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【創作小説】佐和商店怪異集め「友人相談室」

昼下りのカフェ。
抹茶ラテを飲むのもそこそこに、友人が、ずっと難しい顔をしている。
「すみれ。皺消えなくなるよ?」
「……そんな顔してた?」
「してるね、今も」
友人・芽吹菫はテーブルに突っ伏した。
こんなに分かりやすく悩んでるのも、何だか珍しい。
「榊さん、だっけ。自分のこと話すんでしょ。話しておきたいことがある、って、そこまで言ったんでしょ。言うだけじゃん」
「そう、なんだけど」
すみれが、よろよろと顔を上げる。
「こ、怖い……話しても良いのか、分かんない……」
弱々しい声で呟くすみれが、小さく見える。私に話してくれた時もこんなだったな、と、中空を眺め、随分昔のことを思い出す。彼女の過去、出生の秘密。驚いたけど、それがすみれから離れる理由になんてならなかった。変わらずこうして今でも友人だ。もう一度、すみれを見る。同性の私が言うのもあれだけど、こういう時のすみれはめちゃくちゃかわいい。受け止めてもらえるか不安な時に、非情な友でごめん。許せ。
「ーーすみれさ。私に自分のこと話してくれた時のこと、覚えてる?」
頬杖をついて、ふてぶてしい態度の私を、すみれが見てくる。どこ見てるか時々分かんないよね、とか周りから腹立つことを言われてる目だが、私はこの目が好きだ。澄んでいて、真っ直ぐで。
「……晴(はる)が大事な友達だから、言っておきたいことがある。信じなくてもいい」
「私、何て言った?」
「すみれの言うことなら、信じるに決まってる。私を信じろ」
今思い返しても、私、大概やべー返答してるな。今より若かったとはいえ。
「私、思うけどさ。榊さんも、私と同じこと言うと思うよ」
すみれが上体を起こす。
「そう……かな」
「そうでしょ。 大体、すみれが考えに考え抜いて話そうと思った相手、変なことになるわけないじゃん。榊さんのこと、信じてるんでしょ?」
「うん。信じてる」
それだけは、きっぱり言いきった。そういうことだぞ。
「じゃあ、問題ないじゃん」
「分かってる、んだけど……。頼れ、って言ってもらったの初めてだから……本当に、頼っても良いのかな……」
項垂れて言ってるすみれの顔が、ほんのり赤い。おっとこれは。これはこれは。ちょっと面白くなりそう。いや、今は、
「……嫌ならそもそも言うわけないでしょ。今まですみれと仕事して、すみれの側で何があるかも分かって、その上で頼れって言ってきてんだから。全く会ったことないけど、榊さんが可哀そうになってきたわ……」
呆れて言えば、すみれが顔を上げる。
「う。……ちゃんと話す……」
「そうしな。もし、ごちゃごちゃ言うような人間だったら、私がぶん殴ってやるから」
初めて、すみれが笑った。すみれはこれでお人好しな人たらしだから、時々心配になるけど、側に置く人間は間違わない。私も含めてね。
「ありがとう、晴」
花が咲く、って本当に例えたくなるような顔で、すみれが笑う。あんまり笑わないすみれが見せるこの笑顔が、私は好き。榊さんにも見せてるんだろうな。見せてあげててほしい。
「このお代は、すみれの新作ケーキでよろしく」
「抜かりないなあ……」
すみれの言葉に笑って、私はアイスティーを飲み干した。

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