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納涼!ひんやり体験談






私はお化けとか幽霊とか妖怪とかそういう類いのものが大好きだ。好きというだけで特に詳しくもないし霊感があるわけでもないのだが、夏になるとホラー特集だとか肝試しだとかがあるのでいつもワクワクしている。心霊系のホラーゲームをやるのも夏が一番楽しい。唯一、夏の好きなところ。





今回は、「納涼!ひんやり体験談」と題して、私が体験したちょっとヒヤッとする話を書くことにした。

とはいえ、私自身明確に霊感があるわけではないし、霊体験で恐ろしい思いをしたなどということもない。「なんでですか!私何にも悪いことしてないじゃないですか!ここまで全うに善良に日々身を粉にして働いて生きてきました!なぜ今日初めてお会いしたあなたに恐ろしいことされなきゃならないんですか!」という気持ちでいるので、取り憑かれたり怪我をしたりとかいう経験はもちろんない。生身の人間のほうが物理的に危害を与えてくるので怖いと思う。それについても後述する。





体験談は多くないが、いくつかご紹介したいと思う。





①おいでおいで男

小学校一年生の時、私は地下鉄に乗って通学をしていた。学校の最寄り駅の近くにはショッピングセンターが立ち、商店街などもあって活気のある街だった。下校時間になると子どもたちは一斉に帰り出す。私は仲良しの友達と駅まで帰り、友達はバスで帰宅した。駅の改札内まで母が幼稚園児の弟を連れて迎えに来てくれるので、約束の時間までしばらく駅前をぶらついていた。

「きみ、何年生?」

ふっと声の元を見ると、30・40代くらいの男が私を見てニヤリと笑って立っている。今でも覚えている。ベージュの上着、同系統のチューリップハットでまぶかに目を隠して、帽子から見える髪の毛は黒く傷んでいた。

「知らない人と話してはいけない」と母から教えられていた私は、恐怖を感じてすぐ走り出し改札に向かい、定期券を自動改札機に通した。「中にいればあの人も入って来れない。駅員さんもいる」と考えたのだろう。私は定期券を引き抜いてから、改札口を振り返った。

さっきの男は、改札の隙間から私を見ながらニヤニヤと笑っていた。それから手をゆらゆらと動かして、ゆっくりと呟いた。

「おいで、おいで」

怖くなってその場でしゃがんで、男を見ないようにしていた。そのあとすぐに迎えに来た母と弟が私を発見した。母が来た時には、その男はどこにもいなかった。事の全てを話すと母はすぐ学校と警察に連絡をしてくれた。1997年に神戸連続児童殺傷事件があった関係で、両親も学校も警察も敏感になっていた時期だったので、その後その男に会うことはなかった。





②某大学の裏門

家族で食事をした帰り、某大学の裏門側の通りを歩いて自宅へ戻ろうとしていた。裏門の前にはサークル帰りと思わしき4・5人の大学生が、円を組む形で談笑していた。1人だけ、白いシャツにブルージーンズの前髪の長い細身の男性は、その輪から離れて近くにある学校掲示板の裏に立っていた。電話でもしているのかな?と思い、大学生たちをさっさと通り過ぎた。

おかしい。

私はすぐ振り返った。
白いシャツの男が立っていたのは掲示板の裏。
掲示板の裏には大きい木が一本生えており、そこに人が立てるスペースなどなかった。4・5人の大学生集団はそのまま談笑中だった。

白いシャツの男は、その輪の中にもどこにもいなかった。

はっきりと見えたのはこれが初だった。
芸大生の霊。





③バイト先

店長と従業員は私を含めて二人だけという、小さな蕎麦屋で配膳のアルバイトをしていた。
通路は狭く、調理室から通路を挟んで真向かいがトイレ。それとは奥の突き当たり小さな扉があり、店長がエプロンをかけたり、道具を仕舞ったりするところがあった。

早めに出勤すると、店長の用具入れの近くからソワァッと風が通った。窓は空いていない。エアコンもつけていない。なんだったんだろう?と首を捻りながら調理室に入ると、店長がすぐ「どうした、なんかあったのか」と聞いてきた。大したことではなかったが、今あったことを話すと、店長が一言

「やっぱあの爺さん、まだ未練があるんだな」

蕎麦屋は元々古民家で、お爺さんが一人住んでいたらしい。高齢者施設に入居後に亡くなられて、家はリノベーションされ店舗という形で貸しに出された。それがこの店ということらしい。だから亡くなられたお爺さんが家に帰ってきているのではないかと。

店長は霊自体は見えないが、朝店に来ると用具が落ちていたり、酒の配置が変わっていたりするらしい。どうやらお爺さんは酒好きだったらしい。私の時はお尻のあたりに風が吹き抜けていったので、妙に納得してしまった。






以上である。




どうだろうか。そんなに怖い話ではなかったと思う(一個目以外は)。そもそも、こういう類いの話は怖い物ばかりではない。



最近は忙しすぎてあまり見ていないが、一昨年くらいの夏。農作業をする高齢のご夫婦の姿が電車の窓から見え、「微笑ましい光景だなあ」と思い二人を見ていた。鉄橋の柱を通り抜けた瞬間、畑にはお婆さんだけになった。お爺さんは今でもお婆さんの農作業を手伝っている、と思うと胸が締め付けられる思いだった。



私は霊的存在を信じているが、彼らが悪さをするとか取り憑いてくるとかそんなことは思っていない。もしそれがあるとするなら、私のことを恨んで死んだ人間だろう。善良に生きよう、徳を積もう。もしそれでも理不尽に襲われるようなことがあったら、冒頭でも言っていたように「なんでですか!私何にも悪いことしてないじゃないですか!ここまで全うに善良に日々身を粉にして働いて生きてきました!なぜ今日初めてお会いしたあなたに恐ろしいことされなきゃならないんですか!」と思おう。霊もコイツめんどくさそうだからやめとこうって思ってくれるはず。
たぶん、ね。






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