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【創作小説】佐和商店怪異集め「飲み会の憂鬱」

今日は大学の飲み会で、私・芽吹菫は、行きたくなかったが仕方なく出向いた。
駅前の居酒屋で二次会まで飲み、ようやく解放される時。酔った友人が、店の階段を最後の段で踏み外し、直ぐ下にいた私が受け止める羽目になった。友人は無傷。だが、私は足を多少捻った。
私はそんなに飲酒しなかったが、場の全員は、完全な酔っ払い。
私を送ろうとか、誰かの家で休ませようとか言い出した。冗談じゃない。
タクシーで帰ると言えば、途中まで行くとふざけたテンションで言われ、途方に暮れた。
その時。まるで図ったように私の電話が鳴ったのだ。相手は榊さん。
いつもなら緊急で入れないかとか、何もないけど手伝えとか公私混同みたいな内容だから出たく無いけど、今ばかりは喜んで出た。
“何か騒がしいな。今大丈夫か?”
私は皆と距離を取り、声を潜めてとっさにお願いした。
「後で謝るので、とりあえず私の言うこと頷いててもらえませんか?」
“はぁ?”
めちゃくちゃに間の抜けた声が響く。分かる。気持ちはよく分かるけど頼む……!
「芽吹ちゃ〜ん、誰よ〜?彼氏〜??」
ザ・酔っ払い、みたいな台詞を吐かれ、私は思わず溜息をついた。
“なるほどねぇ。いいぜ”
面白そうに笑う声が電話越しに聞こえる。こっちはさっぱり笑えない。酔っ払いの質問は無視し、全員に聞こえるように声を出す。
「ーーええ。もうこっちは終わったので。駅で待ってます。待たせてすみません」
何という茶番。榊さんは最初に相槌を打ったあと、声を抑えて爆笑してた。私も逆だったら爆笑してたと思う。
ただ、酔っ払い連中は幸いにも納得したようだった。
「足お大事に〜」と皆大声で言い放ってまた飲み屋街へ消えて行った。体力オバケか。私も同年代の大学生だけど。
「助かりました。ありがとうございます」
“足お大事に、って?”
「え。ああー……大したことじゃないです」
“協力してあげたのにつれないじゃん”
それもそうだ。そうかな?駅に向かいながら説明したら、仕事終わりの榊さんが駅まで湿布持って飛んで来てくれた。
ベンチで湿布を貼ってもらい、タクシー乗り場まで抱えて連れて行ってもらう事態になったので、恥ずかしくて顔から火が出る思いだった。榊さん、容姿は良いから目立つし。
しばらく飲み会行くのやめよ……。


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