新作サンプル:ドラゴン

「僕ね、昔ドラゴンの虫歯を治療したことがあるんですよ」
そんなことを先生が言い出したのは、森で山菜を採って診療所まで帰る道すがらだった。
先生の過去はミステリアスだなあ。素敵。
「まあ、すごい! でもドラゴンて危険じゃないですか? 噛まれそう」
「あはは、大丈夫ですよ」

「ドラゴンは確かに鋭い牙を持っていますが、肉を食らう化物とは違うんですよ。彼らはマナを直接食べるのです」
マナって何だろう?
博識な先生、素敵。
「マナというのは、簡単に言えば空気みたいなものです。私達だって呼吸をするでしょう?」
「えーでも、空気を食べて虫歯になりますか?」

すると先生は、ちょっとだけ困った顔をした。素敵。
「んー、そうですね。言われてみれば、確かに…もしかしたら、私達に見られないよう、こっそりと、何か別のものを食べているのかも知れませんね」
「きっと甘くて美味しいものですよ。いいなあ、ドラゴン」
いいなあ、先生に治療してもらって。

「今度会ったら聞いておきますね。それにしても、貴女の着眼点はいつもながら素晴らしい。恥ずかしながら、僕はドラゴンの食べ物について疑ったことは一度も無かったのです」
だって、ドラゴン格好良いから。キラキラと少年のように瞳を輝かせて、先生は微笑んだ。素敵。

あ! 今、褒められた私!

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