タンデムパートナーとヴィルヘルマ動物園へ。

 僕にはタンデムパートナーがいます。せっかくドイツに長期滞在するのだから、少しはドイツ語を理解して現地の人と意思疎通できるようになりたいと渡航前から思っていました。マックスプランク研究所は、世界中から研究者が集まっています。ですので、学びたい言語を母国語としている人を探しやすいです。研究所の国際課は、タンデムパートナーのマッチングも行っています。当然ドイツ語話者は多いのですが、日本語を学びたい人となるとはっきり言ってほぼいません。実際に、今研究所内で日本語を学びたいドイツ語話者はいないようでした。しかし、研究所に勤めているあるポスドクの旦那さん、その方は研究所で働いてはいないのですが、その方が日本語を学びたいという情報を聞きつけます。国際課の方にすぐに彼とメールで繋げてもらい、知り合うことができました。
 彼は僕よりも10歳ほど年上です。小さい頃から日本のゲームに親しんでおり、今でも時間を見つけてはさまざまなタイトルをプレイしているようです。日本の特撮にも興味があり、僕自身はあまり知識はないのですが、特に仮面ライダーが好きでよくTシャツを着ています。向こうが日本の文化に興味を持ってくれているのは、会話の取っ掛かりも見つけやすく、ありがたいです。彼は2週間に一度、テュービンゲン大学に在籍している日本語が堪能なドイツ人の先生に日本語を教わっているようです。8月末から1ヶ月ほど奥さんと日本に旅行に行くので、それまでに日本語のレベルをもっと上げたいと思い、僕とタンデムパートナーになってくれたようです。
 都合が合えば、週に一度は直接会ってカフェやレストランに行ったり、お宅にお邪魔したりしています。食事の後は、お互いが勉強してきた文章を、より自然なドイツ語/日本語になるように添削し合います。また、拙くても良いからとにかくドイツ語/日本語で話したいことを話しています。説明の際やどうしても表現できない時は、英語を交えながらコミュニケーションを取ります。普段もLINEでやり取りをしながら、メッセージを添削し合っています。
 先日、彼と一緒にシュトゥットガルトにあるヴィルヘルマ動物園に遊びに行きました。彼もヴィルヘルマに行くのは初めてのようです。当日は朝7時に家を出て、近くのバス停で合流し、テュービンゲン駅からMEX18に乗ってシュトゥットガルトへ向かいました。友人と動物園に行くなんて、何年振りでしょうか。子供の頃に戻ったようです。いつものようにドイツ鉄道は遅れますが、その間もお互いに勉強してきた成果を見せ合い、有意義な時間が流れます。シュトゥットガルトの一駅手前のBadcanstattでU バーンに乗り換え、Wilhelma駅で下車。動物園は駅の目の前にあります。
 ひとり23€を支払い、入場。入場料はケルナー動物園と同じです。ドイツの動物園の入場料の高さにも慣れてきました。入り口のゲートを通ると、左手に温室が現れます。この温室では、植物のみならず多種多様な鳥も多く見ることができます。温室はかなり長く続いており、ここで長居してしまうと園内全てを見て回るのにかなり時間がかかってしまいそうです。さーっと見て、次のエリアに移ります。
 シュトゥットガルトの街は全体的に丘がちで、ヴィルヘルマ動物園も傾斜に富んでいます。そのため、地元にある多摩動物園に構造がよく似ており、非常に親近感を覚えました。入り口から奥に進むにつれて、軽くハイキングをしているような気分になります。また、園内に貴族の邸宅のような建物が散見されます。動物園のために建てたというよりは、もっと昔からあるような雰囲気を醸し出しています。もともと、王族の私園だったところに19世紀に造られた動物園だそうなので、かつての王族ゆかりの建物が残されているみたいです。多摩動物園にある、インドの宮殿のようなライオンバスの発着所を思い出しました。
 園内を巡っていると、所々で彼がドイツ語で動物の解説をしてくれます。ヴィルヘルマ動物園はコアラで有名なのですが、ドイツ語でコアラは Koala というのに加えて、Koalabär と呼ぶこともあるそうです。クマとは全然遠い種だと思いますが、見た目でbärをつけたのでしょう。グミのことをGummibärenと呼んだり、これはHARIBOの影響が強いとは思いますが、ドイツ語とクマとの関係の深さが面白いです。
 ヴィルヘルマは、ネコ科の種類も豊富です。ライオンやヒョウをはじめ、チーターやサーバルがいます。この点も、多摩動物園に似ており、より親近感を覚えました。さらに、ケルナー動物園でも見たユキヒョウをヴィルヘルマでも見ることができました。日本だと結構珍しいと思うのですが、ドイツの動物園では一般的なのでしょうか。気候がより生育に適しているのもあるのかもしれません。ただ、この日はかなり暑かったので、石で作られた洞窟を模した所でぐったりとしていました。
 園内にはレストランも複数あり、キオスクのような軽食販売所も点在しています。レストランで昼ごはんを食べようとも思ったのですが、動物園価格でちょっとお高めです。シュトゥットガルト市街に出れば、いくらでもチェーン店などがあるので、食事は動物園を出てから取ることにしました。2時間くらいで回れるかと思ったのですが、2人ともじっくり見るタイプで、ケルナー動物園の時のように4時間ほど滞在していました。動物園は本当に時間を忘れて楽しんでしまいます。
 動物園を後にし、Uバーンに乗ってシュトゥットガルト市街に出ました。現在、ドイツの各都市はEURO2024という欧州の国別対抗サッカー選手権で大いに盛り上がっています。というのも、今年はドイツが大会のホストなのです。ドイツは各都市に数万人を収容できる巨大なスタジアムがあります。シュトゥットガルトにも、メルセデス・ベンツ・アリーナというどでかいアリーナがあります。この日はドイツvsハンガリー戦で、ホームゲームだったこともあり、街はサポーターで大いに賑わっていました。僕はサッカーのことはよく分かりません。パートナーに聞いてみると、なんと彼もあまりサッカーが好きではないというのです。細かく聞くと、サッカーが嫌いというより、大きな大会の時だけ騒ぐ観客が嫌い、ということのようです。その気持ちはよく分かります(笑) これだけサッカーがメジャーな国ですので、複雑な感情もあるのかもしれません。とはいえ、せっかくの機会ではあるので、駅の近くに設置されたEURO2024の大きなオブジェと一緒に写真を撮ってもらいました。ミーハー全開です。
 バーガーキングのワッパーを頬張りながら、シュトゥットガルト中央駅に戻ると、何やら物凄い人だかりができています。サポーターが既に盛り上がっているのかなぁと思いながら横を通り過ぎようとするも、人の集まり方に違和感を覚えました。どうやら、サポーターは駅前のホテルの前に集中しているようです。ホテルの前にはEURO2024のロゴとドイツ国旗が描かれたバスが停まっており、異常な数の警官も集まっていました。これはもしやと思い、スマホのカメラを構えました。バスが発進すると、サポーターが一斉にバスを追いかけはじめました。実際に誰が乗っていたかはわかりませんが、おそらく、ドイツ代表だったのではないかと思います。サッカーに興味がない我々がこんな現場に遭遇してしまったのは、神様のいたずらでしょうか。サッカー好きの日本の友人に動画を送ると、羨ましいオブザイヤー2024上半期の部大賞を受賞してしまいました。

日本のミーハーです

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