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ピンク色のゾウ

3つ年上の兄には、色覚異常がある。色覚異常とは、一般的に見えている色とは異なった色に見えている状態のこと。

たとえば正常な人が見ている信号の色は、赤・青・黄色だが、色覚異常の人にはそう見えていなかったりするらしい。

日本人では、男性の20人に1人、女性では500人に1人の割合で色覚異常の人がいるといわれている。(出典:日本眼科医会

度合いにもよるが、日常生活に支障をきたすこともあるという。兄は軽度だったようだけど、両親はとても敏感になっていた。兄のことをいつも「かわいそう」と言っていたし、わたしが色にまつわる話をしようもんならすごい剣幕で怒られた。

小学2年生のある日、私は行きつけの文房具屋で画用紙を選んでいた。その文房具屋は洒落ていて、真っ白の画用紙に「白」とは名付けず、「トキ色」と名付けたりする。

「なんておしゃれなんだろう」

トキ色の画用紙を購入し、ルンルンと帰宅。この小さな喜びを誰かに伝えたくて、私は兄にクイズを出した。

「これ何色でしょう?」

「白じゃないの…?」

期待通りの答えが返ってきて嬉しくなった。

「ブブーッ!あのね...」

その瞬間母親の怒声が飛んできた。

「いい加減にしなさい!お兄ちゃんがかわいそうでしょう!」

なぜ怒られたのか理解した私は「ごめんなさい」と謝ったけれど、「からかうつもりで聞いたんじゃないのに」と、いじめっ子のような扱いに酷く傷ついた。

同時に疑問も浮かんだ。

「お兄ちゃんは本当にかわいそうなの?」

両親からかわいそうと言われるたび、兄の背中は丸まって、しょんぼりした表情になっていたことを今でも覚えている。

ある日、小学生5年生だった兄が学校で描いた絵を持って帰ってきた。

画用紙いっぱいに空と太陽と草原が描かれていて、そこに佇むのは大きなピンク色のゾウ。

色彩感覚は独特で、ゾウも空も太陽も私が知っている色じゃなかったけど、「なんて素敵な絵なんだろう」と思った。

兄は全然かわいそうなんかじゃない。

だって、こんな素敵な絵を書けるんだから。

小学校低学年だった私の記憶にすら鮮明に残るほど、素敵な絵を書くんだから。


先日兄が、インスタグラムに自身が描いた絵を投稿していた。水色のグラデーションが綺麗な動物の絵で「やっぱり上手だなあ」と感動した。

「人と違っているからかわいそう」
「普通じゃないからかわいそう」

そうは思わない。

私は兄が描く絵や色使いが大好きだ。

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