タイムリミットまであとわずか
以前、経済産業省が発表したレポートに
『2025年の崖』
というものがあって、一部界隈では騒がれていましたよね。
意外と、この業界全体でまだまだ焦りが見られているようには見えませんが、みなさんは放っておいてもなんとかなると思っていたりするでしょうか。それともまだなにひとつ考えもしていないと言う状況でしょうか。
あと2年強。
システム開発の猶予としてはけっこうギリギリになってきました。現時点で見据えておかなければならない範囲としては近すぎるほどです。
日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、世界と比して周回遅れという声が以前から延々とまことしやかに囁かれています。
事実、旧態依然とした基幹システムを何十年も使いまわし、現場の労働者に多大な負担を与え、それがそもそも働き方を煩わしくさせている根源であるにもかかわらずいつまで経っても改善しようとしない企業と言うのはそこかしこに存在しています。
IT企業もそのほとんどは「売上」「利益」そして「保身」のことばかりで、本当にお客さまや市場のことを考えてDXを推進していません。長く続いた発注側と受注側のジレンマによって多くのトラブルを経験してきた歴史が、ITプロジェクトにおいて非常に臆病とさせてしまっているんですね。
ですが、このまま放置しておいて本当にいいのでしょうか。
経済産業省が2018年9月に発行した「DXレポート」は、
と指摘しています。
これが2025年の崖です。
そういえば同時期に既存のSAP ERPのサポートサービスが、2025年に終了しますね(一応、ユーザーの移行期間等の問題を考慮し、SAP社はサポート終了を2027年に延長を発表してはいますが)。
そのためSAP ERPのユーザー企業は、S/4HANAなどへ基幹系システムを移行しなければならないという問題もあります。そのIT投資もバカにならない巨額が必要ですし、そういう仕事があふれかえるとますますIT企業の2025年の崖に対する準備は滞ってしまうかもしれません。
日本国内でのSAP ERPを基幹システムとして利用している企業はおよそ2,000社。
それらを一気にS/4HANAや他のERPのアプリケーションなどへ移行しなければならないわけで、時間が経てば経つほどそれだけで業務系エンジニアの大半が不足するとも言われています。
S/4HANAはSAPが用意した次世代ERPと謳われているもので純正の移行先ではありますが、データベースは新たなSAP HANAに固定されていてアーキテクチャも完全に刷新されています。
そのためSAP ERPからS/4HANAへの移行は、他社のERPアプリケーションに移行するのと同等の手間がかかるとも言われ、グローバルな調査では既存のSAP ERPユーザーの半分ほどはS/4HANAへの移行を決めているものの、1割ほどはS/4HANAへの移行を断念しているという実態も浮き彫りになっています。
つまり、新規にSAPを導入していた頃と同じ予算、同じ工数、同じ量のエンジニアを必要と言うことです。
しかも、S/4HANAにもそこそこ精通したエンジニアでなければなりません。
このままでは、従来のソフトウェア開発エンジニアを投入するだけのプロジェクトで大炎上することも容易に想像できますし、そうなればさらに具体的な解決策を持たないマネージャーたちのせいで簡単に人海戦術を用いようとするのは想像に難くありません。
結果、よりIT人材が不足すると言うデス・スパイラルも覚悟しなければならないと言うことです。
もちろん、SAPを取り扱っていない企業でも少なからずその影響を受けることになると思います。
たとえば、『新規の外注確保が相当難しくなる可能性』です。
景気は現在の国際的な問題等々もあるので何とも言えませんが、おそらくは仕事が少ないと言うことはないのかもしれません。
しかし、
『(人が不足して)仕事を請けられない』
『(顧客との日頃の関係から、無理して)受けた仕事が炎上する』
『(やはり人が不足して)炎上がなかなか消化できず、次の受注活動に移れない』
と言ったことにはなりかねないかもしれません。
杞憂に終われば良し。
けれども、運よく杞憂で終わることはまず無いでしょう。
「杞憂で終わる」結果となるための対策が打てなければおそらくは杞憂にならず、現実のものとして対応しなければならなくなるかもしれません。
「DXレポート」は、経済産業省の中でも情報技術利用促進課と情報産業課の連名となっています。
実は"情報産業課"は、ITベンダーを管轄する組織です。
情報産業課は、なぜ日本のIT産業がこんなに頑張っているのに苦戦しているのかを探っていました。
そうした中で、大きな問題の1つに
という悩みを抱えていることが判明しました。
結果的に新しい技術、新しいアーキテクチャ、新しいUI/UXなどについて提案できる人材を作ることができない組織となっていったのです。
確かに保守や運用という役割は、次期システムへのリプレースプロジェクトに対する営業活動的な側面もあります。次の大規模改修に向けて、先んじて仕様や課題などを把握するための期間に充てられるわけです。
まともにDXが運用されているユーザー企業であれば、ITシステムの償却期間が設定されていて定期的にリプレースしていることでしょう。
そういったユーザー企業様に対しては、保守や運用も意味があります。
しかし、一度作ったシステムを予め定めた償却期間を無視して、十年、二十年…と老朽化しても、現場が困っていても、対応してこなかったユーザー企業に対してそれを保守・運用し続けるというのは、死に体の組織、エンジニアを作ってしまうことと同義です。
仮に目先の売上や利益を優先するとしても、1~2年という短いスパンで人員をローテーションさせていかないといずれつぶしの利かないエンジニア層が増え、自ら首を絞めることとなっていきます。
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