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命を懸けたのにウソだったの / 「7月4日に生まれて」

I'm here tonight to say that this war is wrong, this society lied to me, lied to my brothers.
(僕は今夜ここに、この戦争は間違っていて、この社会は僕に嘘をつき、僕の戦友たちに嘘をついた、ということを言いに来ました)

Ron Kovic

7月4日であることを先ほど思い出した。アメリカの独立記念日である。まさに今日こそローランド・エメリッヒ監督の映画「インデペンデンス・デイ」を語るにもってこいの日ーー、な訳がない。オリバー・ストーン監督「7月4日に生まれて」だ。この映画は、元海兵隊員のロン・コーヴィックが著した同名の本が原作である。
これまでにnoteで取り上げた「地獄の黙示録」や「フルメタル・ジャケット」のような、戦うという行為を通して人間の業を見つめた映画とは少し異なり、本作はベトナム戦争の意義を問うものだ。「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」に近いと言えるだろう。
主人公のロン(トム・クルーズ)はベトナムへ出征し、部下を誤射で死なせてしまい、民間人を殺し、みずからも敵の銃弾によって下半身が不随となってしまう。ところが帰国してみると、米国民からの冷たい視線に晒され、ロンはやがて何のために戦っていたのかと精神を病んでいく。
こうした、帰還兵が歓迎されないという事態は日本列島でも起きていた。しかし、日本では敗戦したことによって"実は戦争に反対でした"と言い出した連中が大勢いたのに対して、アメリカはベトナム戦争の真っ最中から、ヒッピーたちをはじめ派兵に反対する声が大きかった。何のためにベトナムへ行ったのか、という命懸けの兵士たちの心の傷は決して容易く癒えるものではない。それは「ディア・ハンター」のラストシーンでも描かれていた。
ロンは1972年のニクソンの再選に反対するために行動し始める。ケネディ大統領が成し得なかったベトナムからの撤兵を民主党候補に託そうとしたのだが、けっきょく再選を果たしたニクソンがデタントを推し進め、ベトナムからの撤退を実現した"リベラル"な大統領になったことは皮肉である。
本作でアカデミー監督賞を受賞したオリバー・ストーン監督は、イェール大学を中退してアメリカ陸軍の兵士としてベトナムで戦闘に参加している。その経験が本作と、この前に撮られた「プラトーン」で活かされている。
ちなみに、オリバー・ストーン監督はトム・クルーズについて、"ゴールデン・ボーイという印象だったから、そのトムが逆境に置かれたらどんな演技になるのだろうと思った"という理由で主演することを受け入れたと後に語っている。当初は「トップガン」のような"ファシストの映画"に出演していたので難色を示したらしい。
ベトナムへ行った兵士が良心を壊してしまうように、ウクライナを攻めたロシア軍の兵士の中には戦争の意義を見出せず士気が上がらない者も少なくないという。いま、イスラエル軍の兵士たちは何を思うのだろう。
こうした戦争映画を通じて観客が学ぶべきことは、いつの世でも、政府は国民に嘘をつくということだ。

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