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残業の心構え

働きかた改革でもさんざん騒がれていたので、みなさんご承知のこととは思いますが、労基法にも記されている通り、残業を実施するには、国として定めた法律の範疇で行わなければなりません。

私も、20代の頃は200時間以上残業したり、6徹したり、仕事中に気を失って何度も救急車で運ばれたり、色々してきましたが、それでも死ななかったからと言って、同じことを他の人に強要していい理由にはなりません。今生きてはいますが、ひょっとするとはるかに寿命は縮んでいるかもしれないのです。

まぁ…もちろん、そんな経験しててもしてなくても、他人に強要することは法に反しますが。

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しかし、実情はどうでしょうか。
 
毎年、過労死や自殺、また労働時間に関するハラスメントが原因で精神疾患や体調不良、挙句、裁判に発展するなどという悲しい事故も起きるほど、世の中では残業過多となっている痛ましい状況があります。

そこには、「残業」することが当たり前とされてきた時代があって、そんな時代を生き抜いてきた人たちの変化に対応できない感性があり、またそんな人たちが企業の上層部を占めている…と言う実態があるのでしょう(あ…だから、最近の優秀な学生たちは日系企業を見限って、メガベンチャーや外資企業を優先的に狙うのかな)。

そこで一度、原点に立ち戻り「残業」「残業しなくてはならない状況」と言うものをイメージして見ましょう。

そもそも「残業すること」それ自体は一般的ではありません。
さらに言うと普通ではありません。

「普通」とは、その日の計画を立てる際に8時間/日として計画し、その計画通りに業務を遂行すれば、8時間後には計画通り業務が完了している状態を指します。そうすることを前提とした「計画」があり、マネジメントされることこそが『普通』なのです。もしそうなっていた場合、当然ながら残業の必要性は微塵もありません。

残業とは、この

 計画が破たんした場合に起きる"異常事態"

であると認識してください。逆に言えば、普通の仕事スタイルとは8時間でしっかり終れる計画を組み立てることが常態化されるものであり、マネジメントにおいてここが疎かになっていれば、必ず残業が発生します。

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計画には、「全体計画」「個人計画」があります。

企業の経営計画などもありますが、そう言うのはちょっと置いておいて、一般社員の立場から比較的目にする「全体計画」は、プロジェクト計画が主となっていくのではないでしょうか。

この計画は、たいていの場合、プロジェクトリーダーやマネージャーが立案します。工期に余裕があれば、そのプロジェクトチーム内の一人ひとりの要員のスキルを想定した精度の高い計画を立てることもできるでしょう。

しかし、一般的にはそうなることはまずありません。

スケジュールの元となる"生産性"は大抵の場合固定化されており、一般的なメンバーの平均値前後が用いられることが常となっています。そのため、習熟度の高いベテランエンジニアと、新入社員やまだ入社年度の若い要員とが
同じ土俵の上で計画を立てられてしまうことになっていきます(実際には微調整しているとは思いますが、していない計画もたくさん見てきました)。

これは計画者が悪いのではありません。

計画を立てる際にはあまり自由度が無いのです。自由であることを会社も顧客も許しません。どんなに正しい根拠があっても許さないのです。

仕事を依頼するユーザーやベンダー各社にも都合や予算などがあります。その中で要求事項を満たしていくためには、計画はエンジニア平均値としたうえで、その平均値を遵守することが難しい要員には教育、育成、フォロー、サポートなどを実施して平均値に近い状態を維持しようとすることが一般的なのです。

このあたりは計画者の裁量がとても大きく影響しますが、最終的に計画が完成した際には必ず計画内容が参画者全員に展開されます(キックオフミーティングなどと呼びます)。

この時、自分の目で見て、自身の仕事の実現可能性をしっかりと吟味してください。実現することが困難であると判断された場合、計画が実行段階に移される前にアラームを出さなければ、それは自分の仕事内容と量について問題ないことを「承認した」という暗黙の扱いを受けます。

その後は自分の裁量と責任で業務を遂行していかなくてはなりません。

計画段階で割り当てられた"自分自身の仕事"に対し、計画通りに完了できない場合、それは基本的に自分の責任なのです。その責任を果たすために「残業」が必要となった場合にのみ、その権利や責任が発生するものと認識してください。

残業には当然賃金の支払いが発生します。

さらに残業手当(普通算で時給の1.25倍、深夜残でさらに1.35倍…だったかな?)と言って、基本給とは異なった給与計算上で支払われることになります。これらはすべて流動経費(=人件費)となるため、プロジェクトの売上から差し引かれて支払われることになります。

おわかりでしょうか?

つまり、残業をさせればさせるほど、すればするほど経費を費やしてしまうということです。利益を減らし、企業貢献とは逆方向に進めようとしているということです。

企業の利益は、一般的に「売上 – 経費 = 利益」として計上されます(細かいことを言うと、5種類の利益がありますが、開発するプロジェクトチームの中では"粗利""営業利益"のことだと思ってください)。

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よって、残業はすればするほど、開発者にとっては残業手当として賃金の増額が発生するかもしれませんが、その分、企業側の利益が著しく低下することになってしまいます。

最後に残った「利益」は、企業が成長していく上で大切な栄養分です。これが減れば減るほど企業成長は停滞しがちになりますし、もしも売上が経費を下回るようなことがあれば、赤字経営となってしまいます。会社が赤字化すれば、当たり前ですがいずれ社員に給与を支払えなくなります。そうでなくても、育成や設備投資などができず、いつまで経っても苦しいままのジリ貧から抜け出せなくなります。

残業は安易にほいほいやっていいものではない、やらせていいものではない、と言うことがわかりましたでしょうか。そもそも、36協定(労基法第三十六条)がどうこうと言う前に残業しなくても求められた結果を出せる計画立案、作業効率の向上を追求しなくてはならないと言うことです。

これは個人計画についても同様です。

多くのエンジニアがその日1日に自分がすべき仕事は認識していても、具体的な時間配分やその精度の向上を意識して業務を遂行していません。全体計画を遵守していくために、そして残業に頼らなくてもいい仕事を進めていくためにはこの個人計画はとても重要です。

誰か1人でも計画に遅延が出てしまったために他の全員でフォローし始め、
それがきっかけで全員の計画が狂ってしまう…と言う作業現場を今までも数多く見てきました。結果、スキルの高いエンジニアや、知識の深いエンジニア、効率の著しく高いエンジニアに仕事が集まっていくようになります。

しかし、彼らのようにとても高い技術水準、高い生産性にあるエンジニアと言うのは、当初から重要なポジションに身を置いていることが多く、元々担当している仕事も難易度が高く、複雑で、且つ大規模なものであったりすることもままあります。

そんなキーパーソンとなってしまっている彼らに、自分たちが抱えていた仕事のフォローまで集中させてしまうと、最終的には体調を崩してしまったり、精神的に病んでしまったり、あるいは辞めてしまったり、時には冒頭に述べたように過労死に至ってしまったりと、不幸な事故につながることになっていくのです。

全ては「計画通りに実行する」と言う根本的なことを社員一人ひとりが正しく遂行できるかどうか?にかかってきます。そしてそれは誰1人欠けることなく、全員が同じ意識を持って業務に取り組んでいかないと、成立しません。


ちなみに。

社員一人ひとりが1日あたり15分の生産性を向上させたと仮定しましょう。平均単価を75万と仮定すると、1日あたりの単価は 37,500円。1時間あたり、4,687.5円となります。ある企業にて、500人ほどの社員がいて、その全員が約215日/年ほどの営業日全てを15分短縮すると、

15(分/人) × 215(営業日) = 3,225(分/人) = 53.75(時間/人)
53.75(時間/人) × 500(人) ≒ 26,875(時間)
26,875(時間) × 4687.5(円/時) = 125,976,562.5(円)

ざっと試算しただけでも、およそ1.2~1.3億の利益改善が見込めることになります。売上を一切変更しなかったとしても、です。残業代の低減であれば、さらに効果が出ることでしょう。

無駄な残業もそうですが、作業効率を少し改善するだけで、どれだけ企業の利益が向上するか、お分かりいただけましたでしょうか。当然、その何割かは従業員満足度へ還元され、賞与反映、環境整備、待遇改善、etc.様々なところに好影響をもたらします。

まずは個人レベルで日々の作業に対しての計画精度を向上させていきましょう。その上でさらに作業効率の向上も並行して行っていくことで、エンジニアとして社会人としての土台となる基礎力が飛躍的に向上します。

逆に、どんなに尖った能力を有していても、この「計画精度」と「作業効率」が伴っていない社員は、組織活動に対する貢献ができず、決して大成することはありません。


私は、私がマネジメントするチーム活動において、『異常事態』とならない限り、メンバーに残業を強いることはありません。突発的な対応を求められるような異常事態の場合は仕方ありませんが、1度立てた計画は、外的要因によって影響を受けない限り、最大限順守します。

二次請け、三次請けで立場が弱かったころは、断ることもできずに我儘を聞かなければならないことも多かったと思いますが、一次請けや品質保証として関与するときには、今のところ我儘をそのまますんなり聞くと言うことは無いですね。一応、ちゃんと変更依頼管理のルールに則って、手続きを踏むようにしていますから、滅多なことで残業を強いるようなことはしていません。


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