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「過去未来報知社」第1話・第29回


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#Xmas2014
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>>第28回
(はじめから読む)<<第1回
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「だから、妖怪がいるんだって」
 笑美はおざなりに頷いた。
 これが年端もいかない少年少女なら微笑ましいところだが、
熱弁をふるっているのは喜寿を過ぎた大先輩である。
「そうですね、全部妖怪の仕業、ですね」
「なんたらウォッチの話をしてるんじゃないよ」
 恵比寿顔の老婆がぴしゃり、と言う。
「このお茶、安物なんじゃなの?」
 サンタクロースの様な髭を蓄えた老爺がのんびりと語る。
『六合三隠居』東谷の俗称である。
 笑美は年長の老人=若詐欺、ふっくらした老婆=恵比寿、細身の老人=サンタ
と呼ぶことに決めた。
 若詐欺はなおも言い募る。
「妖怪がね、クリスマスに商店街に物を置いていくんだよ」
「ちょうどシーズンでいいじゃないですか。タイムリーで」
「あんた、真面目に聞く気あんの?」
 詰め寄る恵比寿。
 朝からこんな調子で、もうすぐ昼になる。
「六合荘の大家さんに相談してみたらどうでしょう?」
「若旦那にこっちに行くように言われたんだよ」
 あの野郎。笑美は喉まででかかった言葉を飲み込んだ。
 大家の不勤労精神は更に拍車がかかったらしく、
六合荘の扉ごと常に施錠されている始末である。
 そのくせ笑美が帰ると、ドアベルを鳴らす前に必ず誰かが鍵を開けてくれる。
 不思議に感じないでもなかったが、笑美はだんだんと「六合荘ならなんでもあり」
と思うようになっていた。
 つまりは、軽い現実逃避である。
 そこへもってきてこの三隠居の襲来は、結局世の中はそううまくできていない、
ということの証明のようだった。
「あんた、新しい相談役なんだろ?」
「私はここの事務担当員です!」
 忘れかけていたけどな! と笑美はPCの前に山積みの書類を叩いてみせる。
「見えますか。この書類を打ち込むのが、本来の私の仕事です!」
「いいじゃないか、そんなの~」
「誰が必要としているわけでもないし」
「そもそも、俺はパソコン、使えないしな」
「そうだ、そうだ。ちゃんとお話を聞いてあげなさいよ」
「三人はともかく、東谷課長! なんであなたまで!」
「だって、君が聞かないとこっちにくるでしょう」
「課長が聞けばいいじゃないですか!」
「ご老人のお相手は、若者の方が喜ばれるんだよ」
「そうそう」
「わかってるね、東ちゃん!」
「どうせ絡むなら、可愛い子のほうがいいに決まってる」
「絡んでるんですか!」
 笑美は立ち上がり、書類の山が倒れた。

>>第30回

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