です。「優先度をつけないよりは多少マシ」と言う程度でしかありません。

仮に①~⑩までの仕事があったとしましょう。

それぞれのタスクを優先度をつけて作業したとします。どのような順番になってもかまいません。たとえば

 「①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩」の順番で進めた人と
 「①③⑤⑦⑨②④⑥⑧⑩」の順番で進めた人

この2人にROIに変化はあるでしょうか?


ありませんね。

仕事量が同じで、同じ数だけこなせば、順番が変わっただけでROI自体は何も変わりません。優先順位を決めるのは、あくまで「やらないことを決める」ための事前準備です。

 正しく優先順位を決めることに加えて
 やらないことを「決める」
 そしてその仕事を決して「やらない」

本当に大事なのはこの部分です。そうすると、その「やらない仕事にかかる時間」をほかの優先順位の高い仕事に振り向けることができます。何か難しいことをしなければならない、と言われるよりはるかに簡単ではありませんか?

ただし、やらないことを決める際に、思いついた順番に「やらない」というのでは困ります。大事な仕事、優先順位の高い仕事なのに、思いつく順番が遅かったのでやらないというのでは、生産性向上以前の話です。
仕事の生産性を向上させるためには、業務優先度を決めて、『やらないことは何か』を決める。

日本人は、周囲の視線を妙に気にしたり、とにかくがむしゃらに頑張ることが正しいと思っていたりと、生産性以前のところで足踏みしている人が多い傾向にありますが、それではいつまで経っても、デキるビジネスパーソンにはなれません。

中には

 「そもそも優先順位の低い仕事などない」

という考え方をする人もいます。ある側面では正しい意見かもしれません。
そもそも大抵の仕事というものは「やったほうがよいかやらないほうがよいか」と聞かれれば、大半の仕事は「やったほうがよい」ものが多いでしょう。この点に疑う余地はありません。

しかし、この反応をする人は、重要な観点を忘れています。

 人一人にあたえられる時間も、
 そして会社の資金もすべて有限である。

ということです。「やった方がいい」程度の判断基準で、会社の貴重なリソースを食いつぶしていい道理はないのです。限られている人、モノ、金、時間を重要な仕事にだけに集中して取り組む。これが時間の有効な使い方の最大のポイントです。

これが理解できない視点の人は、

 「財布の中には1000円しかない。
  しかし、ステーキも食べたいし、すしも食べたい。
  天ぷらだって食べたいに決まってるし、
  デザートがなければ話にならない。でも金はない。でも食う」

と言っているのと変わりません。支離滅裂です。

人・モノ・金・時間とはすなわち『リソース(資源)』です。限られたリソースを最大限有効活用すると言う観点が抜け落ちているのです。そしてこの観点が抜け落ちている人がマネジメントをすると、足りないリソースの中で、それでも成果を上げさせようとして、一番簡単にコントロールできる"時間"を無いところから打ち出の小槌のように増やそうとします。

そう、それが残業です。

そして、残業すればするほど、通常勤務よりはるかに高い単価でコストが奪われ、利益を圧倒的に減少させていくわけです。

会社側(上司側)が指示して課す残業と言うのは、会社側(上司側)が限られたリソースの管理を見誤って、コントロールを失敗させた結果として発生するものです(個人が勝手に失敗や努力をしなかったことによって、その挽回のために費やす残業は別です)。

 「やらないよりはやった方が良いかもしれない。
  しかしROIは1未満である。
  それでも、本当にやった方が良いのか?」

本当に重要な観点はココです。
どんなに聖域化された仕事であっても、見直さなくてはなりません。

ROIが1未満と言うことは、確実に会社にとって投資対効果が無い…すなわち赤字化している業務と言うことです。従業員やメンバーの負担や不満を無視してまで続ける意味なんてあるのでしょうか。

 ①ROIを意識すること
 ②ROIに着目して制約条件をコントロールすること
 ③そしてROIに着目して、優先順位を付与し、やらないことを決めること

この3点をしっかりとおさえておけば、自ずと生産性は向上し、費用対効果の高い仕事ができるようになるのではないでしょうか。

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