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「過去未来報知社」第1話・第52回

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>>第51回
(はじめから読む)<<第1回
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「へぇ、映画、ですか」
 若詐欺、飯島は煙管をポン、と叩いて微笑んだ。
「六合で撮影なんて、50年ぶりじゃないかな」
「え、そんなに」
 飯島の家は商店街がちょうどあけたところ、
 まるで商店街と住宅街の門番のような場所にあった。
 六合荘まではいかないがかなり大きな和風建築で、
 立派な門までついている。
 商店街会長と町内会長を兼ねているんですよ、とは
 お手伝いのお姉さんの言。
 何をやっているのかは知らないが、随分と余裕のある暮らしぶりだと
 笑美は家屋を一瞥して思った。
 ふ、と応接室の暖炉(があった。火はくべられていなかったが)の上に置かれた
 古びた写真立てが目に付いた。
 古風だが目鼻立ちが整った二人の男女が仲睦まじく立っている。
 その微笑みには、素人離れした輝きが宿っていた。
「いいですよ、貸しても」
「あ、ありがとうございます」
 また面倒ごとを言われるのでは、と身構えていた笑美は、
 意外と簡単に出た飯島の言葉にほっとする。
「但し、何が起きても保障はできませんけどね」
「……え」
「あそこは随分長い間立ち入り禁止にしていたから、
 整備も何もできていないし……」
「いないし?」
 遠い目をした飯島に笑美は身を乗り出す。
「それに……いや、なんでもないです」
「なんですか。
 わか……、飯島さんのそういう言い方、凄く気になるんですけど!」
「前に六合で映画撮影があったことは知ってますか?」
「はい、東谷に聞きました」
「その映画が公開中止になったことも?」
「ええ。なんでかは教えてくれませんでしたけど」
「そう。それから?」
「それから?」
「それ以上の事は?」
「何かほかに、あるんですか?」
 眉をひそめる笑美に、飯島は意味深な笑みを浮かべる。
「いや、聞いてないならいいんですよ」
「やだなあ。何かあるなら行っておいてくださいよ。
 妖怪が出るとか、お化けが出るとか」
「出てくれることを期待してるんだけどね」
「……え?」
「いや、こっちの話。いいですよ、はい、これでOK」
 書類にサインして渡す飯島。
「ところで、この撮影。役場の担当は誰です?」
「私ですよ」
 さらり、と言う笑美をしげしげと見つめる飯島。
「あなたが、ねぇ」
「? 何か問題でも」
「いいえ。一番、あっているのかもしれない」
「はあ?」
 怪訝な顔をする笑美に、飯島は腕を組んで頷いた。
「そうか。あれからもう、50年も経つのか……」
 暖炉の上の写真たてを見つめる飯島の顔には、
 懐かしさとともに複雑な表情が浮かんでいた。

>>第53回

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