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我思ふ Pt.63

皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
我思ふPt.63の下書きを始めた現在は朝6時。

今日は待ちに待った退院の日。
妻と顔を合わせるのが楽しみで待ち遠しくてあまり眠れなかった。
恐らく泣いてしまうだろう。
恐らく感情を抑える事などできないだろう。

妻の事は、何年経っても大好きだという自覚はあった。
だが、離れて過ごしてみるとその感情の大きさに驚かされる。

手術前に少しだけ顔を合わせて話をする時間が設けられるのだが、私は看護師さんに言って数秒で面会を切り上げ、手術室へと搬送してもらった。
妻も悟ったように私にひらひらと軽やかに手を振った。

なぜか。

逃げ出したくなるからだ。
全身麻酔の手術初体験という極限の緊張の中、妻の顔を見ていると何もかも捨て去って逃げ出してしまいたくなるからだ。

妻の為に早く治す等という綺麗事すら頭から飛んで行ってしまう。
決心したはずの心が、妻の顔を見ていると揺らいでくるのがわかった。
察した妻は小さく頷く。
私は妻から視線を外した。

弱い。
本当に弱い。
妻の前では強がりなど通用しない。
全部わかっているというのはこういう事だろう。
そうやって見透かされる事すら愛おしい。

私は幸せなのかもしれない。
いくら老いても妻はあの時のままだ。
たかが二週間余り、離れただけでこの有り様だ。
出会って20年以上経過してもこの有り様だ。

こうやって愛しさのあまり、苦しむのは幸せな事なのかもしれない。

お前に先立たれたら
私はどうなってしまうのだろう

私に先立たれた
お前はどうなってしまうのだろう

そんな不安すら湧いてしまう
2022年初夏。

私はもう一度
ここから歩き出す

2022年 6月2日

我思ふ




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