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【#98】人間の思考について知りたい人に『考えることの科学』

僕は塾講師として
専門科目を持たない
という少し特殊なスタイルでやっています。

一般的に「塾講師」と聞くと
・英語の講師
・数学の講師
・物理の講師
みたいな感じで何か専門科目を指導しているイメージだと思いますが、僕の場合は科目としての専門を持ちません。
(大手塾で授業をする時は一応数学講師や物理講師を名乗っています)

その代わりに「学習法」を専門にしていて、どの科目であれ生徒の学習を分析してアドバイスするという特殊なスタイルです。

学習法やその分析を専門にする上で大いに役立っているのが認知心理学という学問です。
認知心理学とは簡単に言えば人の記憶・理解・思考などのメカニズムを研究する学問で、これだけで僕の職業との相性の良さがご理解頂けると思います。

今回は僕が認知心理学に出会うきっかけになった本。
その面白さと実用性を痛感するに至った本をご紹介します。

日常生活での思考は推論の連続といえる。その多くは論理形式に従うより、文脈情報に応じた知識を使ったり、心の中のモデルを操作してなされる。現実世界はまた、不確定要素に満ちているので、可能性の高さを直観的に判断して行動を決めている。推論はさらに、その人の信念や感情、他者にも影響される。推論の認知心理学は、これら人間の知的能力の長所と短所とをみつめ直すことによって、それを改善するためのヒントを与えてくれる。

この本はざっくり言えば

「考える(≒推論)」とはどのような行為か?
を解きほぐす本です。

例として、本の中でも紹介されている
4枚カード問題
というものをご紹介します。

4枚カード問題

心理学で有名な4枚カード問題とは、次のようなものです。


さて、この問題の答えはわかりますか?

ヒント:正解は2枚あります。どの2枚でしょうか?

ちなみに筆者の市川先生がご自身の大学でこの問題を出題したところ

文科系:30~50%
理科系:70~90%
の正答率だったそうです。

あなたはどうでしょうか?
(正解は↓)









正解は「A」と「7」の2枚です。

ポイントは
「母音の裏には偶数がなければいけない」
というルールで、これはつまり
「子音の裏については言及されていない」
ということです。

まず「A」は母音ですから、その裏には偶数がなければいけません。
もし「3」などの奇数があればルール違反なので、確かめる必要があります。
だから「A」は調べる必要があります。

次に「F」は子音ですから、何のルールもありません。
裏側が偶数だろうと奇数だろうと問題ないのですから、調べる必要はありません。

難しいのが「4」。
この問題に間違える人は「4」を答えて間違えるのですが、ちょっと考えてみましょう。

仮に「4」を裏返してみて、母音が書かれていたらルール通りなので問題ありません。
そして「4」の裏に子音が書かれていても、やはり問題ないのです。
子音に関するルールはないのですから。
どっちにしても問題ない。だから「4」は調べる必要がないのです。

そして落とし穴が「7」。
もし「7」の裏側に母音があればルール違反です。
だから「7」は調べる必要があります。

よって答えは「A」と「7」

となります。

「考える力」なんて存在するのか?

4枚カード問題は単純なクイズとしても面白いのですが、示唆に富むのはここからです。

4枚カード問題に類似した問題をもう1問出題します。


こちらはどうでしょうか?

この問題はすごく簡単に感じたのではないでしょうか?

正解はもちろん
「ビールを飲む人」
「17歳」
です。

ビールを飲んでいるなら未成年でないか年齢確認が必要だし、未成年なら飲酒してないか確認が必要です。
逆に言えばお茶を飲んでいる人が何歳であっても構わないし、成人しているなら飲んでいるのがアルコールでもノンアルでもどっちでも良いわけです。

4枚カード問題の面白いところは、このように日常的で、感覚でわかる例に落とすと突然正答率が跳ね上がるところです。

論理的には全く同じ構造であるにも関わらず、解ける問題と解けない問題がある。

こうなってくると「考える力」なんてものが本当に存在するのかも怪しく感じませんか?

もし「考える力」というものがあるなら、その力がある人は同じ構造の問題は等しく解けているはずですよね。

よくよく考えれば勉強でも仕事でも似たような状況はあります。
同じような内容でも、あるケースは上手く対応できて、別のケースはできない。
こんなことは皆さんにとっても日常茶飯事ではないでしょうか?

「考える」ことを深堀る

我々は多分、雑な言葉に頼り過ぎています。
「考える力」もそうだし、
「理解力」「記憶力」「応用力」「コミュニケーション能力」なんてのもそうです。

確かに便利な言葉ですが、だからこその危険性も孕んでいます。
よくよく考えて見れば、そんな「力」が本当にあるのかも疑わしいものばかりです。

例えば受験などの勝負事に勝ちたいのなら
仕事などで再現性をもって能力を発揮しないのなら

安易に〇〇力なんて言葉に頼らずに、もっと一つ一つの現象を丁寧に見るべきです。

この本は4枚カード問題に限らず、そういった示唆を与えてくれる事象を数多く紹介・解説しています。

「考える」を深堀りしてみたい方は是非。

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