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隣人がテレビばかり見ている列島

かつて米国の優秀な天文学者にして科学の伝導者だったカール・セイガンは、著書のタイトルを The Demon-Haunted World : Science as a Candle in the Dark とした。科学や民主主義という単語がよく暗闇と対比されるのは、キリスト教の教えが光に喩えられているからというより、ヒトはアタマが悪いのですぐに demon に取り憑かれてしまうという現実を指摘している。
たとえば、シャーロック・ホームズは事件現場や関係者の身の回りをよく観察して、それらから得られた情報をつなぎ合わせて解決に導いている。コナン・ドイルは「何に着目するか」ということを通して、シャーロックという明晰な頭脳の持ち主を描いた。新種のウイルスが流行して世間が大騒ぎしている時に、シャーロックなら「高齢者が重症化しない流行病があるとでも?」と事も無げに言うだろう。
あるいは、前回のnoteに記した一般化の例を出せば、ある人の周囲で新型コロナウイルスに感染した患者が複数いたとして、「Aさんはひどい高熱が出た。Bさんも高熱。コロナに感染したら高熱が出る」と結論づけてしまうことはミスリードだと分かるだろう。しかもこの時、全く無自覚だったと語るCさんを「例外」と判断してしまうのが一般化の苦手な人物の特徴である。およそ科学には向いていない。
こうして、死亡率がほぼ例年のインフルエンザと大差ないという現実には目もくれず、諸外国では考えられない回数のmRNAワクチンを打ちまくり、あらゆる活動を自粛せよというナンセンスな要求にすすんで応え、後日になって「あの時はメディアがそう言っていたから。周囲の人もそう言っていたから」と、80年ほど前によく出回った言説が再現されるのである。「周囲の人」の大半はテレビの受け売りであることを考慮すれば、周囲の人ほど当てにならないものはないし、この列島に住む者なら「周囲の人」が80年ほど前に加担していたイベントについて少しは反省すべきだ。
ちなみに、僕はプーケットからの帰国時に陽性だと診断され、帰国便を2週間も遅らせる事態になった。全くの無自覚で、ビール片手にビーチ沿いのクリニックで「本当に?」とナースに訊くと「帰国時の検査をいまだに義務づけているのはJAPANだけよ、残念だけど帰れないわね」と笑われた。もちろん、タイ現地では隔離などなく、クラブやバーで遊んで過ごして帰国すると、エボラの研究所みたいな連中に大量の紙を渡されて位置情報確認アプリまでiPhoneに導入された。「いいからさっさとタバコを吸わせろ」と大声で苦情を言うと、職員たちが皆こっちを見た。あの時、多くの日本国民は、何に着目していたのだろうか。

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