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「絶対に振り返らず逃げろ」という体験をした話

以下は、昨日の外出中に実際に遭った出来事について記した日記である。

自宅を出て少し歩いた先に、目の前に小柄な老婆がブツブツ独り言を喋りながら、ゆっくりと歩いていた。
老婆の鞄にはヘルプマークも付いており「あぁ、精神か身体かは分からないけれど『何か外見では分からない問題を抱えている人』なのだろう」と瞬時に察した。
また、これは決して偏見のつもりでないのだが、何故か直感的に「この老婆には近づいたらいけない」と感じた。

私の場合、こう感じた時は、その対象を避けるように努めている。
例えば電車内で挙動不審な人がいた場合、相手に気づかれないよう自然を装い車両を移動するか、敢えて途中下車をして次の便に乗り換えるようにしている。
「とにかくヤバそうな人と同じ空間にいないようにする」のである。
無意味、無駄な行動と思うかもしれないが、こうすることで損をしたことは今までで一度もない。

話を戻すが、どうやら老婆と私の進行方向は同じようで、他に避けて遠回りできる道もなかったので、やむなく「老婆と一定の距離を保ちつつ、迂回するように足早に追い越す」しか方法が思いつかなかった。
よくある「車の追い越し」の図を思い浮かべてもらうと分かりやすいかもしれない。
とにかく一歩一歩踏み込む歩幅を広く、サッサと歩いて老婆を追い越した。
老婆の歩行速度は本当にゆっくりな(というより歩幅が非常に狭い)ので、追い越すこと自体は簡単だった。

残念ながら、嫌な予感は避けられなかった。

「もしもし?ちょっと?」

「そこのアナタ、ストップ。」

「ストップ、ストップ。」

後ろから老婆が何やら私に声をかけてきた。
私達の他に周りには誰もいなかったので、老婆が声をかけている相手は間違いなく私である。
もしかしたら私の行動が不自然に見えてしまったのかもしれない。

しかし私は歩くスピードを緩めることなく、むしろ競歩並の速さで、老婆を無視して突き進んだ。
「この人の相手をしてはいけない」という本能的な恐怖感で自然と歩行速度が上がった。

「ストップ!ストーップ!!」

老婆は次第に語気を強め、しまいには大声で叫ぶように何度も私に話しかけきた。
おそらく老婆自体は、どんどん進んで遠くに行ってしまう私には追いつけないので、理由は分からないが私を呼び止めようと必死になっていたのだろう。
しかし私は一瞬たりとも反応せず、まるで「音が何も聞こえない人」のように演じ、老婆のことを一切無視して歩き続けた。
もしここで慌てて走ってしまったら、相手もまた何を始めるか分からないし、私も転倒したりして余計な怪我等を被りたくなかったので、追いつかれないスピードで歩き続けた。

ただただ執拗に私を呼ぶ老婆が怖かった。

仮に私が何か物を落としたなら「落とし物ですよー!」などと言えばいいわけだが、老婆はただ「ストップ!」としか言わない。
(一応、後で自分の手荷物等を確認してみたが、幸い落とし物をしたわけでもなければ、服装にも何も問題もなかった。)
相手が何を訴えているのかサッパリ分からないが、まるでホラー映画の「絶対に振り返らず逃げ切らねばならない状況」そのものだった。
もはや相手がこの異常な反応を始めた以上、申し訳ないが絶対に関わりたくなかった。

「えぇ…?何なん……?」

老婆は何やら困惑した一言を漏らし、最終的に諦めてくれたらしく、それ以上は何も言わなくなった。
それでも私は気を抜かず、振り返らず、歩行速度も落とさないまま、歩き続けた。
最近読んでいる集英社のweb漫画「ダンダダン」でネタにされている、都市伝説「ターボばあさん」でなくて良かったと心底思う。
私が老婆を目視して追い越すまでの距離自体はそんなに長くなかったけれど、気持ち的に非常に長く感じた。
世の中で一番怖いのは、何だかんだと「実在する人間」なのかもしれない。

しかし、この日記を書きながら、新たな不安がよぎった。

あの老婆は、もしかしたら、ご近所さんなのでは…?

上記の出来事は「私が自宅を出て少し歩いた先」でのことで、周りは閑静な住宅街でもあり、おそらく私と同様、老婆も何か用事があり自宅から外出していたものと推測される。
もし認知症患者に見受けられる「せん妄(徘徊)」であれば、身なりはキチンとされておらず、律儀に鞄も持っていなかったかもしれないが、(異様な雰囲気ながらも)老婆の容姿はそこまで深刻なレベルに見受けられなかった。
もう一つ、精神疾患のある人には、行動範囲が意外と狭く、特定の時間に、特定のルートしか使わなかったり、特定の場所へ行ったりすることが、日々の習慣(ルーティン)となっていたりする場合がある。

つまり、もしかすると、また会う可能性も否めないということである。

あの時、老婆は私が自宅を出るところを目撃していないので、幸い私の自宅がどこなのかは知られていないだろう。
しかし老婆の進行ルートを推測するに、私が自宅を出る前に、私の自宅を横切っていた可能性が非常に高い。

そう思うと、ほんの少しだけ失礼な態度を取ってしまったかもしれないという気もするものの、やはり「理解不能な相手とは絶対に居合わせたくない、余計なトラブルに巻き込まれたくない」という気持ちの方が圧倒的に大きい。
モヤモヤするが、私が今後も外出時に油断せず行動する他にないだろう。
防犯の意識は常に持っておくに越したことない。
万が一、またバッタリ出会って、暴れられたりすることがあったとしても、相手より遥かに若い私の方が物理的に力も強いだろうから、押さえ込むこと自体は難しくないだろうけれど。
とにかくベストなのは、リスクを回避することに尽きる。

どうか、どうか、あの老婆にもう会うことがありませんように。

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