高校演劇の講評について

高校演劇との関わりについて。たぶんこれから顧問をやる機会はないと思うのですが、高校演劇とは関わっていきたいと思います。これからの部活動はそのあり方が変わってくることは間違いない。高校演劇の場合、この先より大きな意味を持つ存在として外部指導員と審査講評が挙げられると思います。
外部指導員は脚本書いたり演出したりするだけでなく、演技指導、演出や裏方の指導という役割も果たさないとならないでしょう。地域委託はたぶんなかなか進まないだろうから、舞台作りも部活作りも、どっちも任されることになるのだと思います。
審査講評はどうかというと、これはその地域の高校演劇の指針であって、演劇観を育てる役割を持っている。長いことかかってその地区の傾向が生まれるのは大会での審査講評の積み重ねだと思っています。とうぜん、その審査員を呼んでくるその地区の高校演劇連盟の演劇観でもあります。
ただ、審査はともかく講評は、呼んできた演劇人や演劇部顧問に任されていて、高校演劇のけっこうな役割を占めるにも関わらず、いったいどういうのが良い講評かということにはだれも口を出してこなかった。いっさい(じぶんの知る範囲では)研究がされてこなかった。
ほんらい私たち教員は、勉強好きのはずで、研修は職務の内なので得意のはずなんだが、部活動は校務外でもあることから(グレーゾーンですが)研修もない。高校演劇好きには大人嫌いも多く、審査員講師を軽んじたり悪く言ったりする人もいます。もちろん特定の人物を想定したりもしています。
おとなも関わっての高校演劇であることは間違いなく、ただ悪口言ってるだけだとどうしょうもない。生徒が自主的にやっている、と賞賛するけれど、教員はみんな知っていますが、自主的にやる土壌をつくるのにどれだけおとなの力がいるか。生徒が自主的に考える授業の方が教科の実力が必要なんです。
だいぶ前にじぶんの県でも生徒講評というのをやってみようということで、県大会の会場を借りて、県大会に行けなかった学校何校かで公演をする催しで生徒好評委員を組織しました。集まった生徒はその年県大会に出場した演劇部員から希望者を募った。いろいろと悪条件は重なりました。
全国大会の生徒好評委員会の資料を取り寄せ、係の先生の指導のもと、幕間に講評委員の討論がおこなわれ、なかなか質の高いやりとりがありました。問題は講評の発表で起こりました。まだなれない運営側は大会の講評と同様に、長机と椅子とハンドマイクを用意して板付き、緞帳あけで講評の開始です。
最初の高校の講評に当たった生徒が、机にひじをつき、開口一番「○○高校のみなさん、どこですか?お疲れ様でした」と、大会での審査員のようにしゃべり始めたのです。こんな感じで続きます。「とてもおもしろかったのですが、全体的にメリハリももうちょっとつけないと観客が飽きると思います」
「それからやっぱり○○は下手にあった方がよかったんじゃないでしょうか」生徒講評は、優劣を語るのでなく、この劇をどう受け止めたかを述べるのが趣旨だと理解しているのですが、かれは思いっきりダメ出しを始めました。それもごくごく印象のみの。これを袖で見ていてち背筋が寒くなりました。
彼はおとながやっている講評のまねをしているのだ、と思いました。それはちょっと見ていられない下手なパロディにも見えました。次の人も同じ感じ。まず該当する演劇部に声をかけ、ダメ出しをし、上演校はメモを取る。最後に生徒講評を担当した先生が、全国大会の生徒講評の趣旨を読みました。
しかし本人たちには伝わってなかったでしょう。ここで考えたのは、講評をした演劇部員のことではなく、彼らは講評をこういうものだと考えているという事実です。だれもどう講評して、どう生かすかを考えてこなかった。コンクールだからこういうのが上に行くんだとみんな考える。
講評を聞いて、頷いたり反感を持ったりしながらも演劇についてだれかの意見を聞く機会もないから、演劇観が作られていく。一年に一度の大会だし、けっこう重みがあるんです。
顧問でもないので、演劇専門部や演劇協議会には加わっていませんが、講評についてはすこし考えていく予定です。ある県ではきちんと話せる若手の演劇人と演劇部顧問をペアにして地区大会の審査をして勉強の機会にもしているそうで、理想的だと思います。
審査員として呼ばれ、講評する際はいつかの生徒講評の彼を思い出します。そこで、謙虚になり、上からのダメ出しをせず、この劇をどう受け止めたか、この劇はどういう意味を持つか、一生懸命しゃべろうという気持ちになります。
ちなみにその後生徒講評委員会の発表をするときは、机と椅子は使わずに、立って話すようにしました。とたんにダメ出しがなくなり、劇を観てじぶんが考えたことを真摯に話すようになりました。これもおとなの準備が悪かったんだよ。
それから、おわかりだと思いますが、生徒講評委員会の話をしているわけではありません。講評の話です。


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