「過去未来報知社」第1話・第51回
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「は? 映画撮影?」
「言わなかったっけ?」
書類の山から顔を上げた笑美に、狸の信楽焼きを磨きながら答える東谷。
「っていうより、その狸、どこにあったんですか……」
「アカシの撮影の時に、説明しなかったっけ?」
「聞いてません。アカシの撮影の時だって『街の案内してね』って言われていったら、
ロケの案内だったんですよ!」
「そうだっけ?」
涼しい顔で狸を磨き続ける東谷に、笑美はため息をつく。
「まぁ、もう、いいですけどね……」
「で、その面倒も、うちに見て欲しいって話がきたわけ」
「うちに、っていうか、私に、ですよね」
ぐっ、と親指を立てて見せる東谷。
はなから自分でやるつもりはないらしい。
「で、これがその撮影許可申請書、ですか」
「そ。頼むね」
「はいはい……ってあれ?」
「なに?」
「これ……。六合荘が入ってるんですけど」
「あ、ほんとだ」
笑美の私的に、東谷は書類を覗き込む。
「バカだなぁ。六合荘が写るわけないのに」
「え?」
顔を上げる笑美に、しまった、と東谷は口を抑える。
「それ、どういうことですか?」
「僕、今何か言ったっけ?」
しらっとした顔で狸に向き直る東谷。
「……まさか、ここにも許可とれって言うんじゃないですよね?」
「申請がきてるんだから、一応話通さないとダメじゃないの?」
「はあ……」
柱にしがみつく大家を思い出し、笑美は陰鬱な表情で口を尖らせた。
「おりないとおもいますけどね、許可」
「まあ、やってみてよ」
「鋭意努力します。あとは……公園とか森とかは役場で確認して……、
ってあれ、この私有地って?」
「ああ、それは飯島さんの所の土地だね」
「飯島さん?」
「三隠居のリーダー」
あ、若詐欺か、と言いかけて笑美は口を閉じる。
「ここって……、あ」
東谷が一瞬、真面目な顔つきになる。
「何か問題が?」
「……いや、なんでもないよ」
またいつものにやけた顔に戻ると、東谷は窓の外を眺める。
「今日もいい天気だな~」
「散歩がてら、仕事してきたらどうでしょうかね」
書類をまとめると、笑美は鞄を手に立ち上がる。
「出かけるの?」
「だから、その、飯島さん、に許可とってくるですよ」
「えみみんは働き者だね~」
「ふつう、です!」
言い捨てると、ズカズカと部屋を出て行く笑美。
東谷は改めて、青く澄み切った空を見上げた。
「本当にいい天気だ。……あの日と、同じぐらい」
>>第52回
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