ピンク色のゾウ
3つ年上の兄には、色覚異常がある。色覚異常とは、一般的に見えている色とは異なった色に見えている状態のこと。
たとえば正常な人が見ている信号の色は、赤・青・黄色だが、色覚異常の人にはそう見えていなかったりするらしい。
日本人では、男性の20人に1人、女性では500人に1人の割合で色覚異常の人がいるといわれている。(出典:日本眼科医会)
度合いにもよるが、日常生活に支障をきたすこともあるという。兄は軽度だったようだけど、両親はとても敏感になっていた。兄のことをいつも「かわいそう」と言っていたし、わたしが色にまつわる話をしようもんならすごい剣幕で怒られた。
*
小学2年生のある日、私は行きつけの文房具屋で画用紙を選んでいた。その文房具屋は洒落ていて、真っ白の画用紙に「白」とは名付けず、「トキ色」と名付けたりする。
「なんておしゃれなんだろう」
トキ色の画用紙を購入し、ルンルンと帰宅。この小さな喜びを誰かに伝えたくて、私は兄にクイズを出した。
「これ何色でしょう?」
「白じゃないの…?」
期待通りの答えが返ってきて嬉しくなった。
「ブブーッ!あのね...」
その瞬間母親の怒声が飛んできた。
「いい加減にしなさい!お兄ちゃんがかわいそうでしょう!」
なぜ怒られたのか理解した私は「ごめんなさい」と謝ったけれど、「からかうつもりで聞いたんじゃないのに」と、いじめっ子のような扱いに酷く傷ついた。
同時に疑問も浮かんだ。
「お兄ちゃんは本当にかわいそうなの?」
両親からかわいそうと言われるたび、兄の背中は丸まって、しょんぼりした表情になっていたことを今でも覚えている。
*
ある日、小学生5年生だった兄が学校で描いた絵を持って帰ってきた。
画用紙いっぱいに空と太陽と草原が描かれていて、そこに佇むのは大きなピンク色のゾウ。
色彩感覚は独特で、ゾウも空も太陽も私が知っている色じゃなかったけど、「なんて素敵な絵なんだろう」と思った。
兄は全然かわいそうなんかじゃない。
だって、こんな素敵な絵を書けるんだから。
小学校低学年だった私の記憶にすら鮮明に残るほど、素敵な絵を書くんだから。
先日兄が、インスタグラムに自身が描いた絵を投稿していた。水色のグラデーションが綺麗な動物の絵で「やっぱり上手だなあ」と感動した。
「人と違っているからかわいそう」
「普通じゃないからかわいそう」
そうは思わない。
私は兄が描く絵や色使いが大好きだ。
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