「過去未来報知社」第1話・第1回
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「ここが、六合町……」
自身の身の丈程もありそうな巨大なトランクを転がしながら改札を出た笑美は、駅前ロータリーを見渡した。
そう大きくはない、しかしトロリーバスが進路変更するぐらいはできる程度の大きさのロータリーには、仕事帰りのサラリーマンや、学校帰りの中高生がまばらに歩いている。
時刻表を見る限り、そうバスの本数は多くない。一時間に4本程度か。
それもそのはず、夕陽に照らし出される駅前商店街は出口までが見通せるほどの大きさで、どこからか流れてくる豆腐屋のラッパが郷愁を誘う。
ほぼほぼ、ベットタウン化しているのであろう。
電車で2~3駅も乗れば大型ショッピングモールがある街にも出ることができるが、この六合町はそんな世界とは、一歩離れたところにある、よく言えば穏やかな、ぶっちゃければ田舎の風情を漂わせていた。
笑美は手元のFAXを見る。
不動産屋の手書きなのか、読みにくい文字と不鮮明な地図によれば、駅から歩いて5分の場所が目的地のはずである。
笑美は一つため息をつくと、ごろごろと音を立ててトランクを引きずり歩きだした。
明滅する街頭が並ぶ通りに、そのアパートはあった。
まるで紙でできているのではないか、と思うほどに薄っぺらい印象の屋根と壁。
風が吹けば「三匹の子豚」の兄豚の家のように吹き飛んでいきそうだ、と笑美は疲れ切った頭の片隅で思う。
駅から5分は実は15分、というのはよく聞く話だが、結局45分かかったのである。
いやいや、日が沈みきる前にたどり着けたのは上出来だった。
笑美はそんな風に思い直すと、平均よりもかなり小さい笑美の体でもギシギシと音を立ててたわむ階段を、おそるおそるトランクを引っ張り上げながら上った。
部屋は二階なのである。
踏み板が抜けなかった事に奇跡を感じながら、笑美は真新しい鍵をポケットから引っ張り出す。
ーー さあ、新しい人生の始まりだ。
意気揚々と鍵穴に鍵を差し込もうとした笑美の手が、ふと止まる。
ーー 部屋の中から、音が聞こえる。
よく見れば、ドアの上の透かしガラスから灯りが漏れている。
笑美はFAXを再び引っ張り出した。
202号室。
再び部屋のドアを見る。
202号室。そしてその隣に、表札がかかっていた。
「猪俣義男・圭子」
「……え?」
笑美の視線が二度、三度、FAXと表札を行き来する。
ガチャ。
笑美に動揺する余裕も与えず、あっけなくそのドアは内側から開いた。
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