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「ドクタースランプ」 - 善き心で人生の苦難を越えていく再出発の物語

★★★★★

キャスト、設定、ストーリー、間違いのない良ドラマでした。のめり込んで観るというより、毎週末に待っているささやかで温かい癒しという感じ。すべてはふたりの主人公が人生の大トラブルに見舞われるところから始まりますが、自分を信じてくれる相手がいることで互いにいつも小さな希望は持ち続けることができて、どんなに不幸な状況であってもその分幸せの実感が何倍にもなるような、そんな物語。良い人もたくさん登場しますが、価値観が決して相容れない人もいれば、良い人だけど病んでしまっている部分がある人もいる。それがどこかリアルで、人間関係の酸いと甘いも詰まっていました。何よりパク・シネの芯が強く優しいハヌル、パク・ヒョンシクの明るくて素直なジョンウ、主人公ふたりのキャラクターが魅力的で、ふたりを観てほっとする時間が愛しかったです。

あらすじ

2009年、釜山の海街で天才児と呼ばれるナム・ハヌル(パク・シネ)は、徹底的な猛勉強で模擬試験で全国一位を取るほどの秀才。韓国大の医学部へ進学したい彼女は、母親にソウルへの引っ越しを提案します。その後、ハヌルが転入した学校には同じく模擬試験で満点を取りずっと全校1位をキープしているヨ・ジョンウ(パク・ヒョンシク)がいましたが、ハヌルの登場で1位の座を奪われ猛烈なライバル心を燃やすことに。ハヌルに対抗してあらゆる時間を勉強に注ぎ込む生活を送ります。

親も医者で順風満帆の人生を送るジョンウは14年後、医者になりたまたま出演した海外ボランティアのドキュメンタリー番組で一躍有名になり、登録者数100万人以上のYouTuberかつ提携クリニック10ヵ所以上というスター美容外科医になっていました。

一方で韓国大にまさかの不合格、デハン大学を卒業したハヌルは、大学病院の麻酔科医になっていました。相変わらず仕事に没頭し、ブラックな環境を必死に過ごすハヌルですが、先輩医師(オ・リョン)のパワハラや無茶振りに心身ともに疲弊しきっている状況。ある日、横断歩道の真ん中で起き上がれなくなりトラックに轢かれそうになった彼女は病院へ搬送され、胆嚢が見つかって摘出することに。それでもがむしゃらに働き続けるハヌルでしたが、目指していた准教授の座を他の医師に奪われ、心の限界を感じます。

ジョンウはマカオからやって来た患者の整形手術中、なぜか患者の出血が止まらなくなり、懸命の処置も虚しく死亡させてしまう事故を起こします。しかもその手術中なぜか監視カメラが作動しておらず、遺体からは抗凝固剤が検出され、ジョンウの殺人まで疑われるピンチに。まったく心当たりのない彼は無実なのだから証明されると楽観していましたが、物事はうまく運ばず、YouTubeチャンネルを管理していた幼馴染たちからも10億ウォンの損失を支払えと言われ、病院も不動産もすべて売り払わなければならない状況に追い詰められます。ジョンウにとって味方は昔からの付き合いで兄のような存在の先輩医師ミン・ギョンミン(オ・ドンミン)だけ。実の親すら彼のために駆けつけてくれることはなく、絶望の淵に立たされます。

トラックに轢かれそうになったときにいっそ死んでしまおうとした自分を危ぶみ精神科を訪れたハヌルはうつ病の診断を受けます。そのことがまたショックなハヌル。医者になった自分をことさら自慢にしている家族に相談できるはずもなく、職場ではパワハラ上司と自分の出世が最優先だったり腫れ物に触ろうとしない同僚ばかり。彼女もまた袋小路にいました。

その後、ビールでも飲もうと自宅の屋上へ上がったハヌルは、そこに荷物を置いて立っているジョンウを発見します。家も手放したジョンウはまさかのハヌルの家の屋上部屋に越してきたのです。高校時代に何かと自分に対抗心を燃やして突っかかってきた最悪のライバルを眼の前に呆然とするハヌルですが…。

青春と現在の苦境を共にする運命の出会い

序盤はハヌルとジョンウの高校時代の(微笑ましい)ライバル関係と、それぞれが迎えている深刻な現状とが丁寧に描かれていきます。眩しい未来しかないはずだった頃と、どん底の今との対比でもあり、成績がすべてだった幼い時期と、苦境を経験しているからこそ人間同士として互いを見ることができる大人になった現在の違いも面白いです。

天敵だったとは言え、ジョンウがそもそも良い人間であることはまったく疑わないハヌル。それもまた彼女の感性や観察眼が優れているからこそなのかもしれません。そしてそんな風に曇りなく信じてくれるハヌルに救われるジョンウは、勉強ロボットのように思っていた彼女が実は期待に応えるために自分の多くを殺してきたことを知り、自分の望むまま生きるよう励ますのです。シンプルに自分の目で見たものを信じるハヌルと人一倍共感力の高いジョンウは、まさにお互いがもっとも必要なタイミングで出会ったと言え、必然的に心を通わせることになります。その展開が本当に自然で気持ちよく、人間ドラマとしてもラブストーリーとしても文句ない仕上がりだと思いました。

何せパク・シネとパク・ヒョンシクの組み合わせが強い。青春ドラマの理想のカップルみたいなふたりが、10代の心も維持しつつ、ふたりの大人として恋を育んでいく姿はひとつ完成された世界になってます(ふたりとも何の違和感もなく制服を着こなしているのは驚嘆しますが)。

そして失敗したり立ち止まって動けなくなってしまったり、人生において誰にでも起こりうることを、このふたりが互いの存在と各々の強さによって乗り越えていく物語にはすごく力をもらえる気がしました。乗り越えたあと、ふたりがそれぞれにちゃんと変わることができているのも響きます。もちろん周りがそれだけ手を差し伸べてくれる環境にふたりがいたとも言えますが、いつだって人生に絶望する必要はないのだと信じられるような、ぬくもりのある結末に到着します。

ハヌルとジョンウを囲む愛情

ちなみにサイドで展開するジョンウの同窓生デヨン(ユン・バク)とハヌルの親友ホンラン(コン・ソンハ)のロマンスもほのぼのしていて大好きです。ユン・バク、「気象庁の人々」のようなクズ男の役のときさえどこか愛嬌があって憎めないキャラクターで、いるだけでとても和みます。本作でも単純ゆえにジョンウを信じ、助けてくれる重要な存在。観ていて救われる人物のひとりでした。ホンランがいてくれることでハヌルも大丈夫だと安心でき、このカップルは本当に素敵。ハヌルの家族がまた素朴でとにかく情に厚く、家族に恵まれなかったジョンウがハヌルと出会えて良かったとしみじみ思ってしまいました。

軽快なテンポもありますが、いろいろな人の愛情が太陽のように明るさをもたらしてくれて、最初から最後まで優しい一本。苦しい時期を迎えることがあったらまた観てみたい、そんな気持ちになりました。

(日本人ならタイトル聞いて「アラレちゃん!?」となりそうですがそれは関係なく、まさに「ドクター」の「スランプ」の話です)



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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし



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