新作サンプル:ケーキ

「殺人事件て、あるじゃないですか」
ケーキを取り分けながら、ふと先生がそんなことを口にした。
あまりにも突然だったので、私がきょとんとすると、
「あ、人が殺される事件のことです」
説明してくれた。優しい。素敵。
「存じております」
「うん。でね、」
先生、楽しそう。

「殺人事件て、大抵容疑者が二人以上現れるんですよ。このケーキみたいに」
先生は取り分けたケーキをナイフの先っぽで交互に示してみせた。
「同じくらいの大きさに切ってますから、同じくらい怪しいんです。でも、所詮素人なんで、ちょっとだけ大きさが違う。部位によってトッピングも違ったり」

「その些細な違いを見つけることが、推理なんですよ。真実を突き止めるには、充分に味わってみないと…視覚の他に、嗅覚、味覚も使ってね。うん、美味しいです」
先生はむしゃむしゃとケーキを食べる。頬っぺたにクリームが付いてて可愛い。素敵。

私も事件を存分に咀嚼してみよう。うん、美味しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?