03.05.2024〜04.05.2024 ボン旅行記

 これから沢山旅行をするはずなので、旅行記を書いていこうと思う。陸続きなので飛行機に乗らずとも陸路で色々な国に行ける。日本では考えられないことだ。シェンゲン協定に加盟している国同士ならパスポートの提示も必要なく、するっと移動できる。江戸川を渡ったら千葉、みたいな感覚でライン川を越えたらフランスになっている。国境が地理的に引かれているならまだしも、まったく意識せずスイスに入っていた、なんてこともあった。日本がいかに島国で他国と隔てられているかを実感する。
 5月初旬、ボンに行ったときのことを書く。旅行記の体で書くが、一応目的としては研究関係のミーティングがあったので、旅行はそのついでだ。5月3日金曜日、朝7時に家を出る。天気は安定の曇天。テュービンゲン駅まで歩き、ローカル線のMEX18に乗ってシュトゥットガルトへ。朝食がまだなので駅のパン屋でパンオショコラを買い、フランクフルト空港駅行きのICEの中で食べる。ドイツに来てからも家では米を食べることが多いのであまりパンを食べているわけではないのだが、チョコ系のパンは好んで食べている。全体にチョコがかかったクロワッサンも好きだ。1時間と少しでフランクフルト空港駅に到着。別系統のICEに乗り換える。ここからはしばらくライン川沿いを北上する。太陽は一向に見えてこない。ライン川の対岸に村がぽつぽつと現れる。丘の上にどうやって建てたのか分からないような古城も確認できる。川幅はかなり広く、荷物を輸送するタンカーのような船も通り過ぎてゆく。この川がドイツを育んできたのだろうか。
 2時間弱でボンに到着。ボンはベルリンと首都機能を分掌する連邦都市(Wikipedia参照)とのこと。さぞ大きな街なのだろうと想像していたが、駅前は人こそ多いもののさして大きい建物があるわけでもない。ミーティングまで少し時間があるので、腹ごしらえすることにする。店を探すのも面倒だったので、駅にあるマクドナルドに決める。そういえば、ドイツに来てからマックに一度も行っていなかった。店内に入ると液晶券売機が2台あり、内装の雰囲気も日本とほぼ変わらない。中学生くらいの集団が券売機前でたむろしていてなかなか買えそうにない。ようやく自分の番になりチキンバーガーセット5.99€を購入。これでほぼ1000円と思うとマックも気軽に入れない。日本と同じように番号が呼ばれるのを待つ。カウンターに呼ばれると、なぜかチキンバーガーが2つ付いてきた。ちょっぴり嬉しい。慣れ親しんだ味で安心する。
 腹ごしらえを終え、まだ時間があるので旧市街の中央広場に行ってみる。この日はお祭りで様々な出店が軒を連ねていた。日本のお祭りとは違い、手芸品や絵画、衣服などを売っている店が多い。フリーではないがフリーマーケットのような雰囲気だ。飲食物のバラエティーが日本ほど多くないのもあるのだろう。Wurst, Pommes, Döner が何店舗もあっても困る。広場には盆生まれの有名人でおなじみベートーヴェンの像が立っていた。像は黄色や紫の花で囲まれており、ベートーヴェンがこの街の人に愛されているのを感じる。ボンミュンスターも外から眺めてみた。正面から見た姿がゼルダの伝説時のオカリナの時の神殿にそっくりだ。良い時間になってきたのでU-Bahnに乗ってミーティング会場の最寄駅へと向かう。ボン中央駅のU-Bahn地上入り口辺りは、様子がおかしな人がたむろしていたので足早に通り過ぎた。ボンのU-Bahnは、走るとギーッという独特な音がする。年季の入った縦長の車体は、電車というよりバスを彷彿とさせる。ドアが外側に出て開くのも電車にしては斬新だ。
 会場に着くと、日本人の研究者の方々が既に何人か到着されていた。さまざまな分野の日本のトップレベルの研究者の方々と交流できる機会はそう多くない。ミーティングは、研究紹介を交えた自己紹介、ドイツで活躍されている日本人の先生方によるキャリアセミナー、ディスカッションと盛り沢山な時間だった。皆さんの話を聞いていると、ドイツが強い工業分野を専門とされている方が多く、必然性があってドイツに来られている方が多い印象を受けた。自分自身を鑑みると、これまでの研究のさらなる発展を考えたときに、ここだと思えた研究室がたまたまドイツにあっただけなので、本当にたまたまなのである。それぞれの方の経歴、研究レベルも非常に高く、自分がなぜここにいるのか不思議な気持ちになる。ミーティング後は会場併設のレストランで夕食会。ビュフェ形式で、色々なメニューをちょっとずつ楽しむ。小さい頃はビュッフェとなると、いつも食べきれない量をお皿いっぱいに乗せて周囲に呆れられるのが定番だったので、ちょっとした事だが自分が大人になったことを感じる瞬間でもある。先生方にビールを奢ってもらったりもして、久しぶりの賑やかな時間を過ごし、満足して眠りにつく。
 翌日もビュッフェ朝食からスタート。ハムとチーズの種類が多すぎて選べない。ブルーチーズらしきものがあり、あまり食べたことがなかったので試してみる。想像よりクセがなく、パクパクと食べてしまった。食べられないものがほとんど無いのは自分の好きなところのひとつだ。さっと朝食を平らげ、他の研究者の方に軽く挨拶し、会場を後にする。今日はボン南部にあるドラッヘンブルク城周辺を散策する予定。U-Bahn駅に向かう途中で、野生のノウサギを発見する。ピーターラビットが絵本からそのまま跳び出してきたような姿だ。こちらが近寄っても逃げる様子がなく、一心不乱に草を食んでいる。昨日の夕食会でノウサギが生息している話をした手前こんなにすぐに出会えるとは思っていなかった。
 66系統のU-Bahnに30分ほど揺られて、ボン南部のClemens-August-Str.で下車。土曜日の午前中にしては閑散としている。街中の人影はまばらだ。15分ほど歩き、Drachenfelsbahn の駅に到着。街中からは想像できなかったほど人が集まっている山頂への往復チケットとドラッヘンブルク城への入場がセットになった18€のチケットを購入。Drachenfelsbahn はケーブルカーで、これに乗って山を登っていく。2両編成で、1両あたり数十人は入れそうだ。車体は名前の通りドラゴンをイメージした緑を貴重としたデザインで、上部が黄緑、下部が深緑色だ。ドラゴンの背腹ということなのかもしれない。行列ができているので、山頂から戻ってきた車両はすぐにいっぱいになる。山頂に向かう車は基本的に30分間隔で発車するが、満員になったからか予定より早く出発した。ゆっくりじっくり、斜面を登ってゆく。昨年乗ったリギの山岳鉄道を思い出したが、あれはディーゼルカーだった。
 10分ほどで山頂に到着。かなり登ってきたようで、頂上からライン川や川沿いの街、広大な森を眼下に臨むことができる。さらに高いところに城の残骸のような建造物が見えたので登ってみる。この遺跡はワーグナーの戯曲ニーベルングの指輪でジークフリートがドラゴンを倒した舞台となった場所らしく、いたるところにドラゴンのモチーフがあるのはそういうことだったようだ。山頂から15分ほど徒歩で下山すると、ドラッヘンブルク城が姿を現した。19世紀後半に貴族が邸宅として建てたもので、歴史の重みを感じるというよりはテーマパークのお城のような印象を受けなくも無い。中には当時の貴族の生活を再現した展示があり、中でも修道士の卵たちが使っていた教会のような作りの空間が壁のステンドグラスも相まって壮観だ。階段は吹き抜けになっており、周囲の壁には神聖ローマ帝国の皇帝たちが描かれている。一通り中を見た後は東側の塔に登ってみる。30mほどの高さのようだ。一度に塔に入れる人数が20人と決められており、今塔にいる人数がモニタリングされてモニターに表示されている。急な階段を上がり塔の頂上に出ると、広大な空とライン川が一望できる大パノラマが広がる。当時の貴族はこの景色を独り占めしていたのだろう。城に着いたときは曇り空が広がっていたが、まるで龍が通ったように雲が裂けて青空が顔を覗かせていた。
 城を後にして、売店でカリーヴルストを食べる。これがドイツ名物というのには納得がいかない。確かに美味しくはあるのだが、カレーじゃん!と思わず突っ込んでしまう。さらに5分ほど下山すると、ドーム状のニーベルンゲンハルに着く。6€支払って入場。ドラゴン伝説にあやかった爬虫類コレクションのラインナップがかなり充実していて楽しめる。カイマン、アリゲーターなどのワニもいる。ニーベルングの指環のドラゴンも、絵を見る限りかなりワニ寄りだ。
 下山して、U-Bahn駅に戻る途中でジェラート屋に寄る。ジェラート屋に行くといつもミルクアイスにチョコチップが入っているのを頼む。近頃、同じ味のものを各地のジェラート屋で試している。基本的にどこで食べても美味しいのだが、ミルクが店によって個性があるので毎回楽しみにしている。U-Bahnに乗ってボン中心街に戻り、ベートーヴェンの家に立ち寄ろうと思ったが、入場料が14€もするので取りやめる。ドイツの観光地の入場料は総じて高い気がしている。教会は無料の場合が多いが、これは信者の寄付に依る部分が大きいのかもしれない。観光地として売り出しているところは、取るもの取って維持する意識が根付いているように見える。帰りの電車までまだ時間があるので、駅近くにあるHARIBO専門店を覗いてみる。HARIBO本社がボンにあるのを今まで知らなかった。あまりのグミの種類に圧倒されて、結局何も買わなかった。やっぱり、グミのことをドイツ語で Gummibären と呼ぶ理由はここにあるのだろう。
 IC2048は、ボン中央駅からテュービンゲンまで乗り換えなしで帰れる優れものなのだが、朝ドレスデンを出発してほぼ1日かけてテュービンゲンに向かうためどうしても遅れがちのようだ。この日も例外なく1時間ほど遅れてボンに到着した。こちらに来てから、日没後に出歩いていなかったので、車窓から見えるシュトゥットガルトの遊園地で光るネオンの明かりが鮮やかに映った。

ドラゴンが通った跡

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