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調べたらダメよ / 「ドント・ルック・アップ」

ジェニファー・ローレンスは「ハンガー・ゲーム」シリーズで有名だが、22歳でアカデミー主演女優賞を受賞した「世界にひとつのプレイブック」や「アメリカン・ハッスル」など、とにかく演技の上手な人だ。Netflixで2021年末から配信されている「ドント・ルック・アップ」でも、足が地に付いたジェニファーの佇まいが物語を落ち着かせていた。
ミシガン州立大学の天文学の大学院生、ケイト・ディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)が、ある日地球に接近する彗星を発見し、ランドール・ミンディ教授(レオナルド・ディカプリオ)と共にホワイトハウスへ行ったりトーク番組に出演したり、なんとか対策を講じてもらおうと奔走するーー、というシンプルな筋書きのコメディである。ケイト・ブランシェット、タイラー・ペリー、メリル・ストリープ、ジョナ・ヒルなど、他の出演者も豪華でNetflixの勢いを感じる一作だ。ちなみに、歌手のアリアナ・グランデも本人の役で登場していた。コメディはまず何よりも観客に楽しんでもらおうというサービス精神ありきの演劇なので、演技の上手な役者ほど好んで出演する傾向がある。
レオは相変わらずレオの演技だ。良くも悪くもいつも同じである。安定感があると言えばいいのかもしれない。
さて、ケイトたちがトーク番組で"半年後に衝突するわよ"と警告しても、司会者たちはコーヒーを飲みながら笑って受け流していたが、これはシリアスなことを避けたがる"お茶の間"の人たちを批判していることは明白だろう。これは報道番組ではなく、トークショーだった。アメリカでもヨーロッパでも、報道番組はかなりシリアスに報道している。ところが、いわゆる"みんなが見ている"番組になると、物事を真剣に考えないように、コーヒーを飲んでジョークを言って済ませてしまう。つまり、考えることをやめてしまう。ドント・ルック・アップ、というメッセージがここに込められている。look up は"見上げる"という意味でよく使われるが、"調べる"という意味もある。ジョークばかり言って、物事をじぶんで調べなくなっていないか?ということだ。
ホワイトハウスのシーンでは、アメリカの政治が大統領の"身内"を中心に回っているという、これはもう幾度となく批判されてきたことが描かれていた。しかし、"馬鹿野郎"の演技がジョナ・ヒルは本当に上手い。どう見てもただのバカだ。すったもんだの末に何も状況は好転(look up)しない。
そして、多くの人たちが夜空を見上げ(look up)、大きな隕石が地球を訪ねて(look up)きていても、けっきょくみんなで死んでしまうハメに、というコメディである。タイトルが秀逸だった。

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