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本の紹介『わたしの山旅』

著者は日本における近代アルピニズムの開拓者、槇有恒(まきゆうこう、アリツネとも)

登山が好き。読書が好き。となると自然と手が伸びてしまう山の本の一冊です。

この本は著者の山行記である一方、自伝のような一冊でもあります。

山好きとして、少しでも魅力を発信したい思いから、本書より著者の思う山の魅力を引用します。

登山は登頂が大きな魅力であるのはいうまでもない。と同時にこの高さのつくり出す環境の変化は、植物にも動物にも変化を与える。この変化を楽しみことも登山を豊かにする大きな魅力である。寒冷な気温、短い夏、激しい天候などによって生物の生態が平野のものとはすっかり変わってしまう。この変化が山の様々な美しさの内容を形成もしている。山が好きだという言葉の中には登頂の楽しみだけでなく、山の生物も、山の姿の厳しい美しさも、雲や雪のつくり出す変化もみな一緒になっての魅力なのである。

P20~21

山頂を目指さないトレッキングやハイキングの楽しみ方もありますが、達成感ということ以外に、高度差による環境の変化などはやはり著者の言うように山頂を目指す登山の醍醐味ではないかと思います。

本書で紹介されている山行は、スイスアルプス、北アルプス、カナディアン・ロッキー、ヒマラヤなど主になっていますが、先ほど登山の魅力を紹介した一方で、もう一つ紹介させていただきたいのは第6章「ある遭難の記録」です。

ここでは著者が登山仲間と冬の北アルプス・立山にて遭難した記録が記されています。吹雪に見舞われ、進退窮まり遭難し、結果的には仲間のうち一名が低体温症で命を落としてしまいます。

ここでの描写が物凄くリアルで、まさに風前の灯火の命が消えゆくその時、その息遣いまで鮮明に描かれており、この章を読み終えた時の呆然とした気持ちになったのをよく覚えています。

登山は様々な喜びや楽しみを与えてくれる一方で、やはりこのような厳しい場面に遭遇してしまう可能性もあることも事実です。

上記のように本書は著者の登山人生を通して、山の持つ陰と陽を教えてくれる一冊になっていると感じました。


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