[短編小説]マスクの奥から 3話

マスクの奥から見えるものを探していた。
コロナによって僕たちの顔は一枚の紙で覆われ、人の表情が分らなくなった。表情だけじゃない。それが分らないということは、その人の心情まで考えるのが難しくなった。
目の動きや声のトーンだけで目の前にいる人の心情を判断する。そんなことを当たり前かのように、毎日無意識に行っている。いや、そのようにせざるを得なくなっている。
だから、本当に助けが欲しいときでも、目だけ笑っとけば周りの人間には気づかれにくかったりする。
親友のれんが死んで、マスクが透けて見えるという能力を持ってから、そんな世界線で生きていた事に気づかされたのだ。

なぜれんが亡くなったのか分らないが、堀岡さんと話しているうちに、この能力の本当の正体について分かった。
このマスクが透けて見えるという超能力を使ってもマスクが透けない人は、何かしら心の問題を抱えている人、ということが分かったのだ。
あともう一つ、堀岡さんがれんに助けられていたということも分かった。

堀岡さんは中学の時から、明るくてみんなの人気者。
当然、高校に入っても持ち前の明るさですぐにクラスになじんでいた。未だにクラスになじめない僕とは対照的だ。
そんな風に思っていた。何もかもが上手くいっているようなイメージ。
そんな堀岡さんがれんに助けられた??
マスク越しからも伝わる満面の笑み。
でも、たかがマスク越しからの笑顔に過ぎなかったのだった。

堀岡さんがいじめられていた。

そんな衝撃の事実を本人の口から聞くことになる。
人の気持ちなんて、顔全体見てもわかりにくいのに
マスクで覆われるなんてしたら、、、
みんな嘘の笑顔にだまされていたのだ。

堀岡さんは事の詳細を話してくれた。

「実は私、れんのことが好きでさ、よくれんと話しとったんよ。」
「あー、うん。」
「で、れんって人気やんー?、だからそれをよく思わんかった女の子がおったんよ。」
「あ、なるほど。」
「まーその女の子のグループに、無視されたりいろいろ嫌がらせされてて、それをれんが助けてくれてん。別に自分から言ってないし、嫌がらしされてること知らんはずやのに。」

堀岡さんがいじめられていたなんて、クラスの男子はほとんど気づいていなかったのではないか、っていうくらいいつも通りの笑顔だったので、堀岡さんが言っているとおりれんが気づいていた可能性は低い。なのに分かったのは、今僕も持っているこのマスクが透けて見える能力のおかげだろう。

今現在、この能力を持っていると分っているのが、僕とれんと堀岡さん。堀岡さんはいじめられていたときに関してはこの能力を持っていなかったらしい。れんに助けてもらって精神も回復した後、この能力を持ち始めたとのこと。

まってくれ。もし堀岡さんが言っていることが、この能力を得る所以ならば、心に問題がなくなった人からこの能力を持つことになる。じゃあなんで僕はこの能力を持っているのか。何か精神疾患にかかったわけではないし、それらしきものが回復した覚えもない。
なんなら、れんが死んで鬱になりかけているくらいだ。

あと、れんがこの能力を使って堀岡さんを助けたとするなら、
れんからみた堀岡さんのマスクは透けていなかったということになる。

んじゃあなんでれんは、この能力を使ってもマスクが透けなかった人は何かしら問題がある人だと思ったのか。
普通に生活していて気づくものではない。

これを知ることが出来れば、れんが死んだ真相にもたどり着けそうなのに。
これ以上は堀岡さんも知らないようだ。

この能力のことしか分からないのか。
そんなことを思っていたそのとき、
担任の先生が話に入ってきた。











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